🎬 シナリオ
MOps(Marketing Ops/販促システム)チームの検索担当(エンジニア 2 名)は、次の 6 週間(10/12〜11/20。11/20 に凍結、ブラックフライデーは 11/27)で「サイト内検索の 0 件ヒット」を減らすことになった。今日は 10/1(木)。月間検索 120 万回のうち 0 件ヒットが約 8%(9.6 万回)あり、CS 部門から「検索で出ないという問い合わせが増えた」と報告が上がっている。
💬
リード佐藤: 「全部やる余力は無い。Value vs Effort で並べて、何を今期やり、何をやらないかを、見送る案の理由つきで出して。マーケ部長は音声検索、私は検索エンジンの入れ替えを推している。どちらも並べた上で判断して。」
設定値(すべて演習の仮定)
| 情報 | 値 | 出所 |
|---|---|---|
| 月間検索回数 / 0 件ヒット | 120 万回 / 9.6 万回(8%) | 仮定 |
| 0 件の原因内訳 | 表記ゆれ 38%(36,480)/取扱なし 30%(28,800)/型番・綴りの誤り 12%(11,520)/その他 20%(19,200) | 仮定(検索ログの手分類 200 件の想定) |
| 検索経由の購入率(CVR) | 通常 4.0%、0 件後は 0.5% | 仮定 |
| 0 件が解消した場合の CVR | 通常の 60% = 2.4%(0.6 は根拠の弱い置き) | 仮定 |
| 1 注文あたり粗利 | 5,200 円 × 28% = 1,456 円 | 仮定 |
| 今期のキャパ | 40 人日(2 名×30 日の 2/3。会議・保守を引いた値) | 仮定 |
バックログ 10 件
| ID | 案 | 工数(人日・最頻値 / 悲観値) | 要望元 |
|---|---|---|---|
| A | 表記ゆれ辞書(全半角・ひらがな/カタカナ・同義語)の導入 | 4 / 7 | CS |
| B | 型番のハイフン・大小文字を無視した一致 | 3 / 5 | CS |
| C | 綴り訂正(「もしかして」)の表示 | 12 / 20 | マーケ |
| D | 取扱なしの検索語で「近いカテゴリ」を提示 | 8 / 12 | マーケ |
| E | 検索エンジンの入れ替え | 60 / 90 | リード |
| F | 0 件ページに人気商品を表示 | 2 / 3 | CS |
| G | 並び順にレビュー評価を加味(全カテゴリ) | 15 / 25 | マーケ |
| H | オートコンプリートの応答を 800ms → 300ms に | 4 / 8 | デザイナー |
| I | 0 件ワードの日別ダッシュボード | 3 / 4 | リード |
| J | 音声検索 | 10 / 20 | マーケ部長 |
📝 課題
あなたのタスク: 次の 3 点を作成してください。
- ものさしの定義: Value と Effort を何で測るか。単位・出所・不確かさの扱いを決める
- 配置表: 10 件それぞれの Value と Effort を数値で出し、2 軸の閾値を決めて 4 象限(クイックウィン/大きな賭け/埋め草/金食い虫)に分類する。マトリクスに載せられない案があれば、なぜかと扱いも書く
- 投入案: 40 人日に対して何を積み、何を積まないか。見送る案(音声検索・エンジン入れ替えを含む)は、拾い直す条件つきで書く
🔍 ヒント(段階的開示)
ヒント1
「価値:高・中・低」の 3 段階だけで並べると、なぜ高なのかを誰も追えない。月あたり何件の注文が増えるかのように、目標の指標に換算できるか
ヒント2
0 件の原因は 4 種類ある。案ごとに効く原因が違う。案どうしで効果が重なるものはないか
ヒント3
先に A を入れると、F が拾える 0 件の母数は減る。価値は実施順で変わる
ヒント4
価値が「幅」でしか言えない案(G・E)は、点で置いてよいか
ヒント5
計測用のダッシュボード(I)は価値の軸に載るか
ヒント6
工数の小さい案ばかりを選ぶと何が起きるか
📚 背景知識・用語解説
📖
Value vs Effort マトリクスは、案を「得られる価値」と「かかる工数」の 2 軸に置いて 4 つに分ける道具(Impact/Effort マトリクスなど名前はいろいろ。出所は記憶に基づき未照合)。
なぜ 2 軸か: 価値だけで並べると工数の見落としで計画が破綻し、費用対効果の 1 つの比だけで並べると小さすぎる案(価値 10・工数 1)が上位を占める。2 軸に分けておくと、「価値は大きいが重い」案を分割するという次の手が見える。
限界(今日の核): ①価値は主観が入る。Intercom の RICE は Confidence(確信度)を掛け、工数も「人月」にそろえて対処する(McBride 2018-01-05、記事、参照日 2026-10-03)。RICE は次のテーマ(5-5)で扱う ②価値は案ごとに独立ではない(重なり・実施順) ③マトリクスは「やる/やらない」の仕分けで、作る順番(依存)は決めない
なぜ 2 軸か: 価値だけで並べると工数の見落としで計画が破綻し、費用対効果の 1 つの比だけで並べると小さすぎる案(価値 10・工数 1)が上位を占める。2 軸に分けておくと、「価値は大きいが重い」案を分割するという次の手が見える。
限界(今日の核): ①価値は主観が入る。Intercom の RICE は Confidence(確信度)を掛け、工数も「人月」にそろえて対処する(McBride 2018-01-05、記事、参照日 2026-10-03)。RICE は次のテーマ(5-5)で扱う ②価値は案ごとに独立ではない(重なり・実施順) ③マトリクスは「やる/やらない」の仕分けで、作る順番(依存)は決めない
| 象限 | 価値 | 工数 | 扱い |
|---|---|---|---|
| クイックウィン | 高 | 小 | まず入れる。ただし本当に目標を動かすかを確認 |
| 大きな賭け | 高 | 大 | 分割して小さく試し、証拠が出てから本格投入 |
| 埋め草(フィルイン) | 低 | 小 | 余力が出たときだけ |
| 金食い虫 | 低 | 大 | やらない。拾い直す条件を決めて見送る |
✅ 模範解答
答えを見る前に自分の配置を作ってから読み比べてください。
1. ものさしの定義
| 軸 | 単位 | 計算 | 不確かさの扱い |
|---|---|---|---|
| Value | 月あたりの回復注文数(件/月) | 対象の検索回数 × 解決率 × (通常 CVR 4.0% × 0.6 − 現状 CVR 0.5%)。差は 1.9pt | 「0.6」が最も弱い置きなので、0.4・0.8 でも分類が変わらないか確認する |
| Effort | 人日(最頻値。悲観値を併記) | チーム 2 名の見積もり | 悲観値が閾値を跨ぐ案に印を付ける |
粗利換算(1,456 円/件)は報告用で、並べる軸は件数にした。金額にすると平均注文額・粗利率という別の仮定が混ざるため。
2. 配置表(クイズ+試算)
クイズ: 象限を当ててみる(閾値は Value 100 件/月・Effort 5 人日)
| 案(Value 件/月・Effort 人日) | あなたの判定 |
|---|---|
| A 表記ゆれ辞書(554・4) | |
| D 近いカテゴリ提示(137・8) | |
| H オートコンプリート高速化(60・4) | |
| J 音声検索(20・10) |
試算: 前提を動かすと分類はどう変わるか
軸は対数。E の Value は「A〜G で取れない残り」(80)、G・H・J は設定上の固定値。I(ダッシュボード)は直接の価値が無く、載せない(前提作業の別枠)。概念図で、数値はすべて仮定。
配置表(既定値)
| ID | 案 | 計算式 | Value | Effort(悲観) | 象限 |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 表記ゆれ辞書 | 36,480×80%×1.9% | 554 | 4(7) | クイックウィン |
| B | 型番の表記ゆれ無視 | 11,520×70%×1.9% | 153 | 3(5) | クイックウィン |
| F | 0 件ページに人気商品 | 96,000×10%×1.9% | 182(A・B・D の後は 98) | 2(3) | クイックウィン(後は境界) |
| D | 近いカテゴリを提示 | 28,800×25%×1.9% | 137 | 8(12) | 大きな賭け |
| C | 綴り訂正 | 11,520×50%×1.9% | 109(B の後は 33) | 12(20) | 大きな賭け → B の後は金食い虫 |
| G | 並び順にレビュー評価 | 1,104,000×0.05pt(0.02〜0.10pt) | 552(221〜1,104) | 15(25) | 大きな賭け(幅が大きい) |
| E | 検索エンジン入れ替え | A〜G で取れない残りのみ(50〜200) | 80 | 60(90) | 金食い虫(キャパ超過) |
| H | オートコンプリート高速化 | 根拠が弱く幅で置く(20〜120) | 60 | 4(8) | 埋め草 |
| J | 音声検索 | 検索の 0.5% が音声と仮定(0〜60) | 20 | 10(20) | 金食い虫 |
| I | 0 件ダッシュボード | 直接の価値は無い | (載せない) | 3(4) | 別枠: A・B・F・D の効果測定の前提なので先に入れる |
重なりと実施順
- C は B と同じ「型番・綴り誤り」の母数を奪い合う。B の後は対象が 11,520×30% = 3,456 に減り、109 → 33 件/月、12 人日で比 2.7
- F は A・B・D で 44,448 件が解決済みになり、残り 51,552 に 10% なので 182 → 98 件/月
- 価値の合計は単純な足し算にならない。投入案では先に入れる順に引き直した値を使う
3. 今期の投入案(キャパ 40 人日、予備 20% = 8、計画上限 32)
既定の積み方は 25 人日・約 1,108 件/月(≈161 万円/月、1,108×1,456 円)。余り 7 人日のうち 3 人日は A の悲観値超過(7 日)を吸収するために残す。
見送るもの
| 案 | 見送る理由 | 拾い直す条件 |
|---|---|---|
| E エンジン入れ替え | 60 人日で今期キャパ 40 を超え、取れる価値は A〜G の後の残り 80 件/月程度 | A〜G の後も 0 件率が 4% を下回らず、辞書では追えない原因が検索ログで主要になったとき |
| J 音声検索 | 20 件/月・10 人日。効果の根拠が仮定のみ | 検索ログで音声入力由来の検索が 3% を超えたとき(ブラウザ標準の音声入力という別案も比較) |
| C 綴り訂正 | B の後は 33 件/月で 12 人日 | B 実装後も型番・綴り誤りの 0 件が 5,000 回/月を超えたとき |
| G 全体 | G′ の結果を見てから | G′ で日用品の購入率が 0.05pt 以上上がったとき |
💡 なぜこう作るのか
- 件数を軸にした理由: 「高・中・低」は議論の入口にはなるが、閾値や前提を動かしたときに何が変わるか確かめられない。件数にすると前提(0.6)を動かした影響を試算できる(上のスライダー)
- 比ではなく 2 本の線にした理由: 比だけで並べると F(91)が B(51)より上に来て「安い案から先に」になる。象限にすると重いが価値の大きい D・G を捨てずに分割して試すという扱いが取れる
- G を幅で置き G′ に切った理由: 221〜1,104 の幅は 5 倍。15 人日を一度に投じず、日用品だけ 5 人日で試し、結果で全体を決める
- 悲観値を併記した理由: 閾値 5 人日の近くに A(4→7)・B(3→5)が居る。A の悲観値が出ても上限 32 人日に収まるか先に確かめられる
🔀 迷った他案と採らなかった理由
| 案 | 採らなかった理由 | 判断が変わる条件 |
|---|---|---|
| 最初から RICE | 2 軸の限界を知らずに数式に進むと数字の主観性に気づけない。次のテーマ(5-5) | 案が 20 件を超え、確信度の差が判断を左右するとき |
| 比(件/人日)だけで並べて上から切る | F(91)が B(51)を超え、D・G が自動的に落ちる。分割の判断ができない | 候補がすべて同規模の小粒な改善のとき |
| 金額(万円/月)を軸にする | 平均注文額・粗利率の仮定が混ざる | 経営会議に粗利で報告する段階(件数×1,456 円で後から換算) |
| ドット投票 | 声の大きい案(J)が通りやすく、価値の根拠が残らない | 価値の数値化に使える検索ログが無いとき |
| I を価値 0 で並べる | 金食い虫に分類され、計測の土台が抜ける | 無し |
| 実施順を考えず 1 回で全部評価 | C・F の価値の重なりを見落とす | 案どうしが完全に独立のとき |
⚠️ よくある失敗パターン
| 失敗パターン | なぜ問題か | 改善策 |
|---|---|---|
| 価値を「高・中・低」だけで置く | 根拠が追えず、前提を変えたときの影響が見えない | 目標の指標に換算し、出所ラベル(実測/導出/仮定)を付ける |
| クイックウィンだけやる | 取扱なしのような大きな原因が残る | 大きな賭けは分割して小さく試し、証拠で拡張する |
| 案ごとの価値を単純に合計する | 重なる案(B と C)で水増しされ、約束した成果に届かない | 実施順に母数を引き直した値で合計する |
| 計測や基盤の作業を価値 0 で外す | 後から効果が測れなくなる | 前提作業は別枠で先に入れる |
| 声の大きい要望を無条件に載せる/外す | 根拠なく通る、または感情的な対立になる | 同じものさしで並べ、見送る場合は拾い直す条件を書く |
🏢 実務での使いどころ
- 使う局面: 四半期前のバックログ整理、複数部門が要望を出した後の仕分け。「なぜこれをやらないか」の説明資料として
- 隣接する役割: エンジニアは Effort(悲観値を含む)、マーケ・CS は Value の根拠データ(検索ログ、問い合わせ件数)、リードは閾値(何人日までを小さいとするか)を出す。経営層には 4 象限の図 1 枚と「見送った案と拾い直す条件」の表を見せる
- 個人開発への転用: README のロードマップに、案ごとの Value(想定ユーザー数×解決率)・Effort(人日)・象限を表で残す
➡️ 次のステップ
- 5-3「ロードマップの基本形式」で、今回の 6 案を Now/Next/Later に並べ直す。日付を確約せず「G′ の結果次第で G を Next に上げる」と条件の形で書く
- 問い: 回復後の CVR を通常の 40% に下げると B・D は閾値 100 件/月を割る。それでも B(3 人日)は入れるか。判断を変えるのは件数か、工数か、確信度か(スライダーで確かめる)
- 5-5「RICE」で、同じ 10 件に Confidence を掛けると G・H・E の順位がどう動くか比べる
🧭 扱わなかった範囲・検証していない点
- RICE・Kano・遅延コスト(Cost of Delay)による重みづけは扱っていない(後続テーマ)。Value vs Effort 型の道具のうち扱ったのは Impact/Effort 型の 1 種のみで、PICK・WSJF・ICE は名前を挙げただけ
- 数値は全て演習の設定値(仮定)。特に「回復後 CVR=通常の 60%」「解決率 80/70/50/25/10%」「G の 0.05pt」「H・J の価値」は根拠の弱い置きで、実測ではない
- Intercom の記事は参照日 2026-10-03 に確認(著者・日付・Confidence・人月の記述)。「Impact/Effort マトリクス」の起源・名称は記憶に基づき未照合