Day 021 — PdM-リサーチ: ユーザーインタビュー設計

2026-09-05 (Sat) 🟢 Junior PdM-リサーチ(ユーザーリサーチ・指標設計) 成果物: インタビューガイド(質問設計書)

🎬 シナリオ

MOps(Marketing Ops/販促システム)チームは半年前、実店舗とECサイトのポイントを統合する「店舗連携デジタル会員証」機能をリリースした。アプリ内にバーコードを表示し、実店舗のレジで提示するとEC側の会員ポイントに合算される仕組みで、実店舗を持つ自社ブランドとの連携施策の目玉として企画されたものだ。

リリース前の事業計画では「アプリ会員のうち実店舗を月1回以上利用する層の40%が定期利用する」という目標を置いていたが、3ヶ月経過時点の利用率は12%にとどまっている。ここまでは他のテーマでもよくある「数字が伸びない」話なのだが、今回はやや事情が違う。

  • CSへの問い合わせ件数は月平均2件のみ(「バーコードが読み取れない」等の技術的な問い合わせで、機能自体への苦情ではない)
  • アプリのクラッシュログ・エラーログにも異常は出ていない
  • 機能の存在を知っているかを尋ねたごく簡易なアンケート(設問1問、任意回答、回収数42件)では「知っている」が78%と、認知率自体は低くない

つまり、「壊れている」「分かりにくくて困っている」という明確な不満のシグナルがどこにも出ていないまま、静かに使われていない状態が続いている。

💬
エンジニアリード「エラーもクレームも出ていないから、実装の問題ではなさそう。原因が分からないまま次の四半期に持ち越すのは避けたい」
💬
マーケティング部長「せっかく実店舗連携の目玉として社内発表もした機能なので、ここで諦めるなら理由を説明できる材料が欲しい。逆に伸ばせる余地があるなら、来月のマーケ予算会議で追加施策を提案したい」

PdMから「実店舗をよく使うのにこの機能を一度も使ったことがない会員に、今月中に6名インタビューできる枠を確保した。質問設計をお願いしたい」と依頼された。

📝 課題

あなたのタスク: 今回のユーザーインタビューのための「インタビューガイド」を作成してください。以下を含めること。

  1. インタビューの目的とリサーチクエスチョン(何を明らかにしたいか)を明文化する
  2. スクリーニング条件(誰にインタビューすべきか)を定義する
  3. 誘導質問を避けた行動ベースの質問を、導入〜本題〜クロージングの流れで並べる(合計10〜15問程度)
  4. 各質問について、それが「なぜその聞き方なのか」(誘導を避ける工夫、行動を聞き出す工夫)を一言添える

🔍 ヒント(段階的開示)

取り組む前のヒント
  • 「なぜ使わないのですか?」と直接聞くと、相手はその場で「特に理由はないけど...」とあいまいに答えるか、後付けの理由をひねり出しがちになる。今回は不満のシグナルすら出ていないケースなので、この落とし穴に特に陥りやすい
  • 「知っている」と回答した78%という数字を鵜呑みにせず、「知っている」の中身(機能名を聞いたことがあるだけなのか、使い方まで理解しているのか、実店舗のレジで使えることまで分かっているのか)を分解して確認する
  • 今回のポイントは「使わない理由」を聞くことではなく、「実店舗のレジに立った瞬間、何が起きて/起きなかったのか」を具体的に再現してもらうこと。直近の実店舗利用のシーンを時系列で辿ると発見が多い
  • 「知っているが使っていない」層と「そもそも認知していない」層は、原因も打ち手も別物になる可能性が高い。スクリーニングやインタビュー中に両者を区別する設計が要る
  • 「アプリでバーコードを出す」という行為自体に、レジ前での心理的なハードル(店員を待たせる不安、操作に自信がない等)がないかも探る観点として持っておく
  • CSへの問い合わせがほぼゼロという事実は「問題がない」ではなく「困っても問い合わせという行動に至っていない」可能性がある、という前提でヒアリングする

📚 背景知識・用語解説

「不満のシグナルがない離脱・非利用」を調べる難しさ

通常のユーザーリサーチは、問い合わせ増加やクレーム、明確なエラーログといった「何かがおかしい」というシグナルを起点に始まることが多いです。しかし今回のケースのように、エラーもクレームもないまま静かに使われていない状態は、定量データだけでは原因の見当をつけにくく、インタビュー設計そのものが難しくなります。

こうしたケースで「なぜ使わないのですか?」と直接尋ねても、そもそも本人がその機能を意識的に避けているわけではないため、明確な答えが返ってこないことが多く、その場で無理に理由をひねり出した回答(後付けの合理化)が混ざりやすくなります。有効なのは、「使わない理由」を聞くのではなく、使う機会があったはずの具体的な場面(今回なら実店舗のレジに立った瞬間)を時系列で再現してもらい、そこで何が起きたか/起きなかったかを観察するアプローチです。

認知率の数字を鵜呑みにしない

簡易アンケートで「知っている」が78%という結果が出ていますが、この手のシングルクエスチョンの認知調査は、何を「知っている」とみなすかの解像度が粗いという弱点があります。「機能名を見た記憶がある」というレベルの認知と、「実店舗のレジでバーコードを出せば使えると理解している」というレベルの認知は、行動に結びつくかどうかがまったく違います。インタビューでは、この認知の解像度をアンケートより一段深く分解して確認する必要があります。

「認知はしているが使わない」と「認知していない」を分けて考える

非利用の原因を探る際、そもそも知らなかったから使えなかった層と、知っていたが何らかの理由で使わなかった層を一括りにインタビューしてしまうと、得られる示唆がぼやけます。前者への打ち手は告知・導線の強化であり、後者への打ち手は体験そのものの改善(UI、心理的ハードルの解消等)というように、原因のレイヤーが異なるためです。スクリーニングの段階、あるいはインタビュー冒頭の質問で、この2層を意図的に区別できるようにしておくことが重要です。

✅ 模範解答

📄
インタビューガイド — 店舗連携デジタル会員証「静かな非利用」に関するユーザーインタビュー
実施概要: 1人30分・オンライン・対象6名・謝礼あり・実施担当: あなた(記録係を1名同席させる)

1. 目的・リサーチクエスチョン

項目内容
目的エラーや苦情といった明確な不満シグナルが出ていないにもかかわらず、店舗連携デジタル会員証の利用率が目標を大きく下回っている(12%/目標40%)原因を、実店舗利用時の具体的な行動から特定し、追加投資(マーケ施策)か縮小・撤退かの判断材料を得る
RQ1実店舗のレジに立った瞬間、この機能を使う/使わないの分岐点で実際に何が起きているか
RQ2「機能を知っている」と回答した層は、具体的にどのレベルまで使い方・利用シーンを理解しているか
RQ3バーコード提示という操作自体に、レジ前特有の心理的なハードルがあるか
非対象ポイント付与率・還元率そのものに対する意見(今回は利用体験のプロセスに限定し、条件面の是非は別テーマとして扱う)

2. スクリーニング条件

条件理由
アプリを直近3ヶ月インストールしたままで、実店舗を月1回以上利用している機能を使う機会が客観的に存在した人に限定し、「そもそも店に行っていない」層を除外する
店舗連携デジタル会員証機能を一度も使ったことがない今回の調査対象である「非利用者」を明確にする
簡易アンケートで「機能を知っている」と回答した人を3名、「知らない」と回答した人(または未回答)を3名、半々で含める認知の有無で原因のレイヤーが変わるため、両方の声を意図的に集める
実店舗のレジでの支払い方法(現金/クレジットカード/コード決済等)が偏らないよう混在させる支払い方法によってレジでの操作の余地・タイミングが変わる可能性があるため
CSへの問い合わせ経験の有無は問わない(今回は母数が少なく絞り込み条件にしない)問い合わせ経験者がほぼいない前提のため、条件に加えても対象者を確保できない

3. インタビュー質問(導入→本題→クロージング)

#フェーズ質問意図(なぜこの聞き方か)
Q1導入本日はお時間をいただきありがとうございます。今日は普段の実店舗でのお買い物の様子について伺えればと思います。まず、直近で実店舗にお買い物に行かれたのはいつ頃でしたか?感謝と目的(買い物体験全般を聞く)を伝えつつ、答えやすい事実確認から入る。「会員証機能について」と先に言わないことで、機能ありきの構えた回答を避ける
Q2導入そのときは、お会計はどのような方法でされましたか?支払い方法という客観的事実を確認し、レジでのやり取りを具体的に思い出す助走にする
Q3本題レジに並んでからお会計が終わるまで、どんな流れだったか、できるだけ詳しく教えていただけますか?誘導なしでレジでの一連の行動を時系列で再現してもらう。ここでスマホ・アプリへの言及が自然に出るかどうかを観察する重要な質問
Q4本題弊社のアプリに「店舗連携デジタル会員証」という、バーコードを見せるとポイントが貯まる機能があるのをご存知でしたか?ここで初めて機能名を出し、認知の有無を確認する分岐点の質問。以降の質問はQ4の回答で枝分かれさせる
Q4-a本題(知っている場合)どこでその機能を知りましたか? また、レジで実際にバーコードを出せば使えるということまで、ご存知でしたか?アンケートの「知っている」が名前だけの認知なのか、使い方まで理解した認知なのかを分解する
Q4-b本題(知らない場合)今回初めて聞いたということですね。もし先ほどのレジの場面でこの機能があると知っていたら、その場で使ってみようと思いましたか?認知していない層に対して、認知さえあれば行動に結びついたかの見込みを確認する。仮定の質問だが、告知不足の可能性を測る材料になる
Q5本題(知っている場合)これまでに、レジでこの機能を使おうかなと一瞬でも考えたことはありますか? そのときはどんな場面でしたか?「知っているが一度も検討すらしていない」のか「検討したが結局使わなかった」のかを切り分ける
Q6本題(検討したことがある場合)実際に使わなかったのは、その場でどんなことがあったからですか?「なぜ使わないか」を一般論で聞くのではなく、検討した具体的な場面に絞って直前の出来事を聞く
Q7本題レジでスマホを取り出してアプリを開き、バーコードを表示する、という一連の操作について、もし実際にやるとしたら、時間的にも心理的にもスムーズにできそうだと思いますか?操作そのものへの心理的ハードル(店員や後ろの列を待たせる不安など)を、意見として聞く質問。他の事実ベースの質問の後に置くことで具体性のある回答を引き出す
Q8本題普段、レジでコード決済やポイントカードのアプリを開くこと自体には慣れていますか? 他のお店で似たような操作をされることはありますか?今回の機能特有の問題なのか、そもそも「レジでスマホを操作する」という行為全般に慣れていないのかを切り分ける比較材料を得る
Q9本題ポイントは通常、どんな形で貯めたり使ったりされていますか? EC側のポイントと実店舗のポイントは、これまで別々のものという感覚がありましたか?EC・実店舗のポイントが統合されるという価値提案自体が、本人の頭の中でどう理解されているかを確認する。価値の伝わり方の問題かどうかを見る
Q10本題もし次に実店舗に行く機会があったとして、この機能を使ってみようと思いますか? それとも今のところは使わないと思いますか?ここまでの振り返りを踏まえた意向を最後に確認する。行動ベースの質問の後に置くことで、その場しのぎの社交辞令的な回答を減らす
Q11クロージングここまでお話しいただいた中で、話し忘れたことや、こちらから聞かれなかったけれど伝えておきたいことはありますか?想定していなかった重要情報を拾うための保険。質問リストの枠外の情報を得る唯一の機会
Q12クロージング本日は貴重なお話をありがとうございました。もしよろしければ、今後こうした機能についてまたご意見を伺うことがあるかもしれませんが、その際はご協力いただけますか?良好な関係で締めつつ、追加インタビューや別施策での再接触の余地を確保する

💡 なぜこう作るのか

1
Q1〜Q3で「店舗連携デジタル会員証」という機能名を出さずにレジでの行動を時系列で再現してもらっているのは、先に機能名を出すと「使わなかった理由」を聞かれる前提で身構えてしまい、その場で理由をひねり出した回答(後付けの合理化)が混ざりやすくなるためです。まず自然な行動の流れの中でアプリ・スマホへの言及が自発的に出るかどうかを観察し、そのうえでQ4で初めて機能の存在を確認する順番にしています。
2
Q4を分岐点とし、Q4-a/Q4-bで「知っている」層と「知らない」層で以降の質問を枝分かれさせているのは、簡易アンケートの認知率78%という数字だけでは「名前を見たことがある」のか「使い方まで理解している」のかが判別できず、原因のレイヤー(告知不足なのか、体験の問題なのか)を混同したまま調査を進めてしまうリスクがあるためです。6名という限られた枠を「知っている3名・知らない3名」で意図的に半々に振り分けているのも、この2層を両方カバーする狙いです。
3
Q7で操作そのものへの心理的ハードルを尋ねているのは、CSへの問い合わせがほぼゼロという事実を「問題なし」と解釈せず、「困っても問い合わせという行動にすら至っていない可能性がある」という前提を踏まえた設計です。レジ前で店員や後ろの列を待たせる不安のような、問い合わせにすら至らない小さな心理的抵抗は、定量データにもCSログにも現れません。
4
Q9でEC・実店舗のポイント統合という価値提案の理解度を確認しているのは、そもそも「便利になる」という価値自体が伝わっていない可能性を検証するためです。認知はあっても価値が理解されていなければ、告知を増やすだけでは利用率は伸びず、価値の伝え方(訴求文言・体験の見せ方)から見直す必要がある、という異なる打ち手につながります。

⚠️ よくある失敗パターン

失敗パターンなぜ問題か改善策
冒頭からいきなり「なぜこの機能を使わないのですか?」と聞いてしまう 不満のシグナルが出ていないケースでは特に、相手がその場で理由をひねり出した後付けの回答をしがち 機能名を出さずにレジでの行動を時系列で再現してもらい、自然な言及を観察する
アンケートの「知っている」78%をそのまま信じて調査対象から認知度合いを分解しない 名前だけの認知と使い方まで理解した認知が区別されないまま、原因を「体験の問題」と決めつけてしまう インタビュー内で認知の解像度(名前/使い方/利用シーン)を段階的に確認する
「知っている」層と「知らない」層を区別せず一括りにインタビューする 告知不足が原因の層と体験自体が原因の層が混在し、打ち手の方向性が絞れない スクリーニングまたは質問の分岐で両者を意図的に分けて聞く
CSへの問い合わせがゼロであることを「大きな問題はない」と解釈してしまう 困っていても問い合わせという行動に至らないケースを見落とし、静かな非利用の実態を過小評価する 問い合わせの有無ではなく、実際の行動(レジでの操作の有無)を直接確認する
レジでの操作という文脈特有の心理的ハードルを聞かずに終える アプリの使いやすさだけを検証し、待たせる不安等のレジ特有の抵抗を見逃す 操作自体への心理的な負担感を、具体的な行動の後に意見として聞く質問を入れる

🏆 実務での使いどころ

「エラーもクレームも出ていないのに使われていない」という状況は、通知をオフにされがちな機能、リリース直後は使われるが定着しないオプトイン機能など、エンジニアが自分の作った機能でもしばしば直面します。今回のように先に行動を時系列で再現させ、機能名は後から出す、認知を単一の有無ではなく解像度で分解するという2つの工夫は、こうした「静かな非利用」全般に応用できます。マーケティング部長への説明では、今回のインタビュー結果を使って「告知強化で解決する話なのか、体験自体を作り直す話なのか」を切り分けて伝えることになり、これは追加予算の使い道を左右する重要な論点になります。

🚀 次のステップ

今回作成したインタビューガイドで6名にインタビューを実施したと仮定した場合、次は「認知はあるが使わない」層と「認知していない」層で得られた発言を分けて整理し、それぞれに対する打ち手(告知強化 vs 体験改善 vs 機能自体の縮小)を仮説として言語化する、という流れが自然です。次回のPdM-リサーチ(テーマ#1継続、またはテーマ#2 JTBDへの進行判定)では、この続きのシナリオ、または別の非利用パターンを扱う想定です。

🎯 自己評価

自分の回答

所要時間・気づき・メモ