🎬 シナリオ
MOps(Marketing Ops/販促システム)チームは、EC事業部の販促システムを内製している。直近3ヶ月、CSチームから「クーポン利用画面が分かりにくい」という問い合わせがじわじわ増えている(月平均18件→32件)。ただし問い合わせ内容はバラバラで、「クーポンコードの入力欄が見つからない」「複数クーポンの併用可否が分からない」「有効期限の表示が小さい」など、CSの一次対応記録だけでは根本原因が特定できていない。
プロダクトマネージャーから「来週、実際にクーポンをよく使うユーザー5名にインタビューできることになった。次のスプリントで改修に入るかどうかの判断材料にしたいので、あなたに質問設計をお願いしたい」と依頼された。インタビューは1人30分、オンラインで実施予定。
📝 課題
あなたのタスク: 今回のユーザーインタビューのための「インタビューガイド」を作成してください。以下を含めること。
- インタビューの目的とリサーチクエスチョン(何を明らかにしたいか)を明文化する
- スクリーニング条件(誰にインタビューすべきか)を定義する
- 誘導質問を避けた行動ベースの質問を、導入〜本題〜クロージングの流れで並べる(合計10〜15問程度)
- 各質問について、それが「なぜその聞き方なのか」(誘導を避ける工夫、行動を聞き出す工夫)を一言添える
🔍 ヒント(段階的開示)
取り組む前のヒント
- 「〇〇について、どう思いますか?」という意見ベースの質問は、答えやすい反面その場で作られた建前的な回答になりやすい。「直近で実際にクーポンを使ったときのことを教えてください」のような、過去の具体的な行動を聞く質問に置き換える
- 質問の中に答えの選択肢や誘導が含まれていないか確認する(例:「クーポンの入力欄が分かりにくかったですか?」は「分かりにくい」という前提を埋め込んだ誘導質問)
- 「はい/いいえ」で終わる質問(クローズドクエスチョン)は深掘りにつながらない。「〜について詳しく教えてください」「そのとき何が起きましたか」のようなオープンクエスチョンを中心にする
- 冒頭にアイスブレイクと目的説明を入れないと、相手が身構えて本音が出にくい
- 終盤に「ここまでで話し忘れたことはありますか」という質問を入れておくと、想定外の重要情報が出ることがある
- スクリーニング条件を曖昧にすると、そもそも今回の課題に関係が薄いユーザーが混ざり、インタビュー結果の解釈を誤る
📚 背景知識・用語解説
なぜ「意見」ではなく「行動」を聞くのか
ユーザーインタビューで最もよくある失敗は、「この機能についてどう思いますか?」といった意見・感想ベースの質問を中心に組み立ててしまうことです。人は聞かれると、その場で「もっともらしい理由」を無意識に作り上げて答えてしまう性質があります(意図的な嘘ではなく、誰にでも起きる認知的な傾向です)。その結果、「使いにくいと思いますか?」と聞けば「まあ、多少は」というような、実際の利用実態とはズレた社交的な回答が返ってきやすくなります。
誘導質問(Leading Question)の避け方
誘導質問とは、質問文の中に特定の答えを暗示する前提が埋め込まれている質問のことです。例えば「クーポンの入力欄、分かりにくかったですよね?」は、「分かりにくい」という前提を相手に押し付けており、相手は多少そう思っていなくても同調しやすくなります。中立的に聞くなら「クーポンコードを入力する際、何か気になったことはありましたか?」のように、結論を先に置かない聞き方が必要です。
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン
- クローズドクエスチョン: 「はい/いいえ」や特定の選択肢で答えられる質問(例:「クーポン画面は使いやすいですか?」)。事実確認には便利だが、深掘りには向かない。
- オープンクエスチョン: 相手が自由に言葉を選んで答える質問(例:「クーポンを使おうとしたとき、何が起きましたか?」)。インタビューの本題部分はオープンクエスチョンを中心に組み立てる。
スクリーニングの重要性
インタビュー対象者の選定基準(スクリーニング条件)を曖昧にすると、そもそも今回明らかにしたい課題と関係の薄い人が混ざり、得られた発言の解釈を誤ります。「クーポンを月1回以上使っている」「直近1ヶ月以内に利用している」など、対象とする行動の頻度・直近性を条件に含めることが基本です。
✅ 模範解答
実施概要: 1人30分・オンライン・対象5名・実施担当: あなた(記録係を1名同席させる)
1. 目的・リサーチクエスチョン
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | クーポン利用画面に関する問い合わせ増加(月18件→32件)の背景にある、ユーザーの実際の利用フローと詰まりポイントを特定する |
| RQ1 | ユーザーはクーポンをどのような場面・手順で利用しているか |
| RQ2 | クーポン利用の過程で、実際にどこでつまずいたり、迷ったりしているか |
| RQ3 | 現状の問い合わせ内容(入力欄が見つからない/併用可否が不明/有効期限表示が小さい)は、実際の利用行動の中でどう現れているか |
| 非対象 | クーポンの発行・付与ロジックへの意見収集、価格施策そのものへの評価(今回はUI/UXの利用体験に限定) |
2. スクリーニング条件
| 条件 | 理由 |
|---|---|
| 直近1ヶ月以内にクーポンを1回以上利用したことがある | 直近の記憶に基づく具体的な行動を聞くため、利用実績がない・古すぎる人は除外 |
| 月1回以上の頻度でECサイトを利用している | ヘビーユーザー・ライトユーザー双方の視点を混在させないよう、一定の利用頻度がある層に絞る |
| PC・スマホの両方から購入経験がある人を最低2名含める | クーポン画面はデバイスによってレイアウトが異なるため、片方のデバイスの声だけに偏らないようにする |
| 直近でCSに問い合わせた経験がある人・ない人を混在させる(各2〜3名) | 問い合わせをした人だけに偏ると「困った人の声」しか集まらず、困っていても問い合わせずに離脱した人の視点が抜ける |
3. インタビュー質問(導入→本題→クロージング)
| # | フェーズ | 質問 | 意図(なぜこの聞き方か) |
|---|---|---|---|
| Q1 | 導入 | 本日はお時間いただきありがとうございます。まず簡単に、普段どのくらいの頻度でこのECサイトをご利用いただいているか教えていただけますか? | アイスブレイクを兼ねつつ、事実確認(頻度)から入り相手の緊張をほぐす |
| Q2 | 導入 | 買い物をされるとき、PCとスマホどちらを使うことが多いですか? | デバイス別の体験の違いを後の質問で深掘りするための前提情報を得る |
| Q3 | 本題 | 直近でクーポンを使ってお買い物をされたときのことを、思い出せる範囲で構わないので、購入の最初から最後まで順を追って教えていただけますか? | 意見ではなく直近の具体的な行動を再現してもらう、最も重要な質問。誘導を避けるため「どこが分かりにくかったか」は聞かず、まず行動全体を語ってもらう |
| Q4 | 本題 | そのとき、クーポンコードはどうやって入力されましたか? どこかで迷ったり、探したりした瞬間はありましたか? | 「分かりにくかったですか」という誘導を避け、「迷った瞬間はあったか」という中立的な聞き方で行動の詰まりを引き出す |
| Q5 | 本題 | 複数のクーポンをお持ちだった経験はありますか? もしあれば、そのときどう使い分けましたか? | 併用可否についての問い合わせが多いテーマだが、直接「併用可否は分かりにくいですか」と聞かず、実際の行動(使い分け方)から実態を探る |
| Q6 | 本題 | クーポンの有効期限について、購入の際に確認したり気にしたりしたことはありますか? そのときどうやって確認しましたか? | 「表示が小さい」という声があるが、まず確認行動があったかどうかを聞き、意見の押し付けを避ける |
| Q7 | 本題 | クーポンが使えなかった、または思っていた通りに適用されなかった経験はありますか? あれば、そのときどうされましたか? | クローズドで終わらせず「そのときどうされましたか」で行動の続きを引き出す。離脱・再試行・問い合わせのどれに至ったかが分かる |
| Q8 | 本題 | (Q7で「はい」の場合) その後、CSに問い合わせをされましたか? しなかった場合、なぜ問い合わせしなかったか教えていただけますか? | 問い合わせをしなかった人の「サイレントな離脱」を可視化する。CSの一次対応記録だけでは見えない部分 |
| Q9 | 本題 | クーポン以外の場面で、似たような「探しにくい」「分かりにくい」と感じた経験はサイト内でありますか? | クーポン画面固有の問題か、サイト全体のUI傾向の問題かを切り分ける比較材料を得る |
| Q10 | 本題 | もしクーポンの使い方について、事前に誰かに聞けるとしたら、どんなことを確認したいと思いますか? | 意見を聞く質問だが、あえて終盤に配置。ここまでの行動の振り返りを踏まえた上での要望は、冒頭でいきなり聞くよりも具体性が増す |
| Q11 | クロージング | ここまでお話しいただいた中で、話し忘れたことや、こちらから聞かれなかったけれど伝えておきたいことはありますか? | オープンな締めの質問。想定外の重要情報を拾うための保険。用意した質問の枠外の情報を得る唯一の機会 |
| Q12 | クロージング | 本日はありがとうございました。もし追加で確認させていただきたいことがあった場合、改めてご連絡してもよろしいでしょうか? | 追跡調査の可能性を残し、関係性を良好に終える |
💡 なぜこう作るのか
⚠️ よくある失敗パターン
| 失敗パターン | なぜ問題か | 改善策 |
|---|---|---|
| 「クーポン画面、使いにくいと思いますか?」と直接聞いてしまう | 前提(使いにくい)を埋め込んだ誘導質問になり、相手が本音でなく同調的な回答をしやすい | 「クーポンを使ったときのことを教えてください」と行動を聞く質問に置き換える |
| 質問リストを機械的に上から順に読み上げる | 相手の回答の中に重要な手がかりがあっても深掘りせず流してしまう | ガイドは骨格として用意し、回答に応じてその場で追加の深掘り質問を挟む |
| スクリーニング条件を「クーポンを使ったことがある人」とだけ緩く設定する | 半年前に1回だけ使った人と、毎週使うヘビーユーザーが混在し、得られる情報の質がバラつく | 利用頻度・直近性・デバイスなど複数条件を組み合わせて対象を絞る |
| インタビュー冒頭からいきなり本題(クーポンの課題)に入る | 相手が身構えて建前的な回答をしやすくなる。ラポール(信頼関係)が築けていない状態では踏み込んだ話を引き出しにくい | 導入で頻度確認などの答えやすい質問からアイスブレイクを挟む |
| 「はい/いいえ」で終わる質問ばかりを並べる | 深掘りにつながらず、表面的な事実確認で終わってしまう | オープンクエスチョン(〜について教えてください、そのとき何が起きましたか)を中心に組み立てる |
🏆 実務での使いどころ
ユーザーインタビューの質問設計は、PdMだけでなくエンジニアがユーザーと直接話す機会(サポート同席、ユーザーテスト立ち会い等)でも活きるスキルです。特に「意見ではなく行動を聞く」という原則は、社内のヒアリング(他部署に要件を聞く場面、CS担当者に問い合わせ傾向をヒアリングする場面)にも応用できます。今回作成したインタビューガイドは、実施後にリサーチクエスチョン(RQ1〜RQ3)ごとに発言を整理し、次のPdM-リサーチのテーマ(カスタマージャーニーマップ等)につなげていく土台になります。デザイナーやエンジニアと一緒にインタビューに同席してもらうと、聞いた内容の解釈のズレを防ぎやすくなります。
🚀 次のステップ
今回作成したインタビューガイドを使って5名にインタビューを実施したと仮定した場合、次はその発言(例:「クーポンコード入力欄が決済ボタンの下にあり見落とした」「併用可否の表示がなく試して初めて分かった」等)を集約し、カスタマージャーニーマップに落とし込んでペインポイントを可視化する、という流れが自然です。次回のPdM-リサーチ(テーマ#2 JTBD、またはテーマ#3 カスタマージャーニーマップ)では、この続きのシナリオを扱う想定です。