Phase 2: 中級 / 専門職の説明責任 — 評定への抗議に、記録で答える
| Time(いつ) | 9月29日(火)15時50分。1学期の評定が出て2週間、2学期の中間テストまで3週間。野球部を夏に引退した3年生は、放課後に学校に残れる。校内は部活の声で騒がしいが、教室の中は2人だけ |
|---|---|
| Place(どこで) | 東京都内の公立中学校の3年2組の教室(他に生徒はいない。廊下の窓は開いている)(英語版では、米国の公立高校11年生の数学教室。放課後15時10分、学期途中のgrade check-in) |
| Person(相手) | 3年2組の男子・タクミ(15歳)。1学期の数学の評定が3。私立高校の推薦入試(単願)を考えていて、その学校の推薦の目安が9教科の評定合計36、今は35だと塾で聞いてきた。仲のいい友達が数学4をとったと本人が言っている。怒っているというより、悔しさを抑えた早口。「先生、俺のこと嫌いなんですか」と言う。母親はまだ何も知らない |
| Position(あなたの立場) | 数学担当、教職9年目。タクミの担任ではない(担任は別の先生)。評定は、観点別評価(知識・技能/思考・判断・表現/主体的に学習に取り組む態度)の記録から、あなたが付けた。成績の根拠の記録は手元にある。他の生徒の評価は、本人にも保護者にも言えない |
| Occasion(状況・目的) | 評定への抗議の場面。①感情を受け止めたうえで、評定が3だった事実を、ぼかさず先に確認する ②「嫌いなんですか」に、感情ではなく記録で答える ③根拠を、本人の数字で具体的に示す(友達の評価とは比べない) ④「2学期で4にしてもらえますか」に、約束できることとできないことを分ける ⑤次の一手を、日時つきで1つ決める |
※ 人物・日付・時刻・数値・学校の体制はシーン設定のための仮定であり、実在の生徒や学校のものではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| あなたの記録(タクミ) | 定期テスト(1学期)の平均は71点。小テスト5回のうち4回は合格点。提出物(ワーク)は12回中7回提出、未提出5回のうち2回は期限後に出したが評価には入っていない。授業中の発言・ノートの記録は「ふつう」 |
| 観点別評価の内訳 | 知識・技能 B、思考・判断・表現 B、主体的に学習に取り組む態度 C。評定3は、この組み合わせから付けた(学校の評価規準の表に沿う) |
| 評定が動く時期 | 評定は学期末ごとに付ける。2学期の評定は12月の上旬に確定し、推薦の出願(1月)に使うのは主に2学期までの記録。つまり、まだ動く余地がある |
| 言えないこと | 他の生徒の評定・点数は、本人にも保護者にも言わない。「友達が4」の話の真偽を、確認も否定もしない |
| タクミが言ったこと | 塾の先生が「推薦の目安は9教科合計36」と言った。今は35。数学が1つ上がれば届く、と本人は計算している |
| 学校のルール(仮定) | 提出物の期限後提出は、2学期から「学期内に出せば評価に入れる」運用に変わる予定。ただし、その運用の最終決定は教科会議で、まだ通知していない |
It's 3:10 on a Tuesday. You're in your math classroom with Tyler Brooks, a junior, grade check-in. Progress reports went out two weeks ago. He got a C+ in your class. He's applying to a college that, according to his counselor, looks at a weighted GPA cutoff, and he says one more grade bump gets him over it.
Tyler isn't shouting. He's talking fast and flat, the way someone talks when he's decided not to cry. He keeps saying his friend Eric 'got a B'. He doesn't mention a number. He asks: 'Do you just not like me?' His mom doesn't know he's here.
What you have: his test average (71), quizzes (4 of 5 passed), homework (7 of 12 turned in), and the rubric: Knowledge B, Reasoning B, Effort/Engagement C. What you can't do: say anything about Eric's grade, or promise Tyler a number you haven't graded yet.
9月29日、火曜の15時50分。教室には、3年2組のタクミとあなたの2人だけ。1学期の評定が出て2週間。タクミの数学は3だった。塾で「推薦の目安は9教科の合計36」と聞いてきて、今は35。数学があと1つ上がれば届く、と本人は計算している。
タクミは怒鳴らない。早口で、感情を平らにして話す。泣かないと決めた人の話し方だ。「友達が4だった」と言うが、数字は言わない。「先生、俺のこと嫌いなんですか」と聞く。母親は、ここに来ていることを知らない。
あなたの手元にあるのは、テスト平均71点、小テスト5回中4回合格、提出物12回中7回、観点別評価(知識・技能B/思考・判断・表現B/主体的に学習に取り組む態度C)。言えないのは、友達の評価のこと。まだ付けていない2学期の評定を、約束することもできない。
この立場になりきって応答してください。英語版・日本語版それぞれで考えてみましょう。応答は次の2つを含めること。
・最初の返し:「嫌いなんですか」に答え、評定が3だった事実と、その根拠の中身を、タクミ本人の記録だけで言う。友達の評価には触れない
・2回目の返し:「4にしてくれますよね」に、約束できることとできないことを分けて答え、次の一手を日時つきで1つ決める
成績への抗議は、先生への不信の表れではなく、生徒が「自分の評価を自分で理解したい」という要求であることが多い。先生が守るべきなのは、評定の数字そのものより、「評価は記録に基づく」という約束だ。感情で答えると、次の抗議で先生がまた感情で答える人になる。
「4にする」と約束することは、タクミにとって優しく聞こえるが、評価の公平さを壊す約束だ。他の生徒が同じ頼みをしても同じ答えをする、と言えない約束は、約束ではない。
| 他案 | 採らなかった理由 | 前提が変わったら |
|---|---|---|
| 「そんなことないよ、先生はタクミ君が好きだよ」と気持ちだけで否定する | 根拠が無いまま否定すると、次の質問(なら4にして)に答えられなくなる。感情の否定は、評価の説明の代わりにならない | タクミが「先生に嫌われている」以外の原因を探せなくなっているなら、感情の面を先に時間をかけて聞く |
| 友達の評価と比べて、何が違ったかを説明する | 他の生徒の評価は言えない。比べた時点で、開示になる。比べずに、タクミ本人の記録だけで説明する | 保護者の同意と本人の希望があり、学校の決まりが認める場合でも、他の生徒の記録は出せない。この案は通らない |
| 「2学期にがんばれば4にするよ」と励ます | 評価は記録で決まる。結果が4に届かなかったとき、約束を破った先生になる。タクミの努力と評定は別のものとして扱う | 学校の評価規準が、その行動(提出物など)で観点を上げると明記しているなら、その基準を見せる形で言える |
| 評定を見直して付け直す | 根拠のある評定を、本人の圧力で変えることは公平でない。記録に誤りがあるときだけ、手続きに従って直す | 集計の誤りや記録漏れが見つかったときは、すぐに直す。その場合は、誤りを先に認める |
| 担任に任せる、母親に連絡する | タクミが自分で聞きに来た意思を、すぐに取り上げることになる。本人が決める余地を残す | 母親への連絡が必要になるのは、評価の内容ではなく、安全に関わる話が出たとき |
| 失敗 | なぜダメか | 代わりにどうするか |
|---|---|---|
| 「4をもらった友達は提出物を全部出したからだよ」と言う | 他の生徒の評価を、間接的に開示している。比べた時点で、守秘の約束が崩れる | タクミ本人の記録だけで説明する |
| 「嫌いじゃないよ」を、何度も繰り返す | 繰り返すほど、言い訳に聞こえる。感情の話から出られなくなる | 1回だけ短く言い、すぐ記録に移る |
| 「頑張れば4になるよ」と、暗に約束する | 結果が出なかったときに、信用を失う。他の生徒に同じことが言えない約束でもある | 「約束できない」と先に言い、動かせる部分を示す |
| 評定が3になった理由を、「態度が悪かったから」とだけ言う | 観点の中身が見えず、人格への評価に聞こえる | 提出物の数・観点の名前・基準を具体的に言う |
| その場で「見直してみる」と言う | 根拠のある評定を、圧力で動かすと言ったのと同じに聞こえる。実際に見直さないなら、嘘にもなる | 記録に誤りがあれば見直す、と条件つきで言う |