🎬 シナリオ
MOps チームは、日用品(洗剤・トイレットペーパー・ミネラルウォーター・ペットシーツなど)の 「定期おトク便」 の販促まわりを担当している。登録すると毎回 10%オフ で、30日か60日ごとに自動で届く。周期はマイページの「定期便の管理 → お届け内容の変更 → 周期」で15〜90日に変えられるが、ほとんど使われていない。
困っているのは、始めた人の多くが3回目までに辞めてしまうことだ。
定期おトク便の数字(直近3か月)
| 項目 | 値 | 出所 |
|---|---|---|
| 継続中の定期便会員 | 6,200人(うち3回目以降 4,300人) | 実測 会員DB |
| 新規登録 | 月 約900人 | 実測 |
| 新規登録者の 2回目 / 3回目 / 6回目 受け取り率 | 81% / 56% / 41% | 実測 登録コホート |
| 月間の解約 | 約520人 | 実測 |
| 1回あたりの平均注文額 | 3,600円(割引後。定価換算 4,000円) | 実測 |
| 平均の周期 | 45日 | 実測 |
| 周期を1回以上変更した人 | 4% | 実測 操作ログ |
| スキップを1回以上使った人 | 27% | 実測 操作ログ |
| 届け先が注文者の住所と違う会員 | 継続会員の17%。6回目受け取り率 72%(全体41%) | 実測 |
| 全品セール(最大20%オフ)月の解約 | 平常月の1.9倍 | 実測 |
解約時アンケート(任意・1つ選択、n=312) 実測
| 理由 | 割合 |
|---|---|
| 商品が余る・使い切れない | 49% |
| 価格が高い | 15% |
| セールのときに単発で買う方が安い | 12% |
| お届け日が合わない | 10% |
| 他の店で買うことにした | 8% |
| その他 | 6% |
💬
マーケティング部長(10/6 予算会議に提案予定)「3回目以降の割引を 10% → 15% に上げたい。辞める理由の上位に『価格』『セール』が入っている。割引を厚くすれば残ってくれるはず」
💬
PdM「アンケートの『余る』が49%と言われても、何を直せばいいのか分からない。インタビューのメモを渡すので、お客さんが定期便を何のために『雇って』、なぜ『クビにした』のかを JTBD で整理してほしい。予算会議の前に、割引率の案にどう答えるかも決めたい」
インタビューメモ(解約者5名・継続者3名、各45分)
| ID | 状態 | 属性・頼んでいた物 | 発言の抜粋 |
|---|---|---|---|
| P1 | 解約(2回目後) | 30代・共働き2人/洗剤・トイレットペーパー・30日 | 「登録したきっかけは、トイレットペーパーを切らして夜中にコンビニに走ったこと。二度とやりたくなかった」「2回目が届いたとき、前の分が半分以上残っていた。段ボールを玄関に置いたまま1週間。3回目の案内メールを見て『また来る』と思って、その場で解約した」「周期を変えられるのは知らなかった。知っていても、次にどれくらい使うかなんて分からない」「今は会社帰りのドラッグストアで、残り2ロールくらいになったら買っている。アプリのクーポンもあるし」 |
| P2 | 解約(4回目後) | 40代・家族4人/水2L×6本・30日 | 「夏は足りなくて別に買い足して、秋になったら箱が3つ余った。季節で倍くらい違う」「重いから定期にしたのに、余った箱を物置まで運ぶのが結局重い」「今はネットスーパーで、他の食品と一緒に都度頼んでいる」 |
| P3 | 解約(3回目後) | 20代・一人暮らし/ペットシーツ・洗剤・60日 | 「セールで20%オフのときにまとめ買いした方が安いと気づいた。セールのお知らせメールを見て、その日に解約した」「切らしたらコンビニで買えばいいので、定期である必要はない」 |
| P4 | 解約(5回目後) | 30代・子ども2人/洗剤・食器用洗剤・ゴミ袋・30日 | 「スキップは何回も使った。毎回『お届け予定のお知らせ』メールを見て、ログインして、ボタンを押して。スキップするのが仕事みたいになったので辞めた」「本当は、日付じゃなくて『なくなりそうになったら届く』のが理想」 |
| P5 | 解約(3回目後) | 50代・夫婦/トイレットペーパー・60日 | 「生協の宅配を始めたので、そっちにまとめた。毎週来るから、そこで一緒に頼めば済む」 |
| P6 | 継続(14回目) | 40代・会社員/届け先は隣県の78歳の母/トイレットペーパー・洗剤・水・30日 | 「母は車を手放してから、重い物を買いに行けない。でも『買ってきて』とは言わない人で、気づくと切らしている」「定期にしてから、電話で『トイレットペーパーある?』と聞かなくて済むようになった。母も『勝手に来るから』と言える」「困るのは、届いたかどうか私には分からないこと。配達完了のメールが私に来ればいいのに」「10%オフは正直どうでもいい」 |
| P7 | 継続(9回目) | 30代・車なし・エレベーターのない4階/水・米・45日 | 「重い物を階段で運ばなくていい。それだけで続けている」「余ったらスキップ。水は腐らないから少し余ってもいい」 |
| P8 | 継続(4回目、うち3回スキップ) | 30代・夫婦/洗剤・柔軟剤・30日 | 「辞める理由もないけど、実質ほとんどスキップしている。割引があるから、なんとなく残している」 |
📝 課題
あなたのタスク: インタビューメモと数字から、定期おトク便の JTBD 分析シートを作ってください。次の5点を含めること。
- ジョブの定義(2〜3個)。「誰が・どんな状況で・どんな進歩をしたいか」の形で、根拠(P番号・数字)を添える。機能面だけでなく感情面・社会面も
- 解約という「乗り換え」の、進歩の4つの力(押し出す力・引き寄せる力・不安・習慣)を、いちばん大きいジョブについて表にする
- 競合する解決策: 定期便の代わりに何が「雇われて」いるか
- ジョブストーリー(When … I want to … so I can …)を3つ以上
- マーケティング部長の「割引 10%→15%」案への回答(数字の試算つき。反対なら代わりに何を試すか)
加えて、検討した案(採らなかった案)を2つ以上、理由と「判断が変わる条件」つきで残してください。
🔍 ヒント(段階的開示)
ヒント1: ジョブか、条件か
ジョブは商品や機能ではなく、状況の中で人が得たい進歩。「10%安く買いたい」はジョブか、それとも手段を選ぶときの条件か。
ヒント2: 「余る」はなぜ辞める理由になるのか
「余る」は結果。P1 が登録した理由と辞めた理由を並べてみる。スキップも周期変更も、お客さんに何をさせる機能か。
ヒント3: 継続者は同じジョブか
継続者3人は、解約者と同じ理由で雇っているか。数字の表に、継続率が極端に高い層がいないか。
ヒント4: 4つの力と割引
乗り換えが起きるのは 押し出す力+引き寄せる力 > 不安+習慣 のとき。割引はこの4つのどれに効くか。解約者の話で強いのはどれか。
ヒント5: 競合とジョブストーリー
P1 の今の買い方は「ドラッグストア」。競合は他社の定期便か。ジョブストーリーはペルソナ(「30代共働き」)ではなく状況から書く。P1 と P6 を区別できる書き方は?
ヒント6: 割引の試算
3回目以降の会員 4,300人・平均周期45日・定価4,000円で、5%上乗せすると月いくらか。それで直せるのはアンケートの何%か。取り返すには何人の継続が要るか。
📚 背景知識・用語解説
📖
JTBD(Jobs to be Done): 顧客は商品を「買う」のではなく、生活のある状況で進歩するために商品を「雇う(hire)」。進歩をもたらさなければ「クビにする(fire)」。クリステンセン研究所は、ジョブを「ある状況の中で、目標に向かって人が得ようとしている進歩」とし、機能面・社会面・感情面があるとしている。
一次資料: Christensen Institute「Jobs to Be Done」christenseninstitute.org(参照日 2026-09-26)/ Christensen, Hall, Dillon, Duncan "Know Your Customers' 'Jobs to Be Done'" HBR 2016年9月号 hbr.org(参照日 2026-09-26)。朝の通勤客がミルクシェイクを「退屈な運転を紛らわし、昼まで空腹を抑える」ために雇っていた例が有名
一次資料: Christensen Institute「Jobs to Be Done」christenseninstitute.org(参照日 2026-09-26)/ Christensen, Hall, Dillon, Duncan "Know Your Customers' 'Jobs to Be Done'" HBR 2016年9月号 hbr.org(参照日 2026-09-26)。朝の通勤客がミルクシェイクを「退屈な運転を紛らわし、昼まで空腹を抑える」ために雇っていた例が有名
🤔
なぜ JTBD が必要か: アンケートの選択肢や年代・家族構成は「何が起きたか」は教えてくれるが、「何をしてほしかったのか」は教えてくれない。JTBD は登録したときの状況と辞めたときの状況を並べ、「雇われた理由」と「クビになった理由」を同じ言葉で書く。すると、直すべきものが機能の追加なのか、既存機能の届け方なのか、別のジョブなのかが分かれる。
⚖️
進歩の4つの力(Forces of Progress): 押し出す力(今への不満)・引き寄せる力(新しいやり方の魅力)・不安(新しいやり方への心配)・習慣(今への慣れ)。乗り換えは「押し出す+引き寄せる」が「不安+習慣」を上回ったときに起きる。引き止めたいなら、引き寄せる力を足すより、押し出す力を減らす方が効くことが多い。
出典(書籍): B. Moesta, C. Spiek "The Jobs-to-be-Done Handbook" 2014 / B. Moesta "Demand-Side Sales 101" 2020
出典(書籍): B. Moesta, C. Spiek "The Jobs-to-be-Done Handbook" 2014 / B. Moesta "Demand-Side Sales 101" 2020
📝
ジョブストーリー: ユーザーストーリーの「役割(As a …)」の代わりに状況を書く形式。
一次資料: Paul Adams "How we accidentally invented Job Stories" Intercom Blog 2016-06-28 intercom.com(参照日 2026-09-26)
When 〈状況〉, I want to 〈動機〉, so I can 〈得たい結果〉。Intercom がペルソナの代わりに「状況・動機・得たい結果」に注目する方法として紹介した。一次資料: Paul Adams "How we accidentally invented Job Stories" Intercom Blog 2016-06-28 intercom.com(参照日 2026-09-26)
🔀
JTBD の2つの流派: クリステンセン/モエスタ派は感情面・社会面を含む「進歩」をジョブとし、乗り換えの瞬間をインタビューで掘る(少人数の定性調査向き、今回はこちら)。アルウィック派(ODI)はジョブを機能的な作業に分解し、「望む成果」の文を数十〜百個作ってアンケートで重要度×満足度を数える(定量化に強いが準備が重い)。
出典(書籍): A. Ulwick "Jobs to be Done: Theory to Practice" 2016
出典(書籍): A. Ulwick "Jobs to be Done: Theory to Practice" 2016
💡
ジョブと「選ぶ条件」の違い: 「安い」「早い」はジョブを片付ける手段を選ぶときの条件。条件だけで雇っている顧客は、もっと条件の良いもの(今回は自社のセール)が出たらすぐ乗り換える。
✅ 模範解答 — JTBD 分析シート(定期おトク便)
クイズ: 各インタビュー対象者は、どのジョブで定期便を雇っていたか?
自分で考えてから「答え」を押す。
| ID | ひとことで | |
|---|---|---|
| P1 | 夜中にコンビニ → 段ボールが玄関に1週間 | J1 切らしたくないが、在庫の判断と置き場所は増やしたくない |
| P2 | 季節で量が倍違う水 | J1(一部 J3)。「余った箱を運ぶのが重い」=J3 の動機が J1 の失敗で裏切られた |
| P3 | セールの方が安い | ジョブではない 「安さ」という条件で雇っていた。自社のセールに負けた |
| P4 | スキップが仕事みたい | J1 判断の手間を手放したかったのに、スキップで判断が毎回戻ってきた |
| P5 | 生協にまとめた | 候補(記録のみ) 「注文先を1つにまとめたい」。8名中1名で、定期便の改善では答えにくい |
| P6 | 届け先は母の家 | J2 親に頼ませずに、親の必需品を切らさない。届け先が異なる会員17%・継続率72%と一致 |
| P7 | 階段4階、重い物 | J3 重い物を運ばずに済ませたい。余っても許容 |
| P8 | ほぼスキップ、なんとなく残留 | J1 押し出す力はあるが、習慣(10%オフ)で辛うじて残っている。解約予備軍 |
1. 見つかったジョブ
| # | ジョブ(状況 → 得たい進歩) | 機能面 | 感情面・社会面 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| J1 | 家で日用品を使う人が、切らす心配から解放されたい。ただし、在庫を数えたり次にいつ要るかを判断したりする手間と、置き場所は増やしたくない | 切らさない/在庫を持ちすぎない | 夜中にコンビニへ走る惨めさを避けたい(P1)。「スキップが仕事」は嫌(P4) | P1・P2・P4・P8。「余る」49%。周期変更4%・スキップ27% |
| J2 | 離れて暮らす親を支える子が、親に頼ませずに、親の生活必需品を切らさずにいたい | 重い物・かさばる物を親の家に届ける | 親に「買ってきて」と言わせない。親が「勝手に来るから」と言える(自尊心)。電話で尋ねずに済む | P6。届け先が異なる会員17%、6回目受け取り率72%(全体41%) |
| J3 | 車がない・階段しかない人が、重い物を自分で運ばずに済ませたい | 家の前まで届く | — | P7、P2(一部)。余ることへの許容度が高い |
🚫
ジョブではなかったもの: 「日用品を最安で買いたい」(P3)は条件。より安い手段(自社のセール20%オフ)が出た時点でクビにしている。セール月の解約1.9倍と合う。「注文先を1つにまとめたい」(P5)は候補だが8名中1名で、記録だけ残す。
🔑
核心: J1 の人は「切らさない」ために定期便を雇ったが、固定の日付で届く仕組みは「次に要るか」の判断を毎回お客さんに戻してしまう。スキップも周期変更も、その判断をさせる機能。だから機能があっても「余る」で辞める。P1「知っていても、次にどれくらい使うかなんて分からない」。
2. 進歩の4つの力(J1: 定期便 → ドラッグストアのついで買いへの乗り換え)
🔴 押し出す力(今への不満)
- 届くたびに在庫が増え、段ボールが玄関に残る(P1)
- 季節で量が倍違い、固定の量が合わない(P2)
- スキップの判断と操作が毎回来る(P4)
- 「また来る」という圧迫感(P1)
🟢 不安(乗り換え先への心配)
- また切らして夜中にコンビニへ走るかもしれない(P1 の登録理由そのもの)
- 重い物を自分で運ぶ(P2・P7)
🔴 引き寄せる力(乗り換え先の魅力)
- 帰り道に、残りを見てから買える=量を自分で決められる(P1)
- アプリのクーポン(P1)
- 他の食品と一緒に頼める(P2)
🟢 習慣(今への慣れ)
- 放っておけば届く状態
- 10%オフ(P8「なんとなく残している」)
施策を当ててみる — 概念図。点数は力の大小関係を説明するための仮定で、実測ではない
押し出す+引き寄せる
不安+習慣
3. 競合する解決策(定期便の代わりに雇われているもの)
| ジョブ | 代わりに雇われているもの | 相手が勝つ点 | 定期便が勝つ点 |
|---|---|---|---|
| J1 | 会社帰りのドラッグストアでのついで買い(P1) | 残りを見てから要る分だけ買える。ついでなので手間が小さい | 切らさない。持ち運びが無い |
| J1 | 切らしたらコンビニ(P3) | 在庫を一切持たない | 夜中に走らなくていい。安い |
| J1 | ネットスーパー・生協でまとめて注文(P2・P5) | 他の買い物と一緒に、毎回量を決められる | 注文の操作自体が要らない |
| J2 | 帰省のたびに買いだめ/電話で聞いてネット注文 | 親の家の在庫を目で確かめられる | 電話で聞かずに済む。親に頼ませない |
| J3 | ネットスーパーの都度配達 | 量を毎回決められる | 注文を忘れない |
🎯
J1 の競合は他社の定期便ではなく「ついで買い」。強みは「残りを見てから決められる」点なので、定期便が勝つには判断を軽くする(またはしなくて済むようにする)必要がある。値段の勝負ではない。
4. ジョブストーリー
| # | ジョブ | When(状況) | I want to(動機) | so I can(得たい結果) |
|---|---|---|---|---|
| JS1 | J1 | 次のお届けが近いのに、前回分がまだ残っているとき | お届け予定のメールから、ログインせずにワンタップで次回を2週間か4週間遅らせたい | 段ボールを積まずに、解約もしないで続けられる |
| JS2 | J1 | 水のように季節で使う量が変わる物を頼んでいて、延期や追加を何度かしたとき | これまでの延期・追加の履歴から次の周期を提案してほしい | 「次にどれくらい使うか」を自分で考えずに済む |
| JS3 | J2 | 離れて住む親の家に届けているとき | 配達完了の知らせを、注文した自分のスマホで受け取りたい | 親に電話で「届いた?」と確かめずに済む |
| JS4 | J2 | 親が「足りない」と自分からは言わない人のとき | 親の家に届く定期便に、自分の側から1品だけ追加したい | 親に頼ませずに、切れそうな物を足せる |
🛡️
J3 には新しいストーリーを書かない(今の定期便で満たせている。P7 は9回継続)。代わりに「J1 のための変更が、J3 の『放っておけば届く』を壊さないこと」を条件に加える。
5. 割引率 10%→15% 案への回答
3回目以降 4,300人 × 30日 ÷ 平均周期45日 ≒ 月 2,870件のお届け 導出
定価 4,000円 × 追加5% = 1件 200円 → 月 約57万円、年 約690万円 導出
直せる見込みのある解約理由: 価格 15% + セール 12% = 最大27%(セールは20%オフなので15%でも残る)。「余る」49% には効かない
粗利率25% 仮定 なら 1人の継続で月 3,600円 × 30/45 × 25% = 600円 → 57万円を取り返すには常に約955人(継続会員の約15%)の追加継続が要る
定価 4,000円 × 追加5% = 1件 200円 → 月 約57万円、年 約690万円 導出
直せる見込みのある解約理由: 価格 15% + セール 12% = 最大27%(セールは20%オフなので15%でも残る)。「余る」49% には効かない
粗利率25% 仮定 なら 1人の継続で月 3,600円 × 30/45 × 25% = 600円 → 57万円を取り返すには常に約955人(継続会員の約15%)の追加継続が要る
試算してみる
予算会議に出す文案
割引率の引き上げは、今回は見送りを提案します。解約理由の約半分は「余る」で、インタビューでは「在庫と次回を毎回自分で判断するのが面倒」という形で語られました。割引はこの不満に効かず、効きうる「価格」「セール」を合わせても解約理由の27%です。年約690万円の値引きに見合うには、継続会員の約15%にあたる人数を常に引き止め続ける必要があります。
代わりに、お届け予定メールに「2週間後にする/4週間後にする」のワンタップ延期ボタンを付ける施策を、新規登録者の半分で8週間試させてください。見る数字は3回目の受け取り率(今56%)です。
別件として、届け先が親の家などになっている会員(17%)は継続率が高く、別のジョブで使われています。この層への配達完了通知は小さな改修で済むため、次の四半期の候補に挙げます。
割引率の引き上げは、今回は見送りを提案します。解約理由の約半分は「余る」で、インタビューでは「在庫と次回を毎回自分で判断するのが面倒」という形で語られました。割引はこの不満に効かず、効きうる「価格」「セール」を合わせても解約理由の27%です。年約690万円の値引きに見合うには、継続会員の約15%にあたる人数を常に引き止め続ける必要があります。
代わりに、お届け予定メールに「2週間後にする/4週間後にする」のワンタップ延期ボタンを付ける施策を、新規登録者の半分で8週間試させてください。見る数字は3回目の受け取り率(今56%)です。
別件として、届け先が親の家などになっている会員(17%)は継続率が高く、別のジョブで使われています。この層への配達完了通知は小さな改修で済むため、次の四半期の候補に挙げます。
試す施策の置き方
| 施策 | ストーリー | 見る数字 | 判断の目安 |
|---|---|---|---|
| ワンタップ延期ボタン(メールから) | JS1 | 3回目の受け取り率(今56%)、延期ボタンの利用率、「余る」理由での解約件数 | 使った人が、使わずにスキップした人より3回目の受け取り率が高いか。検定と必要人数はテーマ6-9(A/Bテスト設計)で扱う |
| 注文者への配達完了通知 | JS3 | 届け先が異なる会員の継続率(72%を下げないか)、通知の開封率 | 下げなければ維持。「届いたか」の問い合わせが減るか |
6. まだ分からないこと(8名のインタビューで言えないこと)
- 割合は分からない。「余る」を「季節で量が変わる/次回を判断するのが面倒/置き場所がない」に分けたアンケートで数える
- J2 の人の他の不満。17%の層から5名ほど追加でインタビューする(Day021/028 のガイドの型)
- ワンタップ延期で「延期ばかりの実質休眠」(P8 型)が増えないか。延期回数の分布を見る
🧭 なぜこう作るのか
1
登録した理由と辞めた理由を、同じ人の中で並べた。 P1 は「切らしたくない」で雇い、「在庫と判断の手間」でクビにした。1つのジョブの前半と後半として書くと、定期便が「前半は満たし、後半で失敗している」ことが1行で分かる。
2
継続者を「満足している人」ではなく「別のジョブの人」として扱った。 平均すると J2・J3 が消える。P6 の発言を「届け先が異なる17%・継続率72%」と結べたのは、属性でなく状況で見たから。
3
「安く買いたい」をジョブから外した。 これをジョブに含めると「割引を厚くする」が正しく見えてしまう。条件で雇う人は、自社のセールにも負ける。
4
割引が4つの力のどこに効くかを明示した。 「割引は習慣を強めるが、押し出す力は減らさない」と言えば、マーケ部長の実感を部分的に認めたうえで、優先順位の話にできる。
5
ジョブストーリーを状況から書いた。 「30代共働き」では P1(J1)と P6(J2)の違いが書けない。「前回分が残っているとき」「親の家に届けているとき」と書けば、何を作るかが決まる。
6
試算に「取り返すのに何人要るか」を入れた。 「年690万円」だけでは高いか安いか分からない。「継続会員の15%を常に余分に引き止める必要」と言えば、参加者が自分で現実性を判断できる。
🗂️ 検討した案と採らなかった理由
| 案 | 内容 | 判断 | 理由 | 判断が変わる条件 |
|---|---|---|---|---|
| A. 割引率 15%(マーケ案) | 3回目以降 10%→15% | 不採用(今回は) | 「余る」に効かない。年約690万円に対し継続会員の約15%の追加継続が要る。セール(20%)にはなお負ける | 解約理由の「価格」「セール」が過半になった場合。競合の定期便が15%以上に上げ、乗り換え先として名前が挙がり始めた場合 |
| B. 周期の選択肢を増やす | 登録時に 15/30/45/60/90日 | 不採用(主施策としては) | 周期変更は既にあり4%しか使っていない。問題は選択肢の数ではなく、判断を毎回させること | 使われない理由が「場所が分かりにくい」だけだと追加調査で分かった場合 |
| C. セール月に定期便へセール価格 | セール月だけ20% | 保留 | セール月解約1.9倍と P3 は合うが1名のみ。「セール」理由は12%。条件で雇う層を追うことになる | セール月の解約者の過半が「セール」理由だった場合。セール月の費用を継続の増加で取り返せる場合 |
| D. ペルソナを作る | 「30代共働き」等の人物像 | 不採用 | J2 は年代・家族構成を横断する。属性で分けると J1 と J2 が同じ箱に入る | 施策が広告の出し分けなど、属性でしか届け先を分けられない場合(テーマ6-4) |
| E. ODI で成果を数える | 「望む成果」文×重要度・満足度アンケート | 次の段階に回す | 8名の段階では文の候補が足りず準備が重い。まずジョブの形を掴む | J1 の中でどの不満(量・判断・置き場所)が大きいかを数える段階になったとき |
| F. 採用案 | J1 の押し出す力を減らす施策(ワンタップ延期)を小さく試し、J2 への通知を次の候補に | 採用 | 解約理由の最大の塊に効く。改修が小さく、8週間で3回目の受け取り率を見られる | 延期ボタンを使った人の3回目受け取り率が使わない人と変わらなければ、J1 の見立て(判断の手間)自体を見直す |
⚠️ よくある失敗パターン
| 失敗パターン | なぜ問題か | 改善策 |
|---|---|---|
| アンケートの選択肢をそのまま課題にする(「余る」→周期を増やす) | 選択肢は結果しか表さない。なぜそれで辞めたかが抜ける | 登録したときと辞めたときの状況を、同じ人の発言で並べる |
| 「安く買いたい」をジョブにする | 値下げ競争になり、自社のセールにも負ける | 「その安さで何を片付けたいのか」を聞く。答えが無ければ条件として扱う |
| ジョブを機能の言葉で書く(「周期を柔軟に変えたい」) | 解決策が入っているので、他の解き方が考えられない | 「切らしたくないが判断の手間は増やしたくない」のように進歩の言葉で書く |
| 継続者を「満足している人」とまとめる | 別のジョブで雇っている層を壊す変更をしてしまう | 継続者のジョブも別に書き、壊さないことを条件にする |
| 競合を同業他社だけにする | 実際にはドラッグストア・コンビニ・生協に負けている | 「辞めた後どう買っているか」を聞いて表にする |
| 8名のインタビューから割合を言う | 定性調査は種類を見つけるもので、割合は分からない | 見つけたジョブを、アンケートやログで数えに行く計画を書く |
🏢 実務での使いどころ
JTBD は「何を作るか」を決める前に、「何のために使われているか」を顧客の言葉で揃える道具。販促チームの施策は「割引・ポイント・クーポン」に寄りがちで、今回のように値引きで引き止める案が最初に出る。JTBD で整理すると、値引きが効く場面と効かない場面を分けて話せる。
- マーケティング部門: 割引を否定せず「習慣に効き、押し出す力には効かない」と4つの力で説明すると、組み合わせの話にできる
- エンジニア: ジョブストーリーには状況が書いてあるので、どの画面・どのメールに何を付けるかが具体的に決まる(ワンタップ延期は、メールに署名付きリンクを入れるか、ログインを求めるか、という設計につながる)
- CS 部門: 「届いたか」の問い合わせが J2 の人から来ていないかを CS ログで確かめれば、J2 の規模をインタビューなしで推定できる
- 経営層: 「解約理由の49%」より「お客さんは在庫管理を手放すために雇っていて、今の仕組みは判断をお客さんに戻している」の1文の方が投資判断の材料になる
転用できるテンプレート
ジョブ: # | 状況 → 得たい進歩 | 機能面 | 感情面・社会面 | 根拠(発言ID・数字)
ジョブではないもの: 条件で雇っている人/1名だけの候補(記録のみ)
4つの力: 押し出す力 | 引き寄せる力 | 不安 | 習慣(発言ID付き)→ 施策がどの力に効くか
競合する解決策: ジョブ | 代わりに雇われているもの | 相手が勝つ点 | こちらが勝つ点
ジョブストーリー: When … | I want to … | so I can …
まだ分からないこと: 割合/追加で聞く相手/施策の副作用
➡️ 次のステップ
- アンケートの「余る」を3つに分けて1か月集め、J1 のどの部分が大きいかを数える
- ワンタップ延期の効果を正しく測る人数と期間を決める → A/B テスト設計(テーマ6-9)
- 登録→初回お届け→お届け予定メール→スキップ→解約の接点を感情の上下とともに描く → カスタマージャーニーマップ(テーマ6-3)。P1・P4 の発言がそのまま使える
- 自分への問い: 予算会議で「でも価格を理由に辞める人も15%いる」と言われたら、案 A の「判断が変わる条件」を使って1分で答えられるか
🚧 扱わなかった範囲(この演習の限界)
- インタビューは8名で、ジョブの種類を見つける段階まで。各ジョブの割合、施策の効果の大きさは推定していない
- 粗利率25%は仮定。商品構成(水は粗利が低い等)で変わる。試算は「取り返すのに要る人数の桁」を示すためのもの
- J2 の、親の住所・名前という個人情報の扱いや、配達完了通知を注文者に送ることの同意は、法務との確認が要る。今回は扱っていない
- ワンタップ延期と配達完了通知の優先順位付けは PdM-優先順位の題材として残した
- ODI の「望む成果」文とアンケートは案 E のとおり次の段階に回した
- 「実測」ラベルの数値は演習シナリオ上の設定値で、実在企業のデータではない。外部の一次資料は Web 3点(Christensen Institute・HBR 2016・Intercom 2016、参照日 2026-09-26)と書籍3点(Moesta/Spiek・Ulwick。本文は今回照合していない)