TPPPO設定

Time(いつ)10月13日(火)16時10分。3連休明けの初日の放課後。16時30分から学年会。実質15分
Place(どこで)神奈川の市立小学校、2年2組の教室。児童はもう下校している。子ども用の机を2つ向かい合わせにして座る。廊下の先の職員室には教頭がいる(英語版では、米国の公立小学校の2nd grade の教室、放課後の parent conference)
Person(相手)伊藤さん(38歳)。2年2組の伊藤ハナさん(7歳)の父親。地元で工務店を営む。学校に来るのは授業参観以外では初めて。昼に「学年だよりのことで話がしたい」と電話をかけてきた。腕を組んで座っているが、声は荒くない。困っていて、それが怒りに見える
Position(あなたの立場)2年2組の担任(教職9年、32歳)。学年は4クラス。授業の内容は学年で決め、校長の承認を受けている。特定の児童を授業から外すかどうかを決める権限はない
Occasion(状況・目的)金曜に配った学年だよりで、10月19日(月)3時間目に「生命(いのち)の安全教育」の授業(養護教諭と担任の2人で行う)を予告した。伊藤さんは「うちの子だけ外してほしい」と言いに来た。①何を教えて何を教えないかを、教材を見せて具体的に言う ②「まだ早い」と言い争わない ③「疑っているのか」に、疑いを否定し、統計や一般論を持ち出さない ④外すかどうかは約束も拒否もせず、決める人と返事の日時を言う ⑤家で教えたいという父親の役割を立てて終える

※ 人物・学校・学年だよりの文面・授業の日程は、シーン設定のための仮定であり、実在の学校・人物のものではない。教材や法令の扱いは、下の「制度的な位置づけ」の範囲でのみ実在の情報として扱う。2026年10月13日が火曜日であることは、10月12日(月)がスポーツの日(10月の第2月曜日)であることから導出。

手元の事実(あなたが持っている情報)

項目内容
学年だより(10/9 配布)の文面「10月19日(月)3時間目、『生命(いのち)の安全教育』として、自分の体を大切にする学習を行います。養護教諭と担任で行います。ご質問は担任までお寄せください」。何を扱うかの説明は、この3文だけ。外す(別室で過ごす)ことができるかどうかは書いていない
授業で扱うこと文部科学省の教材(小学校低学年向け)をもとにした45分。①水着で隠れるところと口は、自分だけの大切なところ ②人の大切なところを見たり触ったりしない ③いやなさわられ方をしたら「いや」と言う・その場を離れる・信頼できる大人に話す ④話してくれた子は悪くない。手元にワークシートとスライドの印刷がある
授業で扱わないこと赤ちゃんの生まれ方、男女の体の仕組み、性行為。体の部分の名前(医学的な名称)は使わない
学校の決まり授業を受けない希望があった場合、どうするかは校長が判断する(学年会で確認済み)。前例は、去年の別の学年で1件、図書室で教頭と過ごした。今年の2年生で、ほかに申し出はない
ハナさんについて学校での様子に、気になることは何もない。あなたは家庭を疑う理由を何も持っていない
伊藤さんが電話で言ったこと「日曜の夜、娘に『パパ、プライベートゾーンって何?』と聞かれた。何も答えられなかった」。学年だよりを見たハナさんが、友達から聞いた言葉らしい
動かせるもの教材を見せること/ワークシートを家に持ち帰ってもらうこと/授業のときにハナさんを名指ししないこと/校長に今日の話をそのまま伝えること/返事の日時
動かせないもの授業の内容と日程(学年で決め、校長が承認)。外すかどうかの判断。伊藤さんが授業をどう思うか

シーン描写

It's 4:10 on a Tuesday, the first day back after a long weekend. The kids have gone home. You've pushed two student desks together in your second-grade classroom, and Mr. Ito is sitting across from you with his arms folded. He runs a small contracting business in town. You've only ever seen him at Back-to-School Night.

Last Friday, the grade-level newsletter went home: "On Monday, October 19, second graders will have a Body Safety lesson with our school nurse and classroom teacher. Please contact your child's teacher with any questions." That was it. Three sentences. On Sunday night, his daughter Hannah, who is seven, asked him at dinner, "Daddy, what are private parts?" He didn't know what to say. He called the school at lunch today.

You have the lesson slides and the worksheet in a folder in front of you. You have no reason at all to worry about Hannah or her family. Whether a child can sit out the lesson isn't your decision. It's the principal's. Grade-level meeting starts at 4:30.

10月13日(火)、3連休明け。16時10分。子どもたちは下校した。2年2組の教室で、子ども用の机を2つ向かい合わせにして、伊藤さんと座っている。伊藤さんは地元で工務店をしていて、授業参観以外で学校に来るのは初めてだ。腕を組んでいる。

金曜に配った学年だよりには、こう書いた。「10月19日(月)3時間目、『生命(いのち)の安全教育』として、自分の体を大切にする学習を行います。養護教諭と担任で行います。ご質問は担任までお寄せください」。それだけだった。日曜の夜、7歳のハナさんが夕食のときに「パパ、プライベートゾーンって何?」と聞いた。伊藤さんは答えられなかった。今日の昼、学校に電話がかかってきた。

あなたの前のクリアファイルには、授業のスライドの印刷とワークシートがある。ハナさんの様子にも家庭にも、気になることは何もない。授業を受けずに別室で過ごせるかどうかを決めるのは、あなたではなく校長だ。16時30分から学年会がある。

相手のセリフ

(arms folded, not loud) "I saw the newsletter. Body safety. Private parts. She's in second grade. Isn't that a little early?"

(looking at the table) "Sunday night she asks me, 'Daddy, what are private parts?' Right at dinner. I had no idea what to say to her. Honestly."

(looking up, sharper) "Wait. Is this because somebody thinks something's going on at home? Is that what this is?"

"Look, I'd rather you just take her out of it. We'll teach her at home. Our way."

(when you say it's not your decision) "So who decides? It's Monday. Is anyone going to get back to me before Monday?"
(腕を組んだまま、声は大きくない) 「学年だより、見ました。体を大切にする学習って、プライベートゾーンとかでしょう。2年生ですよ。まだ早くないですか」

(机に目を落として) 「日曜の夜、娘に聞かれたんですよ。『パパ、プライベートゾーンって何?』って。ご飯のときに。正直、何て言えばいいか分からなかったです」

(顔を上げて、少し強く) 「……ちょっと待ってください。それって、うちで何かあるかもって、誰かが思ってるってことですか」

「うちの子は外してもらえませんか。家で、うちのやり方で教えますから」

(あなたが「私には決められない」と言うと) 「じゃあ誰が決めるんですか。授業は月曜でしょう。それまでに返事、来るんですか」

あなたの課題

この立場になりきって応答してください。英語版・日本語版それぞれで考えてみましょう。応答は次の2つを含めること。
・最初の返し(40秒ほど):「まだ早くないですか」に言い争わずに、教材を見せながら、授業で扱うことと扱わないことを具体的に言う。学年だよりの説明が足りなかったことを、学校の側の落ち度として一度だけ認める
・4つの声への返し:「娘に聞かれて答えられなかった」「うちを疑っているのか」「外してほしい、家で教える」「誰が決めるのか、月曜までに返事は来るのか」に返す。最後は、決める人・返事の日時・それまでに家でできることを言って、学年会の前に終える

ヒント1: トーンの方向性
この場面の難しさは、あなたが「この授業は必要だ」と思っていることにある。そう思っているほど、「早くありません、今の子は」と説得したくなる。だが伊藤さんは、授業の是非を議論しに来たのではない。娘に聞かれて答えられなかった父親が、何が教えられるのか分からないまま、自分の役割を取られる気がして来ている。説得より先に、中身を見せる。

いちばん危ないのは「疑っているのか」への返しである。ここで「被害は身近な人からのことが多いので」と一般論を言うと、内容が正しくても、目の前の父親には「だからあなたも」と聞こえる。統計も、授業の目的の説明も、この問いへの答えには使わない。答えは「疑っていません」と、「2年生全員に同じ授業をする」という事実の2つだけ。

もう1つは、決める権限がないことを、たらい回しに聞こえないように言うこと。「校長が決めます」で止めず、今日の話をどう伝えるか、いつ誰が返事をするかまで言う。
ヒント2: 使うべき表現・語彙
英語: "Let me show you exactly what's in it." "Here's what we cover, and here's what we don't." "We don't talk about where babies come from, or anything about sex." "The newsletter didn't tell you enough. That's on us." "No. Nobody thinks that. Every second grader in all four classes gets the same lesson." "That's the principal's call, not mine. I'll tell her today, in your words." "You'll hear from me by Thursday at 4." "You can take the worksheet home tonight." 使わない: "Kids these days need this"(説得)、"Most abuse is by someone the child knows"(疑いへの答えに一般論)、"It's mandatory, so..."(決まりで押し切る)、"I'm sure she'll be fine"(根拠のない約束)。

日本語: 相手は保護者。です・ますで、「伊藤さん」と呼ぶ(「お父さん」と呼ぶと、子どもの付属として扱う響きが出る)。一人称は「私」。「実際の教材をお見せします」「扱うのはこの4つです。扱わないのは、赤ちゃんの生まれ方と、男女の体の仕組みです」「学年だよりの書き方が足りませんでした。学校の説明不足です」「疑っていません。2年生の4クラス全員に、同じ授業をします」「外すかどうかは、校長が決めます。私ではありません」「今日のお話は、伊藤さんの言葉のまま、今日中に校長に伝えます」「木曜の16時までに、私からお電話します」「ワークシートをお持ち帰りください」。使わない:「今の子は早いので」、「身近な人からの被害が多いので」、「決まりですので」、「大丈夫ですよ」。
ヒント3: 構成の型
最初の返し: ①「まだ早くないですか」に反論しない。「心配されるのは分かります」も言わず、すぐ中身に入る → ②クリアファイルを開き、スライドを見せて「扱うのは4つです」と並べる(水着で隠れるところと口/人のは見ない触らない/いや・離れる・話す/話した子は悪くない)→ ③「扱わないのは、赤ちゃんの生まれ方、体の仕組み、体の部分の名前」→ ④「学年だよりの書き方が足りませんでした」と一度だけ認める

4つの声への返し: ⑤「娘に聞かれて答えられなかった」→ 答えられなかったことを責めも慰めもせず、授業で使う一文をそのまま渡す(「水着で隠れるところと口は、ハナさんだけの大切なところ、という意味です」)→ ⑥「疑っているのか」→ 間を置かずに「疑っていません」。根拠は「全員に同じ授業」と「ハナさんに気になることは何もない」の2つ。一般論は言わない → ⑦「外してほしい」→ 拒否も約束もしない。決めるのは校長、と言い、家で教えたいという考えはそのまま校長に伝えると言う。外した場合にハナさんが聞かない部分(「いや・離れる・話す」)も、事実として伝える → ⑧「誰が決める、月曜に間に合うのか」→ 日時で答える。「今日中に校長に伝え、木曜16時までに電話」。それまでの間、ワークシートを持ち帰ってもらい、家でどう教えるかの材料にしてもらう → ⑨学年会の時間を自分から言って終える
(opens the folder and turns it toward him) "Let me show you exactly what's in it. It's one 45-minute lesson, with our school nurse.
We cover four things. One: the parts of your body covered by a swimsuit, and your mouth, are private. They belong to you. Two: you don't look at or touch other people's private parts. Three: if someone touches you in a way that feels wrong, you say no, you get away, and you tell a grown-up you trust. Four: if you tell, you're not in trouble.
What we don't cover: where babies come from, how bodies work, anything about sex. We don't use anatomical names in this lesson.
And the newsletter didn't tell you any of that. That's on us."

(to "I had no idea what to say") "Here's the sentence we use in class, word for word: 'The parts covered by your swimsuit, and your mouth, are just yours.' If she asks again, that's all it means."

(to "Is this because somebody thinks something's going on at home?") "No. Nobody thinks that. Every second grader in all four classes gets the same lesson on the same day. I haven't seen anything with Hannah that worries me. Nothing."

(to "Take her out of it. We'll teach her at home") "I can't say yes or no to that myself. Whether a child sits out is the principal's call. What I can do is tell her today what you told me, in your words: that you want to teach this at home, your way.
I'll also be straight with you about one thing. If Hannah sits out, the part she'd miss is the 'say no, get away, tell a grown-up' part. I'm not saying that to change your mind. You should just know what it is."

(to "So who decides? Is anyone going to get back to me before Monday?") "Yes. I'll talk to the principal today. You'll get a call from me by Thursday at 4, with her answer. Which number should I use?
In the meantime, take the worksheet and the slides home tonight. Whatever she decides, you'll have exactly what we'd say, and you can use it your way.
...I have a grade-level meeting at 4:30, so I need to stop here. Thank you for coming in instead of just keeping her home."
解説(英語)
  • 語彙選択: 最初の文 "Let me show you exactly what's in it." は、説得の前に資料を開く宣言。"Isn't that a little early?" に "No" とも "I understand" とも返さない。英語の parent conference では "I hear your concerns" が決まり文句として多用されるが、相手が求めているのは共感の言葉ではなく中身で、ここでは使わない。扱わないことを "anything about sex" とはっきり言うのは、相手がいちばん恐れている点を、相手に言わせる前にこちらから否定するため。
  • トーン: "No. Nobody thinks that." は短く、間を置かずに言う。英語では、長く説明するほど "Why are you explaining so much?" と疑いを深める。"I haven't seen anything with Hannah that worries me. Nothing." の最後の "Nothing." は、事実を念押しするための一語。"Most abuse is by someone the child knows" は授業の根拠としては正しいが、この問いに続けると、相手には告発に聞こえる。
  • 構成: 外す件は yes/no のどちらも言わず、"the principal's call" で決定者を示し、すぐに自分ができること("in your words" で伝える)を言う。外した場合に失うものを1文だけ添え、"I'm not saying that to change your mind." で、それが説得ではないことを明示する。最後は時刻(Thursday at 4)と、電話番号を聞く行動で終え、"Thank you for coming in instead of just keeping her home." で、黙って欠席させずに相談に来たことを評価する。
(クリアファイルを開いて、伊藤さんのほうに向けて) 「実際の教材をお見せします。授業は45分1回で、養護の先生と2人で行います。
扱うのは4つです。1つ目、水着で隠れるところと口は、自分だけの大切なところ。2つ目、人の大切なところを見たり触ったりしない。3つ目、いやなさわられ方をしたら、『いや』と言う、その場を離れる、信頼できる大人に話す。4つ目、話してくれた子は悪くない。
扱わないのは、赤ちゃんの生まれ方、男の子と女の子の体の仕組み、それから体の部分の名前です。
学年だよりには、そのどれも書いていませんでした。学校の説明不足です」

(「何て言えばいいか分からなかった」に) 「授業では、こう言います。『水着で隠れるところと口は、ハナさんだけの大切なところ』。また聞かれたら、意味はそれだけです」

(「うちで何かあるかもって、誰かが思ってるってことですか」に) 「いいえ、疑っていません。2年生の4クラス全員に、同じ日に同じ授業をします。ハナさんの学校での様子にも、気になることは何もありません」

(「外してもらえませんか。家で教えますから」に) 「外すかどうかは、私には決められません。校長が決めます。私にできるのは、今日のお話を、伊藤さんの言葉のまま校長に伝えることです。家で、ご家庭のやり方で教えたい、ということも含めて。
1つだけ、事実としてお伝えします。もし外れた場合、ハナさんが聞かないのは『いや・離れる・話す』の部分です。考えを変えていただくために言っているのではありません。中身として、知っておいていただきたいだけです」

(「誰が決めるんですか。月曜までに返事、来るんですか」に) 「来ます。今日中に校長に伝えて、木曜の16時までに、私から校長の判断をお電話でお伝えします。どちらの番号におかけすればいいですか。
それまで、このワークシートとスライドをお持ち帰りください。どちらに決まっても、授業で何を言うかがそのまま分かりますので、ご家庭で使っていただけます。
……16時半から学年会がありますので、今日はここまでにさせてください。休ませるのではなく、話しに来てくださって、ありがとうございました」
解説(日本語)
  • 敬語レベル: 全体を丁寧語にし、自分の行動には謙譲語(「お見せします」「お伝えします」「お電話でお伝えします」)、相手の行動には尊敬語を最小限(「お持ち帰りください」「話しに来てくださって」)。「させていただきます」は重ねない。保護者対応で謙譲語を重ねるほど、相手には「腰は低いが中身は動かない」と聞こえやすい。今日の会話では、低姿勢より、資料と日時のほうが信頼を生む。
  • 一人称・語尾・呼び方: 一人称は「私」。相手は「伊藤さん」。小学校では保護者を「ハナさんのお父さん」「お父さん」と呼ぶことが多いが、この場面では、父親が「家で、うちのやり方で教える」と自分の役割を主張している。「お父さん」と呼ぶと、子どもを軸にした呼び方になり、相手を一人の大人として扱う響きが弱まる(迷ったところ。親しみを出したい場面なら「ハナさんのお父さん」も可)。「疑っていません」は「疑ってなどいませんよ」と語尾を飾らない。飾るほど、言い訳に聞こえる。
  • クッション言葉: 「心配されるのは分かります」「おっしゃることはもっともですが」は使わない。前者は相手の感情に名前をつけ、後者は「が」のあとに反論が来る合図になる。唯一のクッションは「1つだけ、事実としてお伝えします」で、これは外した場合に失うものを、説得ではなく情報として置くための前置き。
英語 × 日本語 対比ノート
① 体の呼び方の違いが、授業の中身の説明を変える。 日本の「生命の安全教育」の低学年の教材は、「水着で隠れるところ」という言い換えで教えるとされる。米国の body safety の授業では、体の部分を医学的な名称(anatomical names)で教えることを専門家が勧める場合が多いとされ、州や学区によって扱いが分かれる。このため、英語版の「扱わないこと」の説明には "We don't use anatomical names in this lesson." という一文が意味を持つ(米国の保護者には、名称を教えるかどうかが関心事になりうる)。日本語版では、名称を使わないことは前提に近く、むしろ「赤ちゃんの生まれ方は扱わない」が、相手の不安に直接答える一文になる。

② 「疑っていません」の言い方。 英語の "No. Nobody thinks that." は主語を "Nobody" にして、学校の誰も、という範囲まで否定する。日本語の「いいえ、疑っていません」は主語を言わず、話し手と学校の区別があいまいなまま否定できる。日本語ではこのあいまいさが自然だが、相手が「誰かが思っている」と言っている以上、根拠の文(「4クラス全員に、同じ日に同じ授業」)で範囲を補う。両言語とも、否定は短く、根拠は事実で、一般論は付けない。

③ 決める権限がないことの言い方。 英語の "That's the principal's call, not mine." は、権限の所在を言う普通の文で、責任逃れには聞こえにくい。日本語の「校長が決めます」は、それだけで止めると「たらい回し」に聞こえやすい。日本語では、権限の所在のすぐ後に「私にできるのは」と自分の行動を続け、日時(木曜16時)で締めることで、引き受けている範囲を見せる必要がある。

④ 保護者の呼び方。 英語では "Mr. Ito" で迷う余地がほぼない。日本語では「伊藤さん」「お父さん」「ハナさんのお父さん」の3つから選ぶことになり、その選択がそのまま相手の扱い方を表す。家庭の役割を主張している相手には、子ども経由でない「伊藤さん」が、相手を独立した判断者として扱う呼び方になる。

この立場に共通する心構え

学校が「全員に必要だ」と考えて行う授業ほど、保護者の反対は「理解が足りない」と見えやすい。だが多くの反対は、授業の中身を知らないことから来る。教師の仕事は、授業の価値を説得することより先に、何をどの言葉で教えるかを見せることである。中身を見た上での反対は、その家庭の判断として、決める権限を持つ人に正確に渡す。

もう1つ。子どもを守るための授業を説明する場面では、説明すればするほど、目の前の保護者に疑いの目を向けているように聞こえる危険がある。授業の目的は学校全体の言葉で語り、目の前の家庭について語るときは、自分が実際に見た事実だけを言う。その2つを混ぜないことが、教師の言葉の信頼を保つ。

制度的な位置づけ(参考)
  • 生命(いのち)の安全教育: 文部科学省と内閣府が、子どもを性暴力の加害者・被害者・傍観者にさせないことを目的に、幼児期から高校・大学等の段階別の教材と指導の手引きを作成し、2021年4月に公表したとされる。2023年度から全国の学校での推進が求められているとされる。小学校低学年向け教材で「水着で隠れるところ」と口を「自分だけの大切なところ」として扱うことは、教材の内容として広く紹介されているが、今回、教材の原文は確認していない
  • 授業を受けない希望(日本): 生命の安全教育について、保護者が個別に受けない選択をできるかを国が定めた規定は、今回確認していない。この場面の「校長が判断する」「前例は図書室で教頭と過ごした」は、学校内の扱いとしての仮定
  • 学習指導要領との関係: 小学校の体育科(保健領域)の「体の発育・発達」は中学年(第4学年)で扱うとされ、2年生では扱わない。2年生の授業が体の仕組みに触れないのはこのためでもある(今回、指導要領の原文は確認していない)
  • 米国(英語版): Erin's Law は、学校で子ども向けの性的虐待防止教育を行うことを州法で求めるもので、2013年のイリノイ州法をはじめ、多くの州が同様の法を持つとされる。州数と、保護者による opt-out の規定の有無は州ごとに違い、今回、原文は確認していない。2025年6月の連邦最高裁判決 Mahmoud v. Taylor は、宗教上の理由による保護者の opt-out に関わる判断を示したとされるが、body safety の授業への適用は今回確認していない。英語版の「決めるのは principal」も学区方針による仮定
迷った他案と採らなかった理由
他案採らなかった理由前提が変わったら今回の扱い
「今の子にはこれが必要です」と、授業の必要性を先に説明する相手は是非の議論をしに来ていない。必要性から入ると、中身を知らない相手には「押し付け」に聞こえ、反対を固める相手が中身を見たうえで、「なぜ2年生でやるのか」と理由そのものを聞いてきた場合中身を先に見せ、必要性の説明はしない
授業の公式の目的(性暴力の加害者・被害者・傍観者にさせない)を、最初に言う正確だが、「性暴力」という語が7歳の娘の話の最初に出ると、相手の恐れ(何を教えるのか)が大きくなる相手が「何のための授業か」と目的を聞いてきた場合。そのときは言い換えずにそのまま言う最初は扱う4つの中身で説明する。目的を隠すのではなく、聞かれたら答える順にする
「疑っているのか」に、「被害は身近な人からが多いので、全員に教えるんです」と理由を言う授業の根拠としては正しいが、この問いのすぐ後に言うと、目の前の父親には「だからあなたも」と聞こえる相手が落ち着いて、授業の根拠を知りたいと聞いてきた別の場面「疑っていない」と「全員に同じ授業」の2つだけ
自分の判断で「外していいですよ」と言う権限がない。学年の他の家庭との公平と、校長の判断を飛ばすことになる。あとで覆れば、相手の信頼をもっと失う学校の決まりで、担任の判断で別室を認めることになっている場合決めるのは校長、と言い、伝え方と日時を約束する
「全員受ける決まりです」と、外すことを断る権限がないのは断る側も同じ。家庭の役割を主張する父親を、決まりで押し切ることになる学校の方針として、外す選択を認めないと明文化されている場合(その場合も、決めた人と理由を言う)拒否も約束もしない
外した場合に失うもの(「いや・離れる・話す」)を言わない言うと説得に聞こえる危険がある。だが言わなければ、相手は中身を知らないまま判断することになる相手がすでに教材をすべて読み、内容を理解している場合1文だけ、「考えを変えるためではない」と添えて事実として言う

よくある失敗パターン

失敗なぜダメか代わりにどうするか
「早くありません。今の子はスマホもありますし」と反論する是非の議論になり、相手は中身を知らないまま反対を固める反論せず、教材を開いて扱う4つを見せる
「心配されるのは分かります」と始める相手の感情に名前をつけ、話が中身に入らない最初の一文で中身に入る
「疑っているのか」に、身近な人からの被害の統計を言う目の前の父親への告発に聞こえる「疑っていません」と、全員に同じ授業という事実だけを言う
「疑ってなんかいませんよ、まさか」と笑って否定する軽く否定するほど、何かを隠しているように聞こえる短く、真顔で、事実の根拠を1つ添える
「校長に聞いてみます」で終えるいつ、誰から返事が来るか分からず、たらい回しに聞こえる「今日中に伝え、木曜16時までに私から電話」と日時で言う
外した場合に何を失うかを、何度も繰り返して言う説得になり、相手の判断を尊重していないと伝わる1回だけ、「考えを変えるためではない」と添えて言う
「娘さんに答えられなかった」ことを慰める(「みなさんそうですよ」)相手の困りごとを一般化して流してしまう授業で使う一文をそのまま渡し、家で使える材料にする

扱わなかった範囲

自己評価

英語版: 自分で応答を考えられた
日本語版: 自分で応答を考えられた