今日のテーマ

対面の提案説明のあと、懐疑的なベテランから「質問のような、意見のような、昔話のような」長い発言が返ってきた場面で、残り4分のうちに承認を取るところまでを練習する。全部に答えようとせず、①相手の発言を2点に要約して「合っていますか」と確かめ、②今答える論点だけに短く答え、③残りの話は日時を決めて別の場で聞く。最後は、懐疑的な人に「止める判断」を預けて試行の承認を取る。

なぜこれが難しいのか

長い発言には、たいてい本当の質問・心配・過去の経験・ちょっとした不満が混ざっている。話し手からすると、どれが質問なのか分からないので、全部に答えたくなる。全部に答えると時間が切れ、肝心の判断(承認)が次回に持ち越される。逆に一部だけに答えると「聞いていない」と思われそうで怖い。この板挟みは、多くの人が同じようにはまる。

もう一つの構造は、長い発言をする人は、必ずしも答えを求めていないこと。現場で長く働いてきた人が「前もこうだった」と話すとき、求めているのは反論ではなく「その経験を知っている人として扱ってほしい」ということが多い。ここで正しさの議論をすると、内容では勝っても協力は得られない。

だから今日の型は「答える」より先に「要約して確かめる」。要約は、相手の話を聞いた証拠になり、同時に、今この場で扱う論点を相手と一緒に選ぶ手段にもなる。

過去の水曜は、短い質問に答える場面(Day005・012・019)、資料を口頭に圧縮する場面(Day022)、反応が無い沈黙から本音を取りに行く場面(Day030)だった。今回は逆に、反応が多すぎて形になっていない場面を扱う。

シチュエーション

あなたは冷凍食品メーカー(従業員約350名)の社内SEで、入社5年目。本社の情報システム部から、主力工場の担当として週3日工場に通っている。

工場には包装ラインが4本あり、金属検出機(製品に金属片が混ざっていないかを調べる機械)が正しく動いているかを、1日3回、テスト用の金属片を通して確かめ、紙の点検記録に書いている。食品衛生法の改正で、HACCP(危害が起きやすい工程を決めて、そこを重点的に監視し記録する衛生管理の方法)にもとづく衛生管理と記録が、2021年6月からすべての食品事業者に求められている。記録用紙は月に約260枚(4ライン×1日3回×月22日稼働からの導出)。品質保証課が月末にまとめて目視で確認していて、先月は記入漏れが11件見つかった。どれも月末になって初めて分かった。

あなたの提案は「第2ラインだけ、4週間、点検記録をタブレット入力にする。紙の記録は並行して残す」。今日は月1回の品質会議(工場の会議室・対面・12名)で15分の枠をもらい、9分で説明を終えた。出席者は工場長の小野寺さん(決裁者)、品質保証課長、各ラインの班長など。第2ラインの班長・山下さんは勤続28年。10年ほど前に入った生産管理システムが半年で使われなくなった経緯を知っている。

(記入漏れの件数、従業員数などはすべて練習用の仮定。HACCP の制度化の時期は実在の制度にもとづく。)

You're an IT engineer (5 years in) at a frozen-food manufacturer with about 350 employees. You're based at corporate IT and spend three days a week at the main plant in Ohio.

The plant has four packaging lines. Three times a day, each line runs a test piece through the metal detector to make sure it's working, and someone writes the result on a paper log. Under the FDA's Food Safety Modernization Act (FSMA) preventive-controls rule, the plant has to monitor and keep records like this. That's about 260 log sheets a month (derived from 4 lines × 3 checks × 22 production days). The QA team reviews them by eye at month-end, and last month they found 11 missed entries — all of them discovered only at month-end.

Your proposal: on Line 2 only, for four weeks, enter the metal-detector checks on a tablet, while keeping the paper log in parallel. You have a 15-minute slot at the monthly food safety meeting (plant conference room, in person, 12 people), and you've just finished a 9-minute walkthrough. In the room: Linda, the plant manager (she makes the call); the QA manager; and the line leads. Ray, the Line 2 lead, has been at the plant 28 years. He remembers the production-tracking system that got dropped after six months about ten years ago.

(The number of missed entries, headcount, etc. are made up for practice. The FSMA recordkeeping requirement is real.)

ここまでの会話

あなた説明は以上です。ご質問があればお願いします。
山下さん(手を挙げて)ちょっといいかな。10年くらい前にも生産管理のシステム入れたでしょ。あのときも最初は便利になるって話で、結局、紙にも書いてシステムにも入れて二度手間になって、半年で紙に戻ったんだよ。それに現場は手袋してるし、手も濡れてるし、タブレットなんて反応しないでしょ。紙だと誰が書いたか字で分かるし、ハンコもあるし。監査のときだって紙のほうが見せやすいよ。若い子はいいかもしれないけど、うちの班は50代も多いしさ……。まあ、反対ってわけじゃないんだけど、そのへんどうなのかなって。
あなた(心の中で)論点が少なくとも5つある。前のシステムの失敗、手袋と水、誰が書いたか、監査、年齢。全部に答えたら4分では終わらない。でも、どれかを飛ばしたら「聞いてない」と思われる。
小野寺さん(時計を見て)あと4分くらいね。
YouThat's the proposal. Questions?
RayYeah, I got a couple. Look — we did this ten years ago with the production tracking thing. Everybody said it'd save time, and we ended up writing it on paper AND typing it in, and six months later it was back to clipboards. And my guys are wearing gloves, their hands are wet half the day, those screens don't work with wet gloves. On paper I can see whose handwriting it is, they initial it. When the auditors come, they want to see the binder. And half my crew is over fifty — it's fine for the young guys, but... I'm not saying no, I'm just saying — you know what I mean?
You (internally)That's at least five things: the old system, gloves and water, who signed it, auditors, age. If I answer all of them, we're out of time. If I skip one, he'll say I didn't listen.
Linda (glancing at the clock)We've got about four minutes.

あなたの課題

ここから会話を続けてください。1往復では終わらせず、あなたの発言→相手の反応(想定)→あなたの返しの最低3ターンを自分で書いてみましょう。

  1. 山下さんの発言を2点ほどに要約し、「合っていますか」と確かめる
  2. 今答える論点には1〜2文ずつで答え、自分で試したことと、まだ確かめていないことを分ける
  3. 残りの話(前のシステムの失敗)は、日時を決めて別の場で聞く
  4. 「二度手間」の指摘は認めたうえで、止める判断を山下さんに預け、小野寺さんから試行の承認を取る
ヒント1: 方向性(日本版)
山下さんの発言は、反対ではなく「確かめたいこと」と「前に痛い目にあった経験」が混ざったもの。最後の「反対ってわけじゃない」は本心に近い。だから、言い負かす相手ではなく、試行を一緒に見てもらう相手として扱う。

最初にやるのは、答えることではなく要約。「私の理解を確認させてください」と言って、今日のうちに答えが要る論点を2つに絞って言い直し、「合っていますか」と聞く。山下さんが付け足したら、それも受け取る。前のシステムの話は「今日の4分では足りない」と正直に言い、日時を決めて別に聞く。「また今度」で済ませると、話を流したのと同じになる。

答えるときは、1つの論点に1〜2文。自分で試した事実と、まだ山下さんの班で確かめていないことを分けて言う。「二度手間では」と言われたら、否定せず認める。そのうえで、期間と範囲を区切り、やめる判断を山下さんに預ける。懐疑的な人が「止められる」と分かると、試すことへの抵抗が下がる。最後は決裁者の小野寺さんに、条件を1文にまとめて承認を求める。
ヒント2: 使える言い回し(日本版)
ターン1(受け止め+要約+確認+残りの扱い): 「山下さん、ありがとうございます。毎日記録を書いている方の話なので、落としたくないです。」「時間が4分なので、私の理解を先に確認させてください。今日答えが要るのは2点だと受け取りました。1つ目は〜、2つ目は〜。」「前のシステムの話は、4分では足りないので、別に時間をください。」「この2点で合っていますか。」

ターン2(1論点1〜2文で答える): 「1つ目からお答えします。」「先週、私が〜で試しました。〜回中〜回入力できました。」「ただ、山下さんの班の方には、まだ触ってもらっていません。そこは試行の初日に確かめます。」「監査は、試行中は紙を残すので、今までどおり紙をお見せできます。」

ターン3(懸念を認める+止める判断を預ける+承認と日時): 「おっしゃるとおり、4週間は二度手間です。そこは隠しません。」「2週目の終わりに、山下さんが『現場が回らない』と判断したら、そこで止めます。その判断を山下さんにお願いしたいです。」「小野寺さん、第2ライン・4週間・紙と並行・2週目に山下さんと中間確認、で始めてよいでしょうか。」「前のシステムの話は、明日の朝礼のあと15分、聞かせてください。」
Hint 1: Direction (US version)
Ray isn't really saying no — he told you so. He's mixing real questions with a scar from the last rollout. Treat him as someone who can help judge the trial, not someone to win an argument against.

Before answering anything, play it back: "Let me make sure I've got it — I heard two things you need answered today..." and ask "Did I get that right?" If he adds one, take it. Say plainly that the old-system story deserves more than four minutes, and put a real time on it. "Let's take that offline" with no time sounds like a brush-off, especially to someone on the floor.

Answer each point in one or two sentences, and separate what you've tested from what you haven't. When he says "that's double work," don't argue — agree, put a number on it, and give him the call to stop the trial. Then ask Linda for a yes on the whole package in one sentence.
Hint 2: Useful phrases (US version)
Turn 1 (acknowledge + play back + check + park the rest with a time): "Ray, that's useful — you're the one filling out these logs every day." / "We've got four minutes, so let me make sure I've got it. I heard two things you need answered today: ... and ..." / "The old-system story deserves more than four minutes. Can I get time with you separately?" / "Did I get that right?"

Turn 2 (one or two sentences per point): "Quick answers, in order." / "I tested it last week on Line 2 — nitrile gloves, wet. Ten out of ten." / "What I haven't done is put it in your crew's hands. That's day one." / "Paper stays for the whole trial, so the auditors see the same binder."

Turn 3 (concede + hand over the stop call + ask for a yes): "You're right — for four weeks it's double work. I'm not going to pretend it isn't." / "End of week two, if you say it's slowing the line down, we stop. Your call, no argument from me." / "Linda, can I get a yes on Line 2, four weeks, paper in parallel, Ray's call at week two?" / "Ray, can I grab you after shift tomorrow for fifteen minutes on the old system?"
あなた山下さん、ありがとうございます。毎日この記録を書いている方の話なので、大事なところを落としたくないです。時間が4分なので、私の理解を先に確認させてください。今日のうちに答えが要るのは2点だと受け取りました。1つ目は、手袋をして手が濡れた状態で、本当に入力できるのか。2つ目は、紙のハンコのように、誰が記録したのかがはっきり残るのか。前のシステムが紙に戻った話は、4分では足りないので、別に時間をいただきたいです。この2点で合っていますか。
山下さんまあ、そうだな。あと、監査のときどうすんのかってのもある。
あなたはい、監査も入れて3点、短くお答えします。1つ目。先週、第2ラインで、いつものニトリル手袋をして水で濡らした状態で試しました。手袋用の設定にして、10回中10回入力できました。ただ、山下さんの班の方にはまだ触ってもらっていないので、そこは試行の初日に一緒に確かめます。2つ目。入力の前に社員証をタブレットにかざすので、誰が何時何分に記録したかが自動で残ります。3つ目の監査は、試行中は紙の記録をそのまま残すので、今までどおり紙をお見せできます。
山下さんでもさ、紙も残すんなら、それこそ二度手間じゃないか。前と同じだよ。
あなたおっしゃるとおり、4週間は二度手間です。そこは隠しません。1回あたり1分くらい増える見込みで、1日3回なので、1日3分ほどです。前のシステムと違うところを作りたいので、お願いがあります。2週目の終わりに、山下さんが「これは現場が回らない」と判断したら、その時点で止めます。その判断を山下さんにお願いしたいです。小野寺さん、第2ラインだけ・4週間・紙と並行・2週目の終わりに山下さんと中間確認、という形で始めてよいでしょうか。前のシステムの話は、明日の朝礼のあと15分、山下さんに聞かせてください。
小野寺さん山下さん、それでいい?
山下さん止めていいんなら、まあ、やってみるか。
解説(日本版)

ターン1は、答える前に要約している。「毎日この記録を書いている方の話なので」は、山下さんの経験に対する敬意を、お世辞ではなく理由として言っている。要約で論点を2つに絞ったのは、全部に答える時間が無いから。ただし、選んだ2つが正しいかどうかは自分で決めず、「合っていますか」で山下さんに決めてもらう。だから山下さんは「監査も」と足せた。足されたら、そのまま受け取る。前のシステムの話を今日扱わないことは、隠さず口に出す。「別に時間を」と言うだけでなく、ターン3で具体的な日時を出している。

ターン2は、1つの論点に1〜2文。山場は「山下さんの班の方にはまだ触ってもらっていない」の一文。自分で試したこと(10回中10回)と、まだ確かめていないこと(班の人が使えるか)を分けると、数字がかえって信用される。全部うまくいくと言うと、28年現場にいる人ほど疑う。

ターン3が今日の山場。「二度手間だ」は事実なので、否定せず認め、量を数字にする(1日3分ほど)。そのうえで、前のシステムとの違いを「やめる判断を現場が持てるかどうか」に置き、その判断を山下さんに預けている。懐疑的な人を説得して黙らせるのではなく、試行の判定役にすることで、反対の理由が「関わる理由」に変わる。最後の承認は、決裁者の小野寺さんに、条件をひとまとめにして求めている。小野寺さんが「山下さん、それでいい?」と振ってくれるのは、ターン3で山下さんの役割を先に決めておいたから。

YouRay, that's useful — you're the one filling out these logs every day, so I don't want to miss anything. We've got four minutes, so let me make sure I've got it. I heard two things you need answered today: one, can people actually enter this with wet gloves on; and two, can you still tell who did the check, the way initials work on paper. The old-system story deserves more than four minutes — I'd like to hear it properly, separately. Did I get that right?
RayYeah, pretty much. And the auditors.
YouGot it — three, then. Quick answers, in order. One: I tested it last week on Line 2, nitrile gloves, hands wet, with the glove setting on. Ten out of ten went through. What I haven't done is put it in your crew's hands — that's day one of the trial, and I'll be there. Two: everyone taps their badge before entering, so it records who did the check and the exact time, automatically. Three: the paper log stays for the whole trial, so the auditors see the same binder they always do.
RaySo we're doing paper AND the tablet. That's exactly what happened last time. That's double work.
YouYou're right — for four weeks it's double work. I'm not going to pretend it isn't. It's about a minute more per check, three checks a day, so roughly three minutes a day. Here's what I want to be different from last time: end of week two, if you say it's slowing the line down, we stop. Your call, no argument from me. Linda, can I get a yes on that — Line 2 only, four weeks, paper in parallel, Ray's call at week two? And Ray, can I grab you after shift tomorrow for fifteen minutes on what went wrong with the old system?
LindaRay?
RayIf I can pull the plug — fine. Let's try it.
Explanation (US version)

Turn 1 plays Ray's comments back as two concrete questions and asks "Did I get that right?" That does two jobs at once: it proves you listened, and it lets Ray — not you — confirm which questions matter today. When he adds "the auditors," you just take it. You also say out loud that the old-system story isn't being skipped, only moved, and turn 3 attaches a specific time to it.

Turn 2 keeps each answer to a sentence or two. The key line is "What I haven't done is put it in your crew's hands." Separating what you've tested from what you haven't makes the "ten out of ten" more believable, not less. A 28-year veteran discounts anyone who says everything will be fine.

Turn 3 is the hardest part. "That's double work" is true, so you agree and size it (about three minutes a day). Then you make the difference from last time concrete: the floor gets to stop it. Giving Ray the call turns his objection into a role. The ask to Linda bundles all the conditions into one yes/no question, and because Ray's role is already defined, Linda can simply check with him.

日本語 × English 対比ノート

両版とも、長い発言に全部答えようとせず、要約して確かめ、今答える論点だけに短く答え、残りに日時をつけて別の場で聞き、懐疑的な人に「止める判断」を預けて承認を取る。違いは、遮るかどうか、敬意の示し方、後回しにする言い方にある。

観点🇯🇵 日本版🇺🇸 US版
長い発言の途中で遮るか年長・ベテランの発言は、最後まで聞いてから要約するのが基本。途中で遮ると、内容より「若い人に話を切られた」ことが残りやすい(職場の慣行にもとづく出題者の判断で、測定はしていない)。息継ぎのところで "Let me make sure I've got it" と入るのは、時間が限られた会議では失礼になりにくい。今回の模範回答は、Ray が "you know what I mean?" と区切ったところで入っている。
敬意の示し方「毎日この記録を書いている方の話なので」と、相手の経験を理由として言う。「おっしゃるとおり」で相手の指摘を立てる。"You're the one filling out these logs every day" と、役割を名指しする。"You're right" と短く認める。
後回しの言い方「4分では足りないので、別に時間をいただきたいです」と、時間の都合として丁寧に言い、明日の朝礼後と具体的にする。"Let's take that offline" や "parking lot" は便利だが、現場の人には「流された」と聞こえやすい。"Can I grab you after shift tomorrow for fifteen minutes?" と時間を付ける。
止める判断の預け方「その判断を山下さんにお願いしたいです」と、お願いの形で預ける。"Your call, no argument from me." と言い切る。
承認の取り方「〜という形で始めてよいでしょうか」と許可を求め、決裁者が当事者に振る余地を残す。"Can I get a yes on that?" と条件をまとめて直接聞く。

どちらの文化でも、長い発言に全部答えようとすると時間切れで判断が流れ、一部だけに答えると「聞いていない」と受け取られる。抜け道は「どれに答えるかを相手と一緒に決める」ことで、要約と「合っていますか」はそのための道具になる。

今日・今週中に試せる小さな一歩

最小の一歩(30秒): 今週、会議や打ち合わせで誰かが長めに話したあと、自分の意見を言う前に1回だけ「私の理解を確認させてください。〜と〜の2点で合っていますか」と要約してみる。2点に絞れなければ1点でもよい。相手の反応(付け足した・うなずいた・訂正した)を1行メモしておく。

余裕があれば: その場で答えきれない話が出たら、「また今度」ではなく「明日の〇時に5分ください」と、日時を付けて後回しにしてみる。友人や家族との会話でも、相手の長い話のあとに「つまり〜ってこと?」と1回返すだけで練習になる。

自己評価

日本版: 自分で応答を考えられた
アメリカ版: 自分で応答を考えられた
設計メモ(出題の判断記録)

今回のサブスキルの位置づけ: 仕事②の過去回は、Day005(社内勉強会・予告構成と質問への相槌)、Day012(企画会議・反論の先回りと間)、Day019(クライアントデモ・区切りと言い切り)、Day022(資料が使えず口頭2分に圧縮)、Day030(オンライン会議の沈黙から名指しの事実質問で承認)。Day030 の設計メモで次回候補に挙げた2つ(「対面で反応が見えているのに質問が出ないとき」「質問が長い独白になる聞き手への対応」)のうち、後者を採った。Lv2(自分から動く)の仕事側の難所「懐疑的な聞き手から承認・判断・協力を取る」に合わせ、(1) 対面で、(2) 懐疑的なベテランの長い発言を、(3) 残り4分で要約・選別し、(4) 相手に止める判断を預けて試行の承認を取る、という組み合わせにした。「要約して確かめる」「答える論点を相手と一緒に選ぶ」「後回しに日時を付ける」「懐疑的な人を判定役にする」の4つが、過去の水曜に無かった練習。

迷った他案と採らなかった理由

  • 案A「対面で反応が見えているのに質問が出ない」: Day030(沈黙から本音を取りに行く)と構造が近く、1週間で続けると練習の差が小さい。間を空けて別の回で扱う。
  • 案B「社外顧客の担当者が長い発言をする」: 社外だと謝罪や契約の話が混ざり、主題(要約と選別)がぼやける。見送り。
  • 案C「長い発言の主が上位の役員」: 上位者への報告は仕事③(金曜)の領域で、萎縮という別の難しさが主になる。見送り。
  • 案D「長い発言を途中で遮る技術そのものを主題にする」: 日本の現場で年長者を遮るのはコストが高く、相手が感情的になる展開はLv4(即興と不確実・感情的な聞き手)に近い。今回は日本版では最後まで聞いてから要約し、US版でだけ区切りで入る形にして、遮り方の差は文化比較ノートで扱った。
  • 採用案「工場の品質会議で、点検記録のタブレット化の試行を提案し、第2ラインの班長の長い発言を要約・選別して、止める判断を預けて承認を取る」: 長い発言の中に「本当の質問」「過去の失敗の記憶」「不安」が混ざる状況が自然に作れ、現場の人に判断を預ける譲歩の設計が模範回答で見える。過去の水曜はIT・SaaS企業の場面が多かったので、製造現場に変えた。
  • 模範回答で「紙を残す並行運用」を選び、「紙を即廃止」にしなかった理由: 試行中に監査が来た場合の説明が要らなくなり、記録の欠落という食品安全上の危険を試行で新たに作らないため。代わりに二度手間が生まれるので、それを隠さず認め、止める判断を現場に預ける形で釣り合いを取った。

前提が変わる場合

  • 要約して確かめた結果、山下さんの本当の論点が「前のシステムの失敗」1つに集約されていると分かった場合は、他の論点を後回しにしてでも、その場で前回の失敗の原因を1つ聞くほうが正しい。承認は次回に回してよい。
  • 会議の残り時間が十分ある(例: 30分)場合は、5つの論点すべてに順に答えるほうが、相手の納得は得やすい。要約と選別が要るのは、時間が足りないときの型。
  • 決裁者(工場長)が会議にいない場合、ゴールは承認ではなく「論点を全部集め、決裁者に持ち上げる」に変わる。
  • 第2ラインの班員にタブレットを使える人がほとんどいないと事前に分かっている場合は、試行のラインを変えるか、入力は品質保証課の担当者が代行する形にするほうがよい。

ドメインの事実(出題者の理解・一次資料の本文は今回確認していない)

  • 日本: 2018年の食品衛生法改正で、HACCP に沿った衛生管理が原則としてすべての食品等事業者に求められるようになった。施行は2020年6月1日、1年の経過措置を経て2021年6月1日から完全施行。重要管理点(CCP)の監視と記録の保存が求められる。金属検出機をCCPに置き、テストピースで定期的に作動を確かめる運用は食品工場で一般的。参照先: 厚生労働省「HACCP(ハサップ)」の制度ページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000066667.html 、URLと記載は出題者の記憶にもとづき、今回アクセスしていない)。
  • 米国: FSMA の Preventive Controls for Human Food rule(21 CFR Part 117)の Subpart F が記録の要件を定め、記録には実施者の署名または頭文字、日時が求められるという理解。同 Part の記録は電子記録で残してもよく、電子署名規則(21 CFR Part 11)の適用除外があるという理解(§117.305 付近、条番号は未確認)。本文では「FSMA で記録が求められる」ことだけを事実として書き、条番号は出していない。
  • 記入漏れ11件、従業員約350名、手袋での入力10回中10回、1回あたり約1分の増加は、すべて練習用の仮定の値。月約260枚(4×3×22=264)と1日3分ほど(1分×3回)はこの仮定からの導出。

参照した考え方(書誌情報のみ・本文の直接確認はしていない)

  • Rogers, C. R., & Farson, R. E. (1957). Active Listening. Industrial Relations Center, University of Chicago. 相手の発言を言い換えて返すことで、聞いていることを示し、相手が自分の考えを整理できるとする古典。ターン1の「要約して確かめる」の背景として参照。
  • Kluger, A. N., & Itzchakov, G. (2022). The power of listening at work. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 9, 121–146. 職場で「よく聞かれている」と感じることが、話し手の態度や協力に関わるとする研究の総説。懐疑的な人を判定役にする設計の背景として参照。
  • 日米の「遮るかどうか」「後回しの言い方」の違い、および各ターンの言い回しは、上記の文献ではなく、職場での慣行に関する出題者の判断で、測定していない。

今回扱わなかった範囲: 長い発言の途中で割って入る具体的な技術(日本版)、相手が感情的になって声が大きくなる場合(Lv4)、複数人が同時に長い発言をする場合、オンライン会議での長い発言、翌日の朝礼後に前のシステムの話を聞く会話そのもの、2週目の中間確認で「止める」と言われた場合の対応、労働組合や職場の取り決めがタブレット導入に関わる場合(US版の工場では起こりうる)、HACCP の記録様式そのものの設計。いずれも今日の「長い発言を要約・選別して、限られた時間で承認を取る」という主題から外れるため、別の回で扱う。また、今回の型で実際に承認が得やすくなるかどうかは測定していない(本スキルは練習台)。次回W2候補: 対面で反応が見えているのに質問が出ないとき、2週目の中間確認で「止める」と言われたときの説明。