Phase 2: 中級 / 専門職の説明責任 — 3週間以上来ていない中2男子の家をチェーン越しに訪ね、「母に言われて来たんでしょ」を認め、テストと高校の質問には決まっていないことも含めて事実で答え、次につながる方法を本人に選ばせる
| Time(いつ) | 10月6日(火)17時35分。部活の指導を抜けて来た。母親との約束は「17時半から15分、玄関先で」。9月1日から一度も登校していない(今日で欠席24日目)。2学期の中間テストは10月20日(火)・21日(水) |
|---|---|
| Place(どこで) | 東京都内の区立中学校から歩いて8分の、団地の4階の玄関前。ドアはチェーンをかけたまま10cmほど開いている。廊下の向こうで、隣の家の人が自転車を出し入れしている(英語版では、米国の公立中学校の学区内のアパートの玄関前、home visit) |
| Person(相手) | 2年1組のユウマ(13歳・男子)。母親(区役所の窓口勤務、帰宅は18時半すぎ)から「今日、先生が来る」と聞かされて、「勝手にすれば」と答えたという。部屋着のまま、目を合わせない。ヘッドセットを首にかけている。1学期の評定はほぼ3と4。夏休み前は週1〜2回遅刻していた。理由は誰にも言っていない |
| Position(あなたの立場) | 2年1組の担任(教職6年目・社会科)。9月8日と9月22日に母親と電話で話し、今日の訪問は母親が頼んだもの。学年主任には訪問を伝えてある。保護者が不在のときは家に上がらない、と学校で決めている。スクールカウンセラーは毎週水曜に学校にいる |
| Occasion(状況・目的) | 3週間以上会えていない生徒と、初めて顔を合わせる場面。①「母に言われて来たんでしょ」に、来た理由を正直に言う ②「テスト受けないとどうなるのか」「もう高校は無理なんでしょ」に、ごまかさず事実で答える ③「誰にも何もされてない」を、詮索も否定もせずに受け取る ④「来ても意味ない」に、次にどうつながるかを本人に選ばせる |
※ 人物・日付・時刻・学校・団地はシーン設定のための仮定であり、実在の学校・生徒のものではない。文部科学省の通知・法律・都立高校入試の扱いは、下の「制度的な位置づけ」の範囲でのみ実在の情報として扱う。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 欠席の経過(仮定) | 9/1(始業式)から欠席。母親の話では、夜中までゲームをして昼まで寝ている。理由を聞くと「別に」と言って部屋に戻る。体の不調の訴えは無い。クラスの中で目立ったトラブルの報告は、担任の把握している範囲では無い |
| 中間テスト | 10/20(火)・21(水)。別室での受験と、放課後に受ける形は、学年主任の了承を得てある。テスト範囲表は今日持ってきた |
| 受けなかった場合の成績(仮定) | 教科ごとに、提出物や小テストで評価を出すか、「評価できない」とするかを、学年会で相談している最中。まだ決まっていない |
| 高校入試について(仮定として、学年の進路担当に確認済み) | 都立高校の一般入試で使う調査書の成績は、中3の成績。中2の成績は、そのままは使われない。ただし、私立高校の推薦では、中2の成績を見る学校もある |
| 持ってきたもの | 学年だより、テスト範囲表、社会のプリント3枚。クラスの子たちが書いた「待ってるよ」の寄せ書きは、あえて持ってこなかった |
| 動かせるもの | 来た理由を正直に言う/テストと高校について事実を伝える/別室受験・放課後受験ができると伝える/プリントを毎週どう届けるかを本人に選ばせる(ポストに入れる・1人1台の端末の Classroom に載せる)/来週また来るかどうかを本人に聞く |
| 動かせないもの | 「休んでいても成績は大丈夫」と約束すること(決まっていない)。テストを受けなくても出席扱いにすること(校長が決める)。保護者のいない家に上がること。理由を今日聞き出すこと |
It's 5:35 on Tuesday. You left soccer practice early to be here. Eli's mom asked you to stop by; she's at work until 6:30. Eli hasn't been to school since the first day, more than three weeks ago. You're standing outside his apartment door on the fourth floor. The chain is on. The door is open about four inches.
Eli is 13, in your 8th-grade homeroom. He's in sweatpants, a headset around his neck, looking past you. His grades last year were fine. He was late a lot before summer. He hasn't told anyone why he stopped coming, and his mom says he just says "nothing" and goes back to his room.
You brought the test schedule and three history worksheets. You did not bring the "We miss you!" card the class made. Midterms are in two weeks. Your school doesn't let you go inside when no parent is home, and you have about ten minutes.
10月6日(火)17時35分。部活を抜けて、団地の4階まで上がってきた。ユウマの母親が頼んだ訪問で、母親は18時半まで仕事でいない。ユウマは9月1日から一度も学校に来ていない。ドアにはチェーンがかかったまま、10cmほど開いている。
ユウマは13歳、自分が担任する2年1組の生徒。部屋着で、ヘッドセットを首にかけ、目は合わない。1学期の成績は悪くなかった。夏休み前は遅刻が多かった。来なくなった理由は誰にも言っておらず、母親が聞いても「別に」と言って部屋に戻るという。
持ってきたのは、テスト範囲表と社会のプリント3枚。クラスの子たちが書いた「待ってるよ」の寄せ書きは、持ってこなかった。中間テストは2週間後。保護者のいない家には上がらない決まりで、使えるのは10分ほど。
この立場になりきって応答してください。英語版・日本語版それぞれで考えてみましょう。応答は次の2つを含めること。
・最初の返し:「母に言われて来たんでしょ」に、母親に頼まれたことを否定せずに認め、自分も会いたかったことを1回だけ言う。今日は理由を聞きに来たのではないことと、何分で帰るかを先に言う
・2回目の返し:テストについて、別室・放課後で受けられることと、受けなかった場合の扱いがまだ決まっていないことを、そのまま言う。「高校は無理」に、都立一般入試と私立推薦の違いを短く事実で答える。「何もされてない」は、問い詰めずに受け取る。「来ても意味ない」に、プリントの届け方と来週来るかどうかを本人に選ばせる
不登校の生徒への最初の訪問の目的は、学校に戻すことではなく、次にまたつながれる状態で帰ることである。説得すれば、次はドアが開かない。10分で帰ると言って10分で帰ることが、次の訪問を可能にする。約束を守る大人だと分かってもらうことが、最初の一歩になる。
生徒の質問には、希望と限界の両方を言う。「大丈夫」だけを言えば、外れたときに信用を失う。「厳しい」だけを言えば、諦めさせる。決まっていることと決まっていないことを分けて伝えるのは、保護者に対しても生徒に対しても同じである。
| 他案 | 採らなかった理由 | 前提が変わったら | 今回の扱い |
|---|---|---|---|
| 「お母さんに言われたからじゃないよ」と否定する | 本当は頼まれて来ている。最初の一言で嘘をつくと、残りの言葉が全部信用されない | 担任が自分から訪問を申し出た場合 | 「頼まれた。それは本当」と認め、自分も会いたかったを1回だけ足す |
| クラスの寄せ書きを渡す | 本人にとっては、行かないことを責める紙になりうる。「待ってる」は、待たせている罪悪感にもなる | 本人が「クラスのやつら、何か言ってた?」と聞いてきた場合 | 持ってこない。範囲表とプリントだけを、受け取るかどうかを本人に任せて差し出す |
| 「成績は大丈夫だから、心配しないで」と言う | 受けなかった場合の扱いは決まっていない。外れたときに、この先生の言葉が信用されなくなる | 学年会で、提出物で評価を出すと決まっていた場合 | 「まだ決まってない。決まったら言う」と言う |
| 「誰かに何か言われたの?」ともう一度聞く | 本人が「何もされてない」と言い切った直後に聞き返すと、信じていないと伝わり、ドアが閉まる | 本人の側から、誰かの名前や出来事を口にした場合 | 受け取り、相談できる相手(カウンセラー・母親)を置くだけにする |
| 「10分」を過ぎても、話が続いているので残る | 自分で言った時刻を破ると、「10分で帰る」が次から信用されない | 本人が自分から話し続けた場合(その時も、時刻を言って本人に確かめる) | 10分で帰る。来週来るかを聞いて終える |
| スクールカウンセラーとの面談を、今日その場で予約する | 本人が何も望んでいない段階で予定を入れると、大人の計画に乗せられたと感じる | 本人が「誰かに話したい」と言った場合 | 水曜にいる、とだけ伝える |
| 失敗 | なぜダメか | 代わりにどうするか |
|---|---|---|
| 「みんな待ってるよ」「早く戻っておいで」と言う | 戻ることを目標として押し付け、戻れない自分を責めさせる | 戻る話はしない。テストと高校の事実と、次の接点だけを渡す |
| 「昼まで寝てるって聞いたけど」と、母親から聞いた話を出す | 母親が担任に話したことが本人に伝わり、家の中の信頼を壊す | 母親から聞いた情報は使わず、本人が言ったことだけに答える |
| 生徒の丁寧語に合わせて、敬語で話す | 距離を取ろうとしている相手に合わせて、さらに距離が開く | 普通体で、くだけすぎずに話す |
| 「高校は大丈夫」とだけ言う | 私立推薦では中2の成績を見る学校もある。後で知ると、だまされたと感じる | 都立一般入試と私立推薦の違いを、両方言う |
| ドアを開けさせよう、家に上がろうとする | 決まりに反する。チェーン越しの距離は、本人が決めた距離である | チェーン越しのまま話し、物は郵便受けかドアのすき間から渡す |