今日のフォーカス
経費精算SaaSのPMが14件の要望を成果と機会の木に並べ直す(Q1)。配車SaaSの事業責任者が「パイロットしてから」に対して情報の価値を計算し、この設計では約272万円の損になると示す(Q2)。地方の医療法人のCIOが、A・B・Cの言い争いを止めて目的の階層から新しい選択肢Dを作り、重みを誰が引き受けるかを設計する(Q3)。
Opportunity Solution Tree
成果 → 機会 → 解決策 → 仮説検証の4層。要望(解決策)と成果の間に「機会」を挟み、要望の件数に引きずられない。
EVPI / EVSI
情報は判断を変えうるときだけ価値を持つ。完全情報の価値が調査費の上限、不完全な調査の価値はさらに下。遅延コストも数える。
Value-Focused Thinking
選択肢より先に根本目的を置く。「なぜ大事?」で上がり、「どうやって?」で下がる。重みは価値判断として決定権者が引き受ける。
今四半期の成果目標は「月次締め日までに経費精算を完了できた顧客企業の割合を 71% → 85%」(解約理由の1位が「締めが遅れて経理が残業する」)。営業部長は「要望件数の多い順に作ればいい」と言う。
| # | 要望 | 要望元 |
|---|---|---|
| R1 | 承認依頼をSlack/Teamsに通知 | 営業経由 11社 |
| R2 | 一括承認ボタン | CS経由 7社 |
| R3 | 領収書OCRの精度向上 | CS経由 9社 |
| R4 | 不在時の代理承認者設定 | 営業経由 4社 |
| R5 | 会計ソフト向けCSV形式の追加 | 営業経由 12社 |
| R6 | 差し戻し理由の定型文 | CS経由 3社 |
先月の締め遅延申請 3,480件の内訳仮定:承認待ち3日以上滞留 62%/差し戻し往復2回以上 21%/締め日後の申請 17%
- OST(Teresa Torres, Continuous Discovery Habits, 2021)を説明し、「要望件数順」がこの成果目標に対してなぜ危ういかを述べよ
- 6件の要望を「機会」の層に翻訳して木を描け(成果に関係しない要望はどれか)
- 最初に狙う機会を1つ選び、解決策を3案以上比較し、各案の最も危うい前提と1〜2週間の仮説検証を設計せよ
① 「要望件数順」が危うい3つの理由
- 件数は成果への寄与を測っていない:営業経由の要望は商談中・大口に偏る。
- 同じ機会への別解が別々に数えられる:R1(11社)とR4(4社)は同じ機会Aへの解。
- 機会の大きさはデータが示している:62/21/17%の比率は要望リストのどこにも現れない。
② 要望を機会に翻訳した木
③ 解決策の比較と仮説検証
機会Aの半分を解消できれば遅延全体の約3割に効く導出 62%×1/2。
| 解決策 | 最も危うい前提 | 1〜2週間の検証 |
|---|---|---|
| S1 Slack/Teams通知(R1) | 滞留の主因は「気づかない」 | 既存メールの開封率と開封→承認の時間をログで測る。開封率が高いのに滞留なら仮説は弱い |
| S2 締め3日前の自動エスカレーション | 経理が催促でき、催促すれば動く | Wizard of Oz:遅延の多い20社にCSが手動で未承認リストを送り、4週間の完了率を比較 |
| S3 代理承認(R4) | 不在が滞留の有意な割合 | 予定表連携のある顧客で、滞留期間中の承認者不在率を数える |
| S4 一括承認(R2) | 後回しの理由は1件ずつ開く手間 | 承認者5〜8名に滞留した日の行動を聞く |
迷った他案と採らなかった理由
- RICEで14件を採点:Reachに要望件数を入れると営業偏りがそのまま点数になる。機会を定義した後の、同じ機会内の比較なら使える。
- JTBDインタビューから始める(08-12 Q1):補完的だが、遅延ログという行動データがあるので量的な内訳を先に切る。
- 前提が変わったら:成果目標が「新規獲得数」なら、R5が最有力に変わる。
実践への応用
実務・キャリアへの展開
- 基盤チーム:他チームの依頼を自チームの成果(デプロイ所要時間など)の木にぶら下げると、断る理由と代替案を同時に説明できる。
- 資金調達前:機能一覧ではなく「成果→機会→検証済みの解決策」の木で、順番の理由を1枚で示す。
- グローバル:国ごとの営業人員差が件数を歪める。機会の層で国をまたいで束ねる。
「車両台数の月額固定」から「配車件数の従量課金」への移行を検討中。1年間の影響で評価する仮定。
| 状態 | 事前確率 | 全顧客移行時のARR影響 |
|---|---|---|
| S1 受け入れる | 0.6 | +12%(+1.152億円) |
| S2 反発して解約増 | 0.4 | −8%(−0.768億円) |
CFOは「100社で8週間パイロットしてから」と主張。直接コスト400万円、全体移行が2ヶ月遅れる。当たり方:S1なら80%で「受容」、S2なら75%で「反発」(25%は誤って「受容」)。
- 今決める場合の最適選択と期待値、そしてEVPIを求め、EVPIが何の「上限」かを述べよ
- パイロットのEVSIを求め、直接コストと遅延コストを差し引いて実施すべきか判断せよ
- CFOへの提案を、結論が反転する前提(数値)と、情報を買う以外の打ち手を含めて述べよ
① 今決める場合とEVPI
- EV(移行)= 0.6×1.152 − 0.4×0.768 = +0.384億円、EV(現状維持)= 0 → 移行
- EV(完全情報)= 0.6×1.152 = 0.6912億円 → EVPI = 0.3072億円(約3,072万円)
- =「S2なのに移行してしまう損失の期待値」0.4×0.768 と一致
② パイロットのEVSI
| 「受容」と出る | 「反発」と出る | |
|---|---|---|
| S1(0.6) | 0.48 | 0.12 |
| S2(0.4) | 0.10 | 0.30 |
| 合計 | 0.58 → P(S1)≒0.828、EV +0.821 → 移行 | 0.42 → P(S1)≒0.286、EV −0.219 → 現状維持 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| パイロットした場合のEV | 0.48×1.152 − 0.10×0.768 = 0.47616億円 |
| EVSI | 0.47616 − 0.384 = 約922万円 |
| 直接コスト | 400万円 |
| 遅延コスト(2/12) | 0.47616×2/12 ≒ 約794万円 |
| 差し引き | 約 −272万円(実施しない) |
参考:4週間・250万円・当たり方75%/70%に縮めても、EVSI 約422万円 < 250万+1ヶ月遅延 約355万円 = 605万円。事前の見立てが移行寄りで遅延が高くつくと、情報はなかなか元が取れない。
③ CFOへの提案
迷った他案と採らなかった理由
- パイロットを300社に拡大して精度を上げる:天井はEVPI 3,072万円のままで、遅延コストが同じなら改善は限定的。
- 期待効用で計算:より正確だが効用関数の合意コストが高い。まず期待値+最悪ケースの2本。資金繰りが厳しい会社なら必須。
- 前提が変わったら:料金改定が年1回の決まった月にしかできず、どのみち待つなら遅延コストはほぼゼロ → パイロットは約522万円の得に転じる。
実践への応用
実務・キャリアへの展開
- 技術選定:「PoCを3ヶ月」の前にEVPIで上限を出し、止まる開発の機会費用と比べる。
- A/Bテストの打ち切り:追加サンプルのEVSIが1日あたりの機会損失を下回ったら止める。
- 海外進出:「調査をもう一度」の前に、結果次第で本当に判断が変わるかを問う。変わらないなら情報価値はゼロ。
電子カルテは2027年秋に保守期限。情報システム部(専任2名)が示した3案で、会議は半年止まっている。
| 案 | 内容 | 5年TCO仮定 |
|---|---|---|
| A | 現行ベンダーでオンプレ更改 | 7.8億円 |
| B | クラウド型へ一括移行 | 6.1億円 |
| C | 2年延命して再検討 | 2.9億円(2年分) |
理事長「とにかく安い方がいい」/看護部長「看護記録に1勤務110分。これが減らないなら現場は疲弊する」/医師代表「操作が変わると外来が回らない。時間外労働の上限規制も始まっている」/地域連携室長「診療所や介護施設との連携を広げたい」/情シス部長「2名ではオンプレ運用は限界。ランサムウェアが怖い」/事務長「補助金の期限に間に合う案に」
- Keeney(Value-Focused Thinking, 1992)の alternative-focused と value-focused を説明し、会議が止まっている理由を診断せよ
- 6人の発言から根本目的と手段目的を切り分け、目的の階層を作れ
- 目的の階層からA・B・Cにない新しい選択肢を生成し、重みが対立する中で誰がどう決めるかを設計せよ。この手法でも解消できない部分も明示すること
② 目的の階層
③ 新案Dと重み付けすべて仮定
| 案 | 安全(0.35) | 負担(0.30) | 財務(0.20) | 連携(0.15) | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| A オンプレ更改 | 60 | 40 | 20 | 50 | 44.5 |
| B クラウド一括 | 70 | 60 | 60 | 70 | 65.0 |
| C 2年延命 | 20 | 30 | 90 | 30 | 38.5 |
| D 段階移行+負担削減 | 85 | 80 | 45 | 70 | 73.25 |
感度:財務の重みを上げ他を元の比率で縮めると、D−B = 14.06 − 29.06×(財務の重み)。財務0.40でD 66.2/B 63.75、約0.48で逆転。問うべきは「財務を他の3つの合計とほぼ同じくらい重視するか」。
- 重みそのもの:価値判断で、手法は明示化するだけ。赤字病院の閉鎖リスクが現実的なら財務を重く見るのは誤りではない。
- 測りにくさ:「医師の時間外1時間」と「TCO 1,000万円」を同じ尺度に乗せることへの抵抗は数字では消えない。何を諦めたかを言葉で伝える。
- 採点者の偏り:D提案者のCIOが採点するとDに甘くなる。第三者による見直しを1回挟む。
迷った他案と採らなかった理由
- 重み付きマトリクスで最初からA・B・Cを採点(07-08 Q2):評価軸が選択肢に引きずられ、Dが生まれない。VFTの後に使うのが正しい順序。
- AHPの一対比較:範囲を無視した「安全と財務どちらが大事か」になりやすい。範囲を明示するスイング重み付けを選んだ。
- 前提が変わったら:今期中に資金ショートの見込みなら、財務は重みではなく下限条件になり、Cが合理的になりうる。
実践への応用
実務・キャリアへの展開
- 技術スタック選定:「Go か TypeScript か」を止めて根本目的(採用・復旧速度・開発速度)を先に置くと、「部品ごとに分ける」第3案が出る。
- キャリア:A社・B社で迷ったら、5年後に実現したいことから逆算すると「社内異動+副業で検証」が見えることがある。
- グローバル合弁:各国の制度に合う案を推す代理戦争を、「手段目的の違い」として整理し、根本目的の一致を確認する。
扱わなかった範囲・参照文献
| 問 | 扱わなかった範囲 |
|---|---|
| Q1 | OSTの継続的インタビューの習慣、顧客セグメント別の機会の大きさ。遅延の比率は仮定値 |
| Q2 | 効用関数・リスク回避度。「新規から従量課金」案の期待値は未計算。確率・影響は仮定値 |
| Q3 | 複数の決定者の選好集約(社会的選択)。採点・重みは仮定値。ランサム事例は報道ベース |
- Teresa Torres, Continuous Discovery Habits, Product Talk LLC, 2021
- Ronald A. Howard, "Information Value Theory", IEEE Transactions on Systems Science and Cybernetics, SSC-2(1), 1966
- Ralph L. Keeney, Value-Focused Thinking: A Path to Creative Decisionmaking, Harvard University Press, 1992
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」2023年5月
今日のまとめ・次回へ
Q3でCIOは、看護部と医師に「何を諦めたのか」を言葉で伝える必要があった。計算で正しい判断を導いても、自分の目的が軽く扱われたと感じた人の納得は、深い傾聴と相手の損失を認める伝え方でしか得られない。明日はその対人側の技術を鍛える。