今日のフォーカス
会員数が伸びるほど赤字が広がる教育系サブスクを、Where to Play/How to Win/Capabilitiesの3要素で診断する(Q1)、大口顧客からの値下げ要求に対しアクティブリスニングと相手モデル構築で本当の懸念を引き出し価格以外の着地点を設計する(Q2)、ゲームスタジオの収益モデル崩壊をBMCとロジックツリーで診断し、経営会議にはSCQA、クリエイティブ責任者にはDESC法で、結論を一致させたまま伝え方を変える(Q3)。今日のカギは「答えを急いで対症療法に飛びつく前に、まず構造を正しく診断する」という姿勢。
Where to Play / How to Win / Capabilities
3要素は独立ではなく一直線の因果でつながる。1つを変えれば他の2つも再設計しないと整合が崩れる。
相手モデルの構築×アクティブリスニング
相手のゴール・懸念・重視点を先に聞き取ってから、初めて条件面の提案を組み立てる。反映・明確化・共感の表明が入口。
BMC×ロジックツリー×SCQA×DESC法
収益モデルの崩れをBMCとロジックツリーで診断し、経営会議にはSCQA、現場にはDESC法で伝える。伝え方は変えても結論は一致させる。
会員数はこの1年で3倍に伸び、投資家からは「成長は順調」と評価されている。しかし損益を見ると、会員が増えるほど粗利率が悪化している。原因は「添削」にある。当初は少人数の専門講師が担当していたが、会員急増に対応するため契約講師を大量に増やした結果、添削品質にばらつきが生じ、質の高い添削を求める会員からの解約が増加。解約を防ぐために「無制限添削」「AIによる即時フィードバック」など機能を継ぎ足してきたが、コストはさらに膨らんでいる。
- 「Where to Play(どの市場・顧客で戦うか)」「How to Win(どう勝つか)」「Capabilities(勝つために必要な能力)」の3要素を用いて、現在何が噛み合っていないのかを診断せよ
- 診断結果に基づき、Where to PlayかHow to Winのどちらかを絞り込む方向で、具体的な再設計案を1つ提示せよ
会員数増加という「成長の証拠」の裏で、3要素のどこが崩れているか
3要素の整合性診断
| 要素 | 当初の設計 | 現状 | 診断 |
|---|---|---|---|
| Where to Play | 質の高い添削を求める意欲的な社会人層(限定的な規模) | 会員数急拡大を優先し、幅広い層を無差別に獲得 | 当初想定した狭い市場から、意図せず広い市場へ拡張してしまった |
| How to Win | 少人数の専門講師による質の高い添削で差異化 | 契約講師を大量増員し、添削品質にばらつき | How to Winの核(質)が、量の確保と引き換えに崩れている |
| Capabilities | 専門講師の採用・育成・品質管理の仕組み | 講師の急増に対して品質管理の仕組みが追いついていない | Capabilitiesが規模の拡大速度に対して構造的に不足している |
再設計案
実践への応用
プロダクト戦略の定例レビュー
成長指標(会員数・売上)だけでなく、「その成長がHow to Winを強化しているか、毀損しているか」を定期的に問う。
採用・アウトソーシングの判断
規模拡大のために品質を担う人材を急増させる際は、Capabilitiesが規模に先行して整っているかを必ず検証する。
グローバル文脈
海外展開でも「本国で機能したHow to Winが、拡大した市場・文化圏でも同じCapabilitiesで再現できるか」を同じ枠組みで検証できる。
全売上の35%を占める大口顧客(大手小売チェーン)の調達担当者から「来期契約更新にあたり配送単価を20%引き下げてほしい。応じられなければ、より安価な競合他社への切り替えを検討する」という要求が届いた。社内で原価を精査すると、20%引き下げると赤字契約になることが判明。一方でこの顧客を失えば売上の3分の1を一度に失い、投資家への説明にも深刻な影響が出る。あなたはこれから調達担当者と交渉の場に臨む。
- 交渉に入る前に、「相手モデルの構築」の3つの問い(相手のゴールは何か/相手の懸念・抵抗は何か/相手が動くために最も重要な「1つの事実」は何か)を用いて、この調達担当者の立場を分析せよ
- 交渉の冒頭で、アクティブリスニング(反映・明確化・共感の表明)を用いて、値下げ要求の背景にある本当の懸念を引き出す会話を設計せよ。その上で、単純な値下げ以外の着地点(提案)を1つ示せ
値下げ要求の裏にある「相手の社内事情」を先に想像する
相手モデルの構築
| 問い | 分析 |
|---|---|
| 相手のゴールは何か | 調達コストの削減目標を社内で達成し、上司・経営層に成果として報告すること。個人としての評価にも直結している可能性が高い |
| 相手の懸念・抵抗は何か | 「値下げできなければ切り替える」と言った以上、値下げが取れなければ自分の交渉力・判断力が社内で疑問視されるリスクを抱えている |
| 相手が動くために最も重要な「1つの事実」は何か | 単価そのものの数字ではなく、「総調達コストが実質的に下がった」と社内に説明できる根拠(総コスト削減額・クレーム対応コスト削減など) |
アクティブリスニングを用いた冒頭の会話設計
値下げ以外の着地点(提案例)
実践への応用
BtoBの契約更新交渉全般
値下げ要求の裏にある「相手の社内事情」を先に想像し、単価以外の着地点(SLA・付加サービス・支払い条件)を常に複数用意しておく。
社内予算交渉
上司からのコスト削減要求も同様に、「上司自身が経営層にどう説明する必要があるか」を先に想像すると、代替案が見つかりやすい。
グローバル文脈
文化圏によっては「担当者個人の顔を立てる」提案が、数字そのものより効果的な場合がある。
直近1年でDAUは横ばいなのに、課金率と客単価は継続的に下落している。競合は「ガチャの確率演出」「期間限定の焦燥感を煽る販促」を強化して客単価を維持しているが、自社は「ゲーム体験の面白さ」を優先し、そうした演出を意図的に抑えてきた。経営会議では「同業他社に倣って課金導線を強化すべきだ」という意見が強まっている。一方、クリエイティブ責任者は「射幸性を煽る演出を増やせば、長年のファンが離れ、ブランドが壊れる」と強く反対しており、あなたはこの間で板挟みになっている。
- ビジネスモデルキャンバス(BMC)の主要ブロック(顧客セグメント・価値提案・収益の流れ)を用いて、現在の収益モデルがどこで崩れているのかを診断せよ
- ロジックツリー(MECE)を用いて、「客単価の下落」という問題を最低2階層に分解し、根本原因の候補を特定せよ
- 診断結果に基づく提案を、経営会議にはSCQA構造で、クリエイティブ責任者にはアサーティブなDESC法で、それぞれ異なる形で伝える設計をせよ。両者に矛盾したメッセージにならないよう整合させること
「DAU横ばい・客単価下落」から、崩れている場所を先に絞り込む
BMCによる収益モデルの診断
| ブロック | 当初の設計 | 現状の崩れ |
|---|---|---|
| 顧客セグメント | ゲーム体験の質を重視する熱心なファン層 | 変化なし(DAU横ばいはこれを裏付ける) |
| 価値提案 | 射幸性を抑えた、質の高いゲーム体験そのもの | 変化なし(開発チームは維持している) |
| 収益の流れ | 熱心なファンが「体験への対価」として自発的に課金する設計 | 競合の射幸性演出との比較で自社の課金導線が「相対的に地味・弱い」と感じられ、客単価が下落している可能性 |
ロジックツリーによる「客単価下落」の分解
経営会議への提案(SCQA構造)
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| S(状況) | DAUは横ばいを維持しており、ファン層は離脱していない |
| C(複雑化) | 客単価・課金率が継続的に下落しており、収益成長の見通しが立たない状況にある |
| Q(問い) | 客単価下落の原因は、本当に「射幸性を抑えていること」なのか |
| A(答え) | ロジックツリー分析の結果、原因は新規コンテンツ投入ペースの鈍化と課金導線の訴求設計の弱さにある。射幸性を強化せずとも、価値提案に沿った形でこの2点を改善すれば客単価は回復見込みがある |
クリエイティブ責任者への提案(DESC法)
「この1年、客単価は下がり続けていますが、DAUは横ばいのままです。つまり、あなたたちが守ってきたファンとの関係性は壊れていません」
「経営会議では射幸性を強化すべきという声が強まっていますが、私はそれがこのタイトルの一番の価値である『面白さへの信頼』を壊すリスクだと考えています」
「射幸性の演出を強めるのではなく、新規コンテンツの投入ペースを取り戻すことと、今のゲーム体験の質に見合った高単価アイテムの見せ方を一緒に再設計したい」
「そうすれば、あなたたちが守ってきた価値提案を壊さずに、経営会議が求める数字の回復にも応えられます」
実践への応用
プロダクト収益の悪化対応全般
「競合の施策を真似る」前に、BMCとロジックツリーで自社固有の崩れの場所を診断する規律を持つ。
経営とクリエイティブの対立の仲裁
双方に異なる伝え方をすること自体は問題ではなく、結論の一貫性さえ保てば、立場の違う相手を同時に納得させられる。
グローバル文脈
ブランドの価値観を巡る対立は、規制環境(ガチャ規制のある地域とない地域)によっても正当化の材料が変わるため、地域ごとに根拠データを揃え直す必要がある。
今日のまとめ・次回へ
今日のQ3で扱った「相手によって伝え方は変えても、結論は一致させる」というテーマが、明日はより個人的な感情の対立とリーダーシップの意思決定が絡み合う複合ジレンマの中でどう機能するかが問われる。