Day 045 — PdM-リサーチ: JTBD(Jobs to be Done)2回目 — 「選べない」のではなく「住所が聞けない」

2026-10-03 (Sat) 🟢 Junior PdM-リサーチ(ユーザーリサーチ・指標設計) 成果物: 切替タイムライン+ジョブマップ+仕分け表+施策判断メモ

🎬 シナリオ

MOps チームは、内祝い・誕生日・出産祝い・結婚祝いなどの ギフト購入(お歳暮は別プロジェクトなので対象外)の販促を担当している。ギフトは「届け先を自分以外にした注文」または「ギフト包装を選んだ注文」と定義する。

PdM のデザイナー提案は 「ギフト特集の絞り込み強化(予算別・相手別・シーン別)、30人日」。CS からは「住所が分からず困るという声が時々ある」。決めきれず、購入者・離脱者8名に 切替(Switch)インタビューを行った。

数字(直近3か月・月あたり)

項目値出所
ギフトのカート42,000実測
届け先入力画面に到達30,000実測
同画面を通過(ギフト)18,300(61%)実測
同画面を通過(自宅宛の注文)93%実測
購入完了14,000件(通過者の76.5%)実測
ギフトの平均注文額5,800円実測
届け先画面の滞在中央値ギフト 4分10秒 / 自宅宛 1分05秒実測
非ログインのカート保持24時間で消える(ログイン時は7日)実測 現行仕様
届け先を複数入力した注文11%実測

アンケート(いずれも設定値)

離脱ポップアップ「届け先画面を離れた理由」(n=480、回答率約9%、1つ選択)割合購入後「注文前に困ったこと」(n=1,260、複数選択)割合
相手の住所が分からない52%住所を知らない・聞きにくい31%
入力が面倒14%好み・アレルギーが分からない27%
送料で迷った12%予算の相場が分からない22%
別の物にしたい9%届く日に在宅か不明18%
その他13%特になし28%

離脱ポップアップは回答した人だけの偏りがある。

インタビュー抜粋(購入者5名・離脱者3名、各45分。「いつ・何をしたか」を時系列で聞いた)

ID状態状況発言の抜粋
G1購入30代・友人の出産祝い「LINEで『住所教えて』は出産直後の人に悪い気がして、共通の友達に聞いた。2日かかった。その間サイトは閉じて、履歴から探して戻った」
G2離脱20代・職場の先輩の結婚祝い「住所なんて知らない。聞いたら贈るのがバレる。サプライズにしたかった」「結局コンビニでギフト券を買って手渡した」
G3購入40代・内祝いを20人に返す「住所はいただいた封筒で全員分わかる。むしろ20回入力するのが辛い。一括で入れられないの」
G4離脱30代・SNSだけでつながるママ友の誕生日「DMで住所を聞くのは重い。住所不要で贈れる別のサービスで贈った」
G5購入50代・上司の退職祝い「住所は総務に聞けば済む。一番困ったのは相場と失礼にならない物。ランキング1位にした」
G6離脱30代・義母の誕生日「住所は知ってる。お届け日を選ぶ欄で止まった。義母がいつ家にいるか分からない。包装の仕上がりも写真で見えない」
G7購入20代・同期の結婚祝い「LINEで住所を聞いて返信が1日半後。その間にカートが消えていた。商品をもう一度選び直した」
G8購入40代・取引先への出産祝い「住所は秘書が調べてくれた。会社宛にするのは失礼だと言われて、自宅宛でいいのか迷った」

📝 課題

あなたのタスク: ギフト購入のJTBD分析シートを作り、デザイナー提案(30人日)にどう答えるか判断メモを書いてください。

  1. 切替タイムライン: G1・G2・G7 について、最初に思った時/なんとなく探す/本気で探す/決める/行動の5段階と、起きたこと・不安を表にする
  2. ジョブの定義(2〜3個): 状況・進歩・根拠。属性ではなく 状況 で切る
  3. ジョブマップ(Ulwick の8ステップ)を最大のジョブで書き、MOps が支えていないステップを特定する
  4. 仕分け: 発言・数字を「ジョブ/条件/解決策/不安」に分ける
  5. 施策の判断メモ: 提案A(絞り込み強化 30人日)・B(受取人が住所を入力 45人日)・C(住所の聞き方テンプレ+7日保持・再開リンク 6人日)を比べ、始める順序と止める基準を決める

🔍 ヒント(段階的開示)

ヒント1: 離脱の場所
離脱は商品を選ぶ前ではなく、選んだ後の届け先画面で起きている。提案Aが効く場所と一致しているか。
ヒント2: 「住所が分からない」と「入力が面倒」
52%は「分からない」。面倒(14%)とは別の問題。G1・G7 は何をして戻り、その間に何が壊れたかを見る。
ヒント3: 同じ画面、逆の困りごと
G3 は住所が全員分あるのに手間。年代や性別で分けられるか、状況で分けるべきか。
ヒント4: 8名で分かること
分かるのはジョブの種類。割合は別の数字から見積もり、その偏り(回答率9%)も書く。
ヒント5: 止める基準
施策を作る前に、数字と判断(続ける/確かめる/仮説を疑う)を表にしておく。

📚 背景知識・用語解説

  • ジョブ: Ulwick の定義では「顧客が特定の状況で達成しようとしているタスク・目標」(strategyn.com、参照日 2026-10-03)。商品や機能ではなく、状況の中で得たい進歩。
  • 切替(Switch)インタビューとタイムライン: Moesta と Spiek の方法。最近切り替えた人に、最初に思った時 → なんとなく探す → 本気で探す → 決める → 行動の順に時間をゆっくり進めて聞く(jobstobedone.org、参照日 2026-10-03)。「なぜ」ではなく「いつ・何をしたか」を聞く。理由はあとづけになりやすいが、行動は事実だから。
  • ジョブマップ: Ulwick の Define/Locate/Prepare/Confirm/Execute/Monitor/Modify/Conclude(同上)。ジョブを時間の流れに分け、支えられていない段階を探す。
  • 条件・解決策・ジョブ: 「予算3,000円以内」は条件、「住所不要で贈れるサービス」は解決策、「相手に詮索されずに届けたい」がジョブ。取り違えると提案が既存機能の改良で終わる。
  • 属性ではなく状況: G3 と G2 は同じ画面で逆の困りごと。同じ人でも状況でジョブが変わる。
💡
前回(Day038)は「なぜ乗り換えたか」を4つの力で見た。今回は「どの段階が支えられていないか」をジョブマップで探す。同じ JTBD でも道具が違う。

✅ 模範解答

別の判断もありえる。ここでは「小さく先に確かめる」を採った。

1. 切替タイムライン

段階G1(出産祝い・購入)G2(先輩の結婚祝い・離脱)G7(同期の結婚祝い・購入)
最初に思った時友人の出産を聞いた結婚の報告を聞いた結婚式の招待を受けた
なんとなく探す検索で相場を見る「サプライズで贈りたい」と考えるSNSでお祝いの品を眺める
本気で探すMOps で商品を選びカートへMOps で商品を選びカートへMOps で商品を選びカートへ
決める(きっかけ)届け先画面で住所が要ると気づく同じ画面で住所が要ると気づく同じ画面で住所が要ると気づく
行動共通の友人に聞く(2日)→ 履歴から探して戻る離脱 → コンビニでギフト券を買い手渡しLINEで聞く(1.5日)→ カートが消え、選び直して購入
不安・壁出産直後の人に聞く気まずさ/戻る道が無い聞くと贈ることがバレる/住所を知らない返信待ちの間にカートが消える
✅
3名とも商品は決めていた。つまずいたのは「選ぶ」ではなく「相手の情報を手に入れる」段階。

2. ジョブ定義

ジョブ状況 → 進歩根拠型
J1住所や在宅の都合を知らない相手に贈るとき、相手に詮索や負担を感じさせず、確実に届けたいG1・G2・G4・G6・G7、離脱理由52%、困りごと31%+18%機能面+社会面
J2失礼にならない物と作法(相場・宛先)を、自分の責任で失敗せず選びたいG5・G8、困りごと27%・22%感情面
J3内祝いなど多数の相手に、期限内に漏れなく返したいG3、複数届け先の注文11%機能面(状況で別ジョブ)

提案Aが覆うのは J2(8名中2名)。離脱が起きている J1 は覆わない。

3. J1 のジョブマップ(贈る側)

ステップ贈る側のやることMOps の支え有無
Define誰に何のお祝いかを決めるギフト特集・シーン別導線あり
Locate相手の住所・在宅・好みを確かめる何もない(画面外で自力)なし
Prepare商品・包装・のしを選ぶ商品一覧・包装選択あり
Confirm届け先と日時を確定する届け先入力画面住所前提
Execute注文する決済あり
Monitor届いたか確かめる配送状況メールあり
Modify不在・不備を直す再配達依頼あり
Conclude相手から「届いたよ」と連絡が来るなしなし(今回は扱わない)

欠けているのは Locate。聞いている間にカートが24時間で消えるので戻る道も壊れる(G7)。

4. 仕分けクイズ

自分で考えてから「答え」を押す。

発言
「住所を聞くのは気まずい」(G1)
J1 障害(社会面)。
「聞いたら贈るのがバレる」(G2)
J1 サプライズを守りたい、という進歩。
「予算は3,000円以内」
条件 ジョブではなく絞り込みの条件。
「住所不要で贈れる別のサービス」(G4)
競合する解決策 J1 を別の手段で雇っている。
「ランキング1位にした」(G5)
J2 失敗しない近道。
「会社宛は失礼か」(G8)
J2 作法の不安。
「20回入力が辛い」(G3)
J3 別ジョブ。状況で分ける。
「カートが消えていた」(G7)
仕様上の障害 不安ではなく、J1 の戻り道を壊す現行仕様。

5. 施策の判断メモ

追加離脱 = 30,000 × (93% − 61%) = 9,600 導出
うち住所が分からない = 9,600 × 52% ≈ 4,990 導出(52%は回答率9%の偏りあり)
取り戻せる率 30% 仮定 → 4,990 × 30% × 76.5% ≈ 1,146件/月 ≈ 664万円/月 導出
提案Aが直接効く「別の物にしたい」9% → 9,600 × 9% ≈ 860 導出
案覆うジョブ工数評価
A 絞り込み強化J230人日離脱の場所と合わない。後回し
B 受取人が住所を入力J1(詮索の問題も解く)45人日効果は大きい見込み。個人情報の取得・同意・期限切れ時の返金など法務確認が要る。先にCで当たりを見る
C 聞き方テンプレ+7日保持・再開リンクJ1 の Locate と戻り道6人日小さく早く確かめられる。最初にやる

止める基準(作る前に決める)仮定

C の4週後、届け先画面の通過率(現状61%)判断
64%以上(+3pt、約900セッション/月)C を続ける。B は取り戻せない残りを見て再検討
62.5〜64%B の前に、受取人入力のフェイクドア(ボタンだけ置いてクリックを数える)で需要を確かめる
62.5%未満「住所が障害」の仮説を見直す。追加インタビューへ

試算ツール(B の元が取れる月数)

人日単価8万円・平均注文額5,800円・通過後の購入率76.5%はいずれも仮定または設定値。

🧭 なぜこう作るのか

  • 状況で切った理由: G3 と G2 は同じ画面で逆の困りごと。属性で束ねると J1 と J3 が混ざる
  • ジョブマップを足した理由: 離脱の位置と支えのない段階(Locate)を突き合わせるため
  • 採らなかった案: ① 絞り込み強化を先に(離脱の場所と合わない)/② 受取人入力方式を先に(45人日と法務確認が重く、需要の確認前に賭けになる)/③ 全員アンケートで割合を取ってから決める(数週間かかり、小さな施策で確かめる方が早い)/④ ペルソナ「30代女性ギフト購入者」(G2 と G3 を同じ人にしてしまう)
  • 判断が変わる条件: 4週で通過率が上がらなければ、B より追加調査を優先する

⚠️ よくある失敗パターン

失敗パターンなぜ問題か改善策
「ギフト商品を探しやすくしたい」をジョブにする解決策の言い換えで、離脱の場所を見ない状況と進歩で書き、ファネルの離脱位置と突き合わせる
「なぜ買わなかったか」を聞くあとづけの理由が返る「そのとき何をしましたか」と行動を時系列で聞く
属性で分ける状況でジョブが変わる誰に・いつ・何のためにで切る
8名の発言から割合を出す母数が小さく偏る割合は別の数字から。偏りを書く
止める基準なしで作る効果が出なくても続けてしまう作る前に数字と判断を表にする

💼 実務での使いどころ

施策の企画前に、アイデアが離脱の場所と合っているかを確認する場面。デザイナーは提案の根拠を、エンジニアは小さく出せる範囲を、法務・CS は受取人の住所の扱いを一緒に決める。

➡️ 次のステップ

  • C の通過率を4週間測り、止める基準の表のどの行に当たるかで B を判断する
  • 次の PdM-リサーチでは J3(多数の届け先への一括入力)を別ジョブとして掘る、またはカスタマージャーニーマップに今回の時系列を載せる

🚧 扱わなかった範囲(この演習の限界)

  • 8名は種類の発見まで。ジョブの割合・施策の効果の大きさは推定しておらず、取り戻せる率30%は仮定
  • 受取人の個人情報の取得・同意は法務の確認が要る。今回は扱っていない
  • Conclude(お礼の受け取り)、J3 の施策、割合を確かめる定量アンケートは扱っていない
  • 「実測」ラベルの数値は演習シナリオ上の設定値で、実在企業のデータではない。外部の一次資料は Web 2点(Ulwick: strategyn.com、Moesta/Spiek: jobstobedone.org、参照日 2026-10-03)。Switch の5段階は Web 要約の確認まで、書籍(Moesta『Demand-Side Sales 101』)は未照合

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