🎬 シナリオ
MOps チームは、内祝い・誕生日・出産祝い・結婚祝いなどの ギフト購入(お歳暮は別プロジェクトなので対象外)の販促を担当している。ギフトは「届け先を自分以外にした注文」または「ギフト包装を選んだ注文」と定義する。
PdM のデザイナー提案は 「ギフト特集の絞り込み強化(予算別・相手別・シーン別)、30人日」。CS からは「住所が分からず困るという声が時々ある」。決めきれず、購入者・離脱者8名に 切替(Switch)インタビューを行った。
数字(直近3か月・月あたり)
| 項目 | 値 | 出所 |
|---|---|---|
| ギフトのカート | 42,000 | 実測 |
| 届け先入力画面に到達 | 30,000 | 実測 |
| 同画面を通過(ギフト) | 18,300(61%) | 実測 |
| 同画面を通過(自宅宛の注文) | 93% | 実測 |
| 購入完了 | 14,000件(通過者の76.5%) | 実測 |
| ギフトの平均注文額 | 5,800円 | 実測 |
| 届け先画面の滞在中央値 | ギフト 4分10秒 / 自宅宛 1分05秒 | 実測 |
| 非ログインのカート保持 | 24時間で消える(ログイン時は7日) | 実測 現行仕様 |
| 届け先を複数入力した注文 | 11% | 実測 |
アンケート(いずれも設定値)
| 離脱ポップアップ「届け先画面を離れた理由」(n=480、回答率約9%、1つ選択) | 割合 | 購入後「注文前に困ったこと」(n=1,260、複数選択) | 割合 |
|---|---|---|---|
| 相手の住所が分からない | 52% | 住所を知らない・聞きにくい | 31% |
| 入力が面倒 | 14% | 好み・アレルギーが分からない | 27% |
| 送料で迷った | 12% | 予算の相場が分からない | 22% |
| 別の物にしたい | 9% | 届く日に在宅か不明 | 18% |
| その他 | 13% | 特になし | 28% |
離脱ポップアップは回答した人だけの偏りがある。
インタビュー抜粋(購入者5名・離脱者3名、各45分。「いつ・何をしたか」を時系列で聞いた)
| ID | 状態 | 状況 | 発言の抜粋 |
|---|---|---|---|
| G1 | 購入 | 30代・友人の出産祝い | 「LINEで『住所教えて』は出産直後の人に悪い気がして、共通の友達に聞いた。2日かかった。その間サイトは閉じて、履歴から探して戻った」 |
| G2 | 離脱 | 20代・職場の先輩の結婚祝い | 「住所なんて知らない。聞いたら贈るのがバレる。サプライズにしたかった」「結局コンビニでギフト券を買って手渡した」 |
| G3 | 購入 | 40代・内祝いを20人に返す | 「住所はいただいた封筒で全員分わかる。むしろ20回入力するのが辛い。一括で入れられないの」 |
| G4 | 離脱 | 30代・SNSだけでつながるママ友の誕生日 | 「DMで住所を聞くのは重い。住所不要で贈れる別のサービスで贈った」 |
| G5 | 購入 | 50代・上司の退職祝い | 「住所は総務に聞けば済む。一番困ったのは相場と失礼にならない物。ランキング1位にした」 |
| G6 | 離脱 | 30代・義母の誕生日 | 「住所は知ってる。お届け日を選ぶ欄で止まった。義母がいつ家にいるか分からない。包装の仕上がりも写真で見えない」 |
| G7 | 購入 | 20代・同期の結婚祝い | 「LINEで住所を聞いて返信が1日半後。その間にカートが消えていた。商品をもう一度選び直した」 |
| G8 | 購入 | 40代・取引先への出産祝い | 「住所は秘書が調べてくれた。会社宛にするのは失礼だと言われて、自宅宛でいいのか迷った」 |
📝 課題
あなたのタスク: ギフト購入のJTBD分析シートを作り、デザイナー提案(30人日)にどう答えるか判断メモを書いてください。
- 切替タイムライン: G1・G2・G7 について、最初に思った時/なんとなく探す/本気で探す/決める/行動の5段階と、起きたこと・不安を表にする
- ジョブの定義(2〜3個): 状況・進歩・根拠。属性ではなく 状況 で切る
- ジョブマップ(Ulwick の8ステップ)を最大のジョブで書き、MOps が支えていないステップを特定する
- 仕分け: 発言・数字を「ジョブ/条件/解決策/不安」に分ける
- 施策の判断メモ: 提案A(絞り込み強化 30人日)・B(受取人が住所を入力 45人日)・C(住所の聞き方テンプレ+7日保持・再開リンク 6人日)を比べ、始める順序と止める基準を決める
🔍 ヒント(段階的開示)
ヒント1: 離脱の場所
離脱は商品を選ぶ前ではなく、選んだ後の届け先画面で起きている。提案Aが効く場所と一致しているか。
ヒント2: 「住所が分からない」と「入力が面倒」
52%は「分からない」。面倒(14%)とは別の問題。G1・G7 は何をして戻り、その間に何が壊れたかを見る。
ヒント3: 同じ画面、逆の困りごと
G3 は住所が全員分あるのに手間。年代や性別で分けられるか、状況で分けるべきか。
ヒント4: 8名で分かること
分かるのはジョブの種類。割合は別の数字から見積もり、その偏り(回答率9%)も書く。
ヒント5: 止める基準
施策を作る前に、数字と判断(続ける/確かめる/仮説を疑う)を表にしておく。
📚 背景知識・用語解説
- ジョブ: Ulwick の定義では「顧客が特定の状況で達成しようとしているタスク・目標」(strategyn.com、参照日 2026-10-03)。商品や機能ではなく、状況の中で得たい進歩。
- 切替(Switch)インタビューとタイムライン: Moesta と Spiek の方法。最近切り替えた人に、最初に思った時 → なんとなく探す → 本気で探す → 決める → 行動の順に時間をゆっくり進めて聞く(jobstobedone.org、参照日 2026-10-03)。「なぜ」ではなく「いつ・何をしたか」を聞く。理由はあとづけになりやすいが、行動は事実だから。
- ジョブマップ: Ulwick の Define/Locate/Prepare/Confirm/Execute/Monitor/Modify/Conclude(同上)。ジョブを時間の流れに分け、支えられていない段階を探す。
- 条件・解決策・ジョブ: 「予算3,000円以内」は条件、「住所不要で贈れるサービス」は解決策、「相手に詮索されずに届けたい」がジョブ。取り違えると提案が既存機能の改良で終わる。
- 属性ではなく状況: G3 と G2 は同じ画面で逆の困りごと。同じ人でも状況でジョブが変わる。
💡
前回(Day038)は「なぜ乗り換えたか」を4つの力で見た。今回は「どの段階が支えられていないか」をジョブマップで探す。同じ JTBD でも道具が違う。
✅ 模範解答
別の判断もありえる。ここでは「小さく先に確かめる」を採った。
1. 切替タイムライン
| 段階 | G1(出産祝い・購入) | G2(先輩の結婚祝い・離脱) | G7(同期の結婚祝い・購入) |
|---|---|---|---|
| 最初に思った時 | 友人の出産を聞いた | 結婚の報告を聞いた | 結婚式の招待を受けた |
| なんとなく探す | 検索で相場を見る | 「サプライズで贈りたい」と考える | SNSでお祝いの品を眺める |
| 本気で探す | MOps で商品を選びカートへ | MOps で商品を選びカートへ | MOps で商品を選びカートへ |
| 決める(きっかけ) | 届け先画面で住所が要ると気づく | 同じ画面で住所が要ると気づく | 同じ画面で住所が要ると気づく |
| 行動 | 共通の友人に聞く(2日)→ 履歴から探して戻る | 離脱 → コンビニでギフト券を買い手渡し | LINEで聞く(1.5日)→ カートが消え、選び直して購入 |
| 不安・壁 | 出産直後の人に聞く気まずさ/戻る道が無い | 聞くと贈ることがバレる/住所を知らない | 返信待ちの間にカートが消える |
✅
3名とも商品は決めていた。つまずいたのは「選ぶ」ではなく「相手の情報を手に入れる」段階。
2. ジョブ定義
| ジョブ | 状況 → 進歩 | 根拠 | 型 |
|---|---|---|---|
| J1 | 住所や在宅の都合を知らない相手に贈るとき、相手に詮索や負担を感じさせず、確実に届けたい | G1・G2・G4・G6・G7、離脱理由52%、困りごと31%+18% | 機能面+社会面 |
| J2 | 失礼にならない物と作法(相場・宛先)を、自分の責任で失敗せず選びたい | G5・G8、困りごと27%・22% | 感情面 |
| J3 | 内祝いなど多数の相手に、期限内に漏れなく返したい | G3、複数届け先の注文11% | 機能面(状況で別ジョブ) |
提案Aが覆うのは J2(8名中2名)。離脱が起きている J1 は覆わない。
3. J1 のジョブマップ(贈る側)
| ステップ | 贈る側のやること | MOps の支え | 有無 |
|---|---|---|---|
| Define | 誰に何のお祝いかを決める | ギフト特集・シーン別導線 | あり |
| Locate | 相手の住所・在宅・好みを確かめる | 何もない(画面外で自力) | なし |
| Prepare | 商品・包装・のしを選ぶ | 商品一覧・包装選択 | あり |
| Confirm | 届け先と日時を確定する | 届け先入力画面 | 住所前提 |
| Execute | 注文する | 決済 | あり |
| Monitor | 届いたか確かめる | 配送状況メール | あり |
| Modify | 不在・不備を直す | 再配達依頼 | あり |
| Conclude | 相手から「届いたよ」と連絡が来る | なし | なし(今回は扱わない) |
欠けているのは Locate。聞いている間にカートが24時間で消えるので戻る道も壊れる(G7)。
4. 仕分けクイズ
自分で考えてから「答え」を押す。
| 発言 | |
|---|---|
| 「住所を聞くのは気まずい」(G1) | J1 障害(社会面)。 |
| 「聞いたら贈るのがバレる」(G2) | J1 サプライズを守りたい、という進歩。 |
| 「予算は3,000円以内」 | 条件 ジョブではなく絞り込みの条件。 |
| 「住所不要で贈れる別のサービス」(G4) | 競合する解決策 J1 を別の手段で雇っている。 |
| 「ランキング1位にした」(G5) | J2 失敗しない近道。 |
| 「会社宛は失礼か」(G8) | J2 作法の不安。 |
| 「20回入力が辛い」(G3) | J3 別ジョブ。状況で分ける。 |
| 「カートが消えていた」(G7) | 仕様上の障害 不安ではなく、J1 の戻り道を壊す現行仕様。 |
5. 施策の判断メモ
追加離脱 = 30,000 × (93% − 61%) = 9,600 導出
うち住所が分からない = 9,600 × 52% ≈ 4,990 導出(52%は回答率9%の偏りあり)
取り戻せる率 30% 仮定 → 4,990 × 30% × 76.5% ≈ 1,146件/月 ≈ 664万円/月 導出
提案Aが直接効く「別の物にしたい」9% → 9,600 × 9% ≈ 860 導出
うち住所が分からない = 9,600 × 52% ≈ 4,990 導出(52%は回答率9%の偏りあり)
取り戻せる率 30% 仮定 → 4,990 × 30% × 76.5% ≈ 1,146件/月 ≈ 664万円/月 導出
提案Aが直接効く「別の物にしたい」9% → 9,600 × 9% ≈ 860 導出
| 案 | 覆うジョブ | 工数 | 評価 |
|---|---|---|---|
| A 絞り込み強化 | J2 | 30人日 | 離脱の場所と合わない。後回し |
| B 受取人が住所を入力 | J1(詮索の問題も解く) | 45人日 | 効果は大きい見込み。個人情報の取得・同意・期限切れ時の返金など法務確認が要る。先にCで当たりを見る |
| C 聞き方テンプレ+7日保持・再開リンク | J1 の Locate と戻り道 | 6人日 | 小さく早く確かめられる。最初にやる |
止める基準(作る前に決める)仮定
| C の4週後、届け先画面の通過率(現状61%) | 判断 |
|---|---|
| 64%以上(+3pt、約900セッション/月) | C を続ける。B は取り戻せない残りを見て再検討 |
| 62.5〜64% | B の前に、受取人入力のフェイクドア(ボタンだけ置いてクリックを数える)で需要を確かめる |
| 62.5%未満 | 「住所が障害」の仮説を見直す。追加インタビューへ |
試算ツール(B の元が取れる月数)
人日単価8万円・平均注文額5,800円・通過後の購入率76.5%はいずれも仮定または設定値。
🧭 なぜこう作るのか
- 状況で切った理由: G3 と G2 は同じ画面で逆の困りごと。属性で束ねると J1 と J3 が混ざる
- ジョブマップを足した理由: 離脱の位置と支えのない段階(Locate)を突き合わせるため
- 採らなかった案: ① 絞り込み強化を先に(離脱の場所と合わない)/② 受取人入力方式を先に(45人日と法務確認が重く、需要の確認前に賭けになる)/③ 全員アンケートで割合を取ってから決める(数週間かかり、小さな施策で確かめる方が早い)/④ ペルソナ「30代女性ギフト購入者」(G2 と G3 を同じ人にしてしまう)
- 判断が変わる条件: 4週で通過率が上がらなければ、B より追加調査を優先する
⚠️ よくある失敗パターン
| 失敗パターン | なぜ問題か | 改善策 |
|---|---|---|
| 「ギフト商品を探しやすくしたい」をジョブにする | 解決策の言い換えで、離脱の場所を見ない | 状況と進歩で書き、ファネルの離脱位置と突き合わせる |
| 「なぜ買わなかったか」を聞く | あとづけの理由が返る | 「そのとき何をしましたか」と行動を時系列で聞く |
| 属性で分ける | 状況でジョブが変わる | 誰に・いつ・何のためにで切る |
| 8名の発言から割合を出す | 母数が小さく偏る | 割合は別の数字から。偏りを書く |
| 止める基準なしで作る | 効果が出なくても続けてしまう | 作る前に数字と判断を表にする |
💼 実務での使いどころ
施策の企画前に、アイデアが離脱の場所と合っているかを確認する場面。デザイナーは提案の根拠を、エンジニアは小さく出せる範囲を、法務・CS は受取人の住所の扱いを一緒に決める。
➡️ 次のステップ
- C の通過率を4週間測り、止める基準の表のどの行に当たるかで B を判断する
- 次の PdM-リサーチでは J3(多数の届け先への一括入力)を別ジョブとして掘る、またはカスタマージャーニーマップに今回の時系列を載せる
🚧 扱わなかった範囲(この演習の限界)
- 8名は種類の発見まで。ジョブの割合・施策の効果の大きさは推定しておらず、取り戻せる率30%は仮定
- 受取人の個人情報の取得・同意は法務の確認が要る。今回は扱っていない
- Conclude(お礼の受け取り)、J3 の施策、割合を確かめる定量アンケートは扱っていない
- 「実測」ラベルの数値は演習シナリオ上の設定値で、実在企業のデータではない。外部の一次資料は Web 2点(Ulwick: strategyn.com、Moesta/Spiek: jobstobedone.org、参照日 2026-10-03)。Switch の5段階は Web 要約の確認まで、書籍(Moesta『Demand-Side Sales 101』)は未照合