今日の文書 — 中期経営計画書
中期経営計画書 — 3年程度先の会社(または事業)の姿と、そこへ向かう打ち手・投資・数値目標を示す文書。社内では予算配分の根拠になり、上場会社では株主・アナリストに向けて公表され、あとで「約束した数字に届いたか」を検証される。全社の計画は、各本部・各部の「部門パート」を経営企画部が束ねて作る。
この文書の勝負どころ: 3年後の姿と今年の打ち手が繋がっているか。 「3年後に売上を年平均10%伸ばす」と書いたとき、その10%が 何の数 × いくらの掛け算 に分解でき、その数を 今年の何の打ち手が動かす のかが線で結ばれていなければ、中期計画は「願望の年表」になる。もう一つ、積み上げて届かない分があるなら、それを隠さず「打ち手がない分」と書くことも、繋がっているかの検査に入る。
| 層 | 例(今日の題材) | 書く場所 |
|---|---|---|
| 3年後の姿 | FY2031の配信経由の増分売上 | 冒頭。数字で |
| 数字の分解 | 増分売上=メール・その他+LINE個別配信(人数×1人あたり) | 3年後の姿のすぐ下 |
| 今年の打ち手 | FY2029にID連携の導線を作る、友だち追加カードを続ける | 分解の各項の横 |
| 届かない分 | 全社様式の「年平均+10%」と、積み上がる数字の差 | 隠さず、数字で |
シナリオ
あなたは株式会社ノヴァストア EC事業本部・販促システム部の MOpsチームマネージャー・宮田(Day004〜Day017の続き)。
2028年7月24日(月)。経営企画部の秋山さん(新登場。中期経営計画の担当課長)から、各本部・各部に依頼が来た。FY2029〜FY2031(2029年4月〜2032年3月)の中期経営計画の部門パートを、8/18(金)17:00 までに出してほしい。全社の計画は 9/12(火)の経営会議で一次レビュー、2029/2/20(火)の取締役会で承認、2029年5月の決算説明会で公表する〔仮定: シナリオ内の日程〕。
依頼文の書式は、各部門が「主要指標(定義は各部門で決める)」の3年分を表に埋め、目安として FY2028 見込み比で年平均+10%を置くもの。+10%は全社の営業利益目標から逆算した値で、各部門の積み上げではない。
MOpsの現状は次のとおり。2028/7現在、LINE友だち21.6万人、うちID連携(会員とLINEが結びつき、個別に配信できる)8.1万人(37.5%)〔実測: シナリオ内〕。4〜6月の友だち追加カード同梱(Day014)は 約8.4万箱で、友だち追加率7.2%〔実測: シナリオ内〕。メール会員は96万人、うち休眠33万人〔Day013〕。休眠配信をどうするかは、データ研究枠の結果待ちで未決。
- 提出: 8/18(金)17:00 までに秋山さんと直属上司の高梨部長へ。秋山さんとの確認会は 8/24(木)15:00(30分)。高梨部長が 9/12 の経営会議に持っていく
- 読み手: 秋山さん(経営企画部。全社の数字を束ね、外部に出す数字と社内の数字を分ける責任を持つ。配信の仕組みは知らない)。その先に高梨部長、経営会議、2029年5月の公表(株主・アナリスト)
- カタログの主な読み手は「全社・株主」だが、今回のレベル(Lv2=距離のある読み手)は他部署・経営層。ルール5により、読み手は秋山さん(他部署)とし、全社・株主へは秋山さんが束ねた全社計画を通じて間接的に届く設定にした
- 制約: 「増分売上」(配信しない10%の対照群との差)で測る方針は Day008 で決めた。LINE個別配信の1人あたり年間増分は、実績が出るまで Day008 の見込みを借りる〔仮定: 上期3,000万円÷64,000人×2=約940円〕。実測は 2028/9 に置き換える
読み手プロファイル
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が読むか | 秋山さん(経営企画部 課長)。高梨部長(直属)も読む。経営会議は 9/12 に高梨部長の説明で読む |
| 何を判断するために読むか | 秋山さん: 全社様式の「FY2031の数字」欄に何を書くか。外部に出してよい数字はどれか。高梨部長: 経営会議に何を持っていくか |
| 何を知っているか | 秋山さん: 全社の営業利益目標と、各本部の+10%の目安。増分売上という言葉は初耳に近い |
| 何を知らないか | 秋山さん: ID連携、友だち追加カード、配信の仕組み、増分売上と「配信経由売上」の違い |
| 何を気にしているか | 秋山さん: 出された数字があとで外れて株主に説明するはめにならないか。各部門の数字が積み上げの根拠のある数字か、置いただけの数字か |
| 読む時間と場面 | 8/24の確認会の前に、全部門分を並べて見る。1部門あたり3〜5分 |
この読み手が変わると何が変わるか: 読み手がCFO・石原さん(経営会議で直接読む)なら、冒頭は数字より投資420万円に対する回収になる。MOpsのメンバーなら、FY2029の打ち手ごとの作業と担当が先に来る。株主向けの公表版は経営企画が書くので、宮田が渡すのは「外に出してよい数字」だけ。今回は秋山さんが読むので、数字の分解と、届かない分と、外に出してよい数字を先に置く。
4段階で見る — 「3. 3年後の姿と今年の打ち手」
以下は同じ部門パートの 「3. 3年後の姿と今年の打ち手」 の部分を、4段階で書き分けたもの。
目標に数字がなく「着実に伸ばす」。施策は名詞4つ。
今年の取り組みが「上記を順次推進」。
投資は「別途協議」、リスクは「留意する」。3年分の表と目標4.0億円は揃った。ただし4.0億円は全社の+10%を掛けただけ。
施策と数字の間に線がなく、届かない分の有無が読めない。
外に出してよい数字がどれか、書かれていない。3.67億円を式に分解し、打ち手を式の項に1つずつ対応させた。
全社の+10%(3.99億円)との差0.32億円は打ち手なし、と明記。
連携率52%は仮定(★)。選ぶ案・判定日はまだない。冒頭は「決めていただきたい2点」。数字の置き方を3案で比較。
外に出せる数字は3.34億円、社内目標は3.67億円と分離。
判定8/3の+1.1pt、決まらなければ8/25に案B、見直しの条件つき。"We aim to" and "steadily grow"; no number.
Four initiative nouns; FY2029 = "promote in order".
Investment "to be discussed".Targets, table, initiatives in place, but 400M is the template's 10% CAGR.
No line from initiatives to the number; gap unknown.
No figure marked safe to disclose.367M split into terms; each action moves one term.
Gap to the template's 399M: 32M with no initiative.
Link rate 52% flagged as an assumption."Decisions requested" first; three options compared.
334M safe to disclose, 367M internal target.
Decision on 3 Aug +1.1pt; default B by 25 Aug; revisit trigger.3. 中期ビジョンと主要施策
FY2031に向け、お客様一人ひとりに寄り添う配信を実現し、
顧客体験の向上とLTVの最大化を図る。
目標: 配信経由売上を年平均で着実に伸ばす。
主要施策
・LINE配信の拡充
・パーソナライズの高度化
・AI活用による配信最適化
・新規チャネルの検討
FY2029の取り組み
・上記施策を順次推進する
投資: 別途協議
リスク: 市場環境の変化に留意する3. Medium-term vision and key initiatives
Toward FY2031, we aim to deliver communication that feels personal
to every customer, improving customer experience and maximizing LTV.
Target: steadily grow revenue from owned channels.
Key initiatives
- Expand LINE messaging
- Advance personalization
- Optimize delivery with AI
- Consider new channels
FY2029 actions
- Promote the above initiatives in order
Investment: to be discussed
Risks: monitor changes in the market"we aim to" と "steadily grow" は、英語の計画書では目標ではなく願望として読まれる。"Target" の後に数字も期間もない。"to be discussed" は、承認者に出す文書では未完成の合図。
3. 中期の目標と施策(FY2029〜FY2031)
目標: 配信経由の増分売上を FY2031 に 4.0億円
(FY2028見込み 3.0億円から年平均+10%)
FY2029 FY2030 FY2031
増分売上 3.3億円 3.6億円 4.0億円
主要施策 LINE拡充 パーソナライズ 新チャネル
KPI 友だち数 ID連携人数 配信到達率
FY2029の主な取り組み
① LINE友だち追加カードの同梱を継続
② 購入完了画面にID連携の導線を追加
③ 配信停止ルールの見直し
投資: FY2029 420万円
リスク: 迷惑メール報告率の上昇、LINE規約の変更Badから何が変わったか:
- ①結論の位置が動いた。目標が数字(4.0億円)で先頭に出た
- ④次の行動が動いた。FY2029の取り組みが3つの具体的な項目になり、投資額が入った
- ②読み手適合が動いた。全社様式の「3年分の表」に合わせた形になり、増分売上という定義も明示した
- 中期計画の標準の型(目標・年次の表・施策・KPI・投資・リスク)が揃っている。社内の書式があれば、これで提出できる
まだ足りないもの(ここが今日の本題):
- 4.0億円は、全社様式の「年平均+10%」をそのまま掛けた数字である。 3.0×1.1×1.1×1.1=3.99。配信の仕組みから積み上げた数字ではない。秋山さんは置いただけの数字と読む
- 施策と数字の間に線がない。 ①②③がそれぞれ何をどれだけ動かし、4.0億円のうち何億円を担うのかが読めない
- FY2029の3つの取り組みで届く数字が書かれていない。 届かない分があるのか、あるならいくらか、誰にも分からない
- 「友だち数」「ID連携人数」とKPIにあるが、現在値も3年後の値もない。 秋山さんは、それが多いのか少ないのかも分からない
- 外に出してよい数字がどれか書かれていない。 秋山さんが最も気にすること(外れたとき株主に説明するはめにならないか)に答えていない
3. Medium-term targets and initiatives (FY2029-FY2031)
Target: incremental revenue from owned messaging of JPY 400M in FY2031
(10% CAGR from the FY2028 estimate of JPY 300M)
FY2029 FY2030 FY2031
Incremental revenue 330M 360M 400M
Key initiatives LINE Personal- New
expansion ization channels
KPIs Friends ID-linked Delivery
users reach
FY2029 actions
1. Continue the LINE friend-add card insert
2. Add an ID-link prompt on the order-complete page
3. Review unsubscribe rules
Investment: JPY 4.2M in FY2029
Risks: rising spam-report rate; changes to LINE terms英文計画書の標準の型(Target / Initiatives / KPIs / Investment / Risks)は揃っている。ただし "10% CAGR" は上から置いた数字で、積み上げの根拠(bridge)がない。英語圏の読み手は "How does 2031 get built?" とまず聞く。
3. FY2031の姿と、FY2029の打ち手(秋山さんへ)
FY2031の姿: 配信経由の増分売上 3.67億円〔導出〕(FY2028見込み 3.0億円)
増分売上=メール・その他 2.3億円(横ばいと置く)+ LINE個別配信 1.37億円
LINE個別配信=ID連携人数(年平均)× 1人あたり年940円
※増分売上=配信しない10%の対照群との購入額の差
ID連携人数=LINE友だち数 × 連携率
FY2028末 FY2029末 FY2031末 FY2029に動かす打ち手
LINE友だち数 23.4万 25.8万 30.7万 友だち追加カード同梱(年+2.4万人)
連携率 37.5% 42% 52% 購入完了画面の連携導線(2029/5/7公開)
ID連携人数 8.8万 10.8万 16.0万
全社様式の「年平均+10%」は3.99億円。積み上がるのは3.67億円まで。
差の0.32億円分(8%)の打ち手は、今はない
★連携率52%(今37.5%)は仮定。実測はまだないGoodから何が変わったか(★ここが今日の学習の中心):
読み手プロファイルの各項目に、変更を1対1で対応させている。
| 読み手プロファイルの項目 | Betterで行った変更 |
|---|---|
| 秋山さんが気にすること「置いただけの数字か、根拠のある数字か」 | 4.0億円を、全社様式の+10%(置いた数字)と積み上げの3.67億円(根拠のある数字)に分けた。Goodは両方が混ざっていた |
| 秋山さんが知らないこと「増分売上、ID連携」 | 「増分売上=配信しない10%の対照群との差」を数字の直下に1行で定義した。ID連携人数を友だち数×連携率の式に分け、各項に現在値と3年後の値を置いた |
| 施策と数字の線 | 式の右端に「FY2029に動かす打ち手」の列を置いた。友だち数にはカード同梱、連携率には連携導線、と1つの打ち手が1つの項を動かす対応にした。「AI活用」「新チャネル」は、どの項も動かさないので表に載らない |
| 届かない分 | 「積み上がるのは3.67億円まで。差の0.32億円分は打ち手がない」を、表の下に1行で書いた。Goodは4.0億円で届くように読めた |
| 確かでない前提 | ★で「連携率52%は仮定」と書いた。数字の中で一番外れやすい箇所を、秋山さんに先に見せた |
「置いた数字」と「積み上げた数字」: 全社様式の+10%は上から降りてきた数字で、各部門の積み上げではない。積み上げた数字がそれより小さいとき、差を隠して+10%に合わせると、あとで未達として表に出る。中期計画の数字が外部に公表される場合、この差は株主から見える(東証は2023年3月から、上場会社に資本コストや株価を意識した経営の計画策定・開示を求めている。出典は設計メモ)。
それでも残っている問題(Bestで扱う):
- 秋山さんが「全社様式に何を書くか」を選べない。 3.99億円か3.67億円か、外に出してよい数字はどれか。選択肢と推奨がない
- 連携率52%が外れたときの数字(下限)がない。 外に出せるのは、全部の前提が外れても残る数字だけ
- FY2029の420万円の根拠と、回収の見通しがない
- 前提が実測で確かめられる時期と、そのときの動きがない。 連携率がいつ分かるのか、分かって低かったらどうするのか
- 決まらなかったときの動きがない。 8/24に決まらなければ、様式の提出(8/25以降)が止まる
ここで動いた軸: ②読み手適合(置いた数字と積み上げた数字の分離、用語の定義)、③事実と解釈の分離(★で仮定を明示)。
3. The FY2031 picture and FY2029 actions (for Ms. Akiyama)
FY2031: incremental revenue of JPY 367M [derived] (FY2028 estimate: JPY 300M)
= Email and other JPY 230M (held flat) + LINE one-to-one JPY 137M
LINE one-to-one = ID-linked users (annual average) x JPY 940 per user per year
* Incremental revenue = purchases above a 10% holdout that is not messaged
ID-linked users = LINE friends x link rate
End FY28 End FY29 End FY31 FY2029 action that moves it
LINE friends 234k 258k 307k Friend-add card insert (+24k a year)
Link rate 37.5% 42% 52% Link prompt, order-complete page (live 7 May 2029)
ID-linked users 88k 108k 160k
The company template asks for 10% CAGR = JPY 399M. What we can build is JPY 367M.
The JPY 32M (8%) gap has no initiative behind it today.
NOTE: the 52% link rate (37.5% today) is an assumption. We have no measurement yet."What we can build" と "has no initiative behind it today" の2文が英語の型。計画と目標の差をidentified / unidentified(打ち手が特定されている分/されていない分)に分けて書くのは、英語圏の計画書で信頼される書き方(一般的な実務知識として記載。出典は未確認)。NOTE で仮定を目立たせた。
8/24(木)の確認会で、秋山さんに決めていただきたいこと(2点)
① 全社様式の「FY2031の数字」に何を書くか(案: B)
案 FY2031の数字 積み上げの裏づけ 外れたとき・代償
A 4.0億円(全社様式の+10%) 3.67億円まで。0.32億円は打ち手なし 未達が今から見えている数字を、外に出すことになる
B 3.67億円を社内目標。 連携率52%が前提(実測なし) 全社の+10%には届かず年平均+7.0%。8/3の実測で3.67億円を確定か、
外に出せる数字は3.34億円 3.34億円に下げる
C 3.34億円(連携導線を作らない) 友だち追加カードだけ 年平均+3.6%。420万円は要らない
② FY2029の追加予算 420万円(連携導線3人月+対照群の運用)。3年の増分売上の差 約0.56億円、粗利で約1,680万円〔仮定: 粗利率30%〕。FY2030に回収
判定: 2029/8/3(金)。導線を見せた群と見せない10%の群の連携率の差が12週で+1.1pt以上 → 3.67億円を確定。未満 → 3.34億円に下げ、導線は止める(延長して再判定しない)
決まらなかったら: 8/25(金)12:00 に宮田が案Bで様式に記入する
見直す条件: 休眠33万人への配信を止めて、メールの増分が1割(0.23億円)以上減る場合Betterから何が変わったか:
- ①結論の位置が動いた。冒頭を「決めていただきたいこと」にし、3案と推奨を先に出した
- ④次の行動が動いた。判定日(2029/8/3)と基準(+1.1pt)、決まらなかったときの扱い(8/25 12:00)、見直しの条件を書いた
- ③事実と解釈の分離が動いた。外に出せる数字(3.34億円)と社内目標(3.67億円)を分けた。 前者は連携率が上がらなくても残る数字、後者は仮定が当たったときの数字
- ⑤想定反論が動いた。「全社の+10%に合わせるべきだ」には案Aの代償で、「導線は要らないのでは」には案Cの代償で先回りした。「420万円は高い」には回収年で答えた
今回はBestまで作るべきか: Best必要。中期計画の数字は外部に公表され、あとで検証される。置いた数字を出すか、積み上げた数字を出すかの判断は、秋山さんにしかできず、宮田が黙って決められない。ただし、FY2030・FY2031の年次更新(ローリング)では、前年の判定結果を1行入れる「Better相当」で足りる。
Decisions requested at the 24 August meeting (2)
1. What to enter in the company template for FY2031 (we recommend B)
Opt FY2031 figure What supports it If wrong / what it costs
A JPY 400M (template's 10% CAGR) Only JPY 367M is built Publishes a figure we can already see we will miss
B JPY 367M internal target; Needs link rate of 52% 7.0% CAGR, below the template's 10%. On 3 Aug 2029 we
JPY 334M is the only figure (not yet measured) either confirm 367M or lower it to 334M
we say is safe to disclose
C JPY 334M (no link prompt) Friend-add card only 3.6% CAGR. No JPY 4.2M spend
2. JPY 4.2M added to the FY2029 budget (link prompt: 3 person-months, plus holdout operations).
Over 3 years: ~JPY 56M more incremental revenue, ~JPY 16.8M gross profit [assumes 30% margin]. Paid back in FY2030.
Decision date: 3 Aug 2029. If the link-rate gap between prompt-shown and 10% holdout is +1.1pt or more at 12 weeks, confirm 367M. If less, lower to 334M and stop the prompt (no extension, no re-test).
If undecided: Miyata enters Option B in the template by noon on 25 August.
Revisit if: stopping email to the 330k dormant members cuts email incremental revenue by 10% (JPY 23M) or more."Decisions requested" で始め、案の表の列を "What supports it"(裏づけ)と "If wrong"(外れたとき)にした。"the only figure we say is safe to disclose" は、外部に出す数字と社内目標を分ける英語圏の型(guidance と internal target の区別)。"no extension, no re-test" で、期間を延ばして再判定する逃げ道を先に塞いだ。
日英差分ノート
1. 日本語の中計は「ありたい姿」から入る。英語の計画書は「数字と、その作り方」から入る
日本語の中期経営計画は、ビジョン(「お客様に寄り添う」)が先頭で、数字が後ろに来るのが通常の型である。英語の計画書では、Target(数字・期限)と、そこへの橋(bridge)が先頭で、ビジョンは1行で足りる。Bad の英語版が願望に読まれる理由はここにある。
2. 「目指す」の強さが日英で違う
日本語の「FY2031に4.0億円を目指す」は、達成を約束していないことが読み手に通じる。英語の "we aim to reach JPY 400M" は、公表されると target として扱われ、検証される。Better以降の英語版は、"JPY 367M internal target" と "the only figure we say is safe to disclose" で、約束の強さを分けて書いている。
3. 「年平均成長率」は上から降ろすと、積み上げと食い違う
日本語では「年平均+10%」が目安として降りてくる。英語の "CAGR" も同じ。上から降りた CAGR と、下から積み上げた数字の差を、"gap" として明示するのが、どちらの言語でも信頼される書き方である。日本語の中計は差を隠して目安に合わせる形になりやすい。
頻出表現
| 日本語 | English | トーンの強さ |
|---|---|---|
| 目指す | aim to / target | 弱い(aim)〜中立(target)。公表すると検証される |
| 見込み | estimate / forecast | 中立。forecast は開示規則と結びつくことがある |
| 年平均成長率 | CAGR (compound annual growth rate) | 中立・専門用語 |
| 積み上げ | bottom-up build / bridge | 中立。「置いた数字」との対比で使う |
| 打ち手がない分 | unidentified gap / gap to target | 強い。隠さず書くと信頼される |
| 下限(外に出せる数字) | floor / the figure we are confident of | 強い。社内目標と分けて書く |
| 社内目標 | internal target / stretch | 中立。公表の対象ではないと明記する |
| 前提 | assumption | 中立。★や NOTE で目立たせる |
差分5軸まとめ
| 軸 | Bad | Good | Better | Best |
|---|---|---|---|---|
| ① 結論の位置 | 数字がなく結論がない | 目標4.0億円が先頭 | 3.67億円と分解が先頭 | 冒頭が「決めていただきたい2点」と推奨 |
| ② 読み手適合 | どの部門でも書ける | 全社様式の3年分の表に合わせた | 秋山さんの知らない語を定義し、置いた数字と積み上げた数字を分けた | 全社様式に何を書くか、外に出してよい数字はどれかを、秋山さんが選ぶ形 |
| ③ 事実と解釈の分離 | 「着実に伸ばす」 | 全社様式の+10%を掛けただけ | 式に分解し、仮定(連携率52%)に★ | 外に出せる数字(3.34億円)と社内目標(3.67億円)を分離 |
| ④ 次の行動 | 「順次推進」「別途協議」 | FY2029の3項目と420万円 | 打ち手と動かす項の対応(カード→友だち数、導線→連携率) | 判定日2029/8/3と+1.1pt、8/25 12:00の既定、見直しの条件 |
| ⑤ 想定反論 | 無視 | リスクの一覧 | 「届かない0.32億円」を自分から書いた | 案A・Cの代償と、420万円の回収年で先回り |
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FY2029〜FY2031 中期経営計画 部門パート(EC事業本部 販促システム部 MOps・自社配信チャネル) 2028年8月18日 宮田 宛先: 秋山さん(経営企画部)、高梨部長(販促システム部)
1. 8/24(木)15:00の確認会で、秋山さんに決めていただきたいこと(2点)
① 全社様式の「FY2031の数字」に何を書くか(案: B)
| 案 | FY2031の数字(増分売上) | 積み上げの裏づけ | 外れたとき・代償 |
|---|---|---|---|
| A | 4.0億円(全社様式の年平均+10%) | 3.67億円まで。0.32億円分は打ち手がない | 未達が今から見えている数字を外に出すことになる |
| B(推奨) | 3.67億円を社内目標。外に出せる数字は3.34億円 | 連携率52%が前提(実測なし)。3.34億円は連携率が上がらなくても残る | 全社の+10%には届かず年平均+7.0%。8/3の実測で3.67億円を確定か、3.34億円に下げる |
| C | 3.34億円(連携導線を作らない) | 友だち追加カードだけ | 年平均+3.6%。420万円は要らない |
② FY2029の追加予算 420万円(連携導線の開発3人月=360万円、対照群の運用60万円〔仮定: 1人月120万円〕)。3年(FY2029〜31)の増分売上の差は約0.56億円、粗利で約1,680万円〔仮定: 粗利率30%〕。FY2030に回収する。
2. 3年後の姿(案B)と、その作り方
FY2031の配信経由の増分売上 3.67億円(FY2028見込み 3.0億円)。 増分売上=メール・その他 2.3億円(横ばいと置く〔仮定〕)+ LINE個別配信 1.37億円。LINE個別配信=ID連携人数の年平均 × 1人あたり年940円〔仮定: Day008の見込みを借用。2028/9に実測で置き換える〕。 ※増分売上=配信しない10%の対照群との購入額の差。配信経由で「帰属」した売上(配信しなくても買った分を含む)ではない。
| FY2028末 | FY2029末 | FY2031末 | FY2029に動かす打ち手 | |
|---|---|---|---|---|
| LINE友だち数 | 23.4万 | 25.8万 | 30.7万 | 友だち追加カード同梱(年+2.4万人。初回購入約34万箱×追加率7.2%) |
| 連携率 | 37.5% | 42% | 52% | 購入完了画面の連携導線(2029/5/7公開) |
| ID連携人数 | 8.8万 | 10.8万 | 16.0万 | — |
3. 届かない分と、外に出してよい数字
全社様式の「年平均+10%」は FY2031で3.99億円。積み上がるのは3.67億円で、差の0.32億円(8%)分の打ち手は、今はない。 外に出してよい数字は 3.34億円(連携率が37.5%のままでも残る数字)まで。外部公表に使うかは経営企画部が決める。
4. 判定と、判定の後
- 公開の2週間前(2029/4/23)までに、10%の対照群で12週に+1.1ptの差が検出できる表示数が溜まるかを宮田が計算して報告する
- 判定: 2029/8/3(金)。導線を見せた群と見せない10%の群で、連携率の差が12週で +1.1pt以上 → 3.67億円を確定。未満 → 3.34億円に下げ、導線は止める。期間を延ばして再判定しない〔導出: FY2029末の42%に届くには47.6週で+4.5pt。12週では+1.1pt〕
- 結果は 8/10(金)までに、宮田が中計の進捗欄に入れる
5. 決まらなかったら: 8/25(金)12:00 に宮田が案Bで全社様式に記入する。 6. 見直す条件: 休眠33万人(Day013)への配信を止めて、メールの増分が1割(約0.23億円)以上減る場合。この計画はメールを横ばいと置いているので、そのときは数字を作り直す。
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FY2029-FY2031 Medium-Term Plan: Department section (EC Division, Promotion Systems, MOps - owned messaging) 18 August 2028 Miyata To: Ms. Akiyama (Corporate Planning), Mr. Takanashi (Promotion Systems)
1. Decisions requested at the 24 August (Thu) 15:00 meeting (2)
- What to enter in the company template for FY2031 (we recommend B)
| Option | FY2031 figure (incremental revenue) | What supports it | If wrong / what it costs |
|---|---|---|---|
| A | JPY 400M (template's 10% CAGR) | Only JPY 367M is built. JPY 32M has no initiative behind it | Publishes a figure we can already see we will miss |
| B (recommended) | JPY 367M internal target; JPY 334M is the only figure we say is safe to disclose | Needs a link rate of 52% (not yet measured). JPY 334M holds even if the link rate stays at 37.5% | 7.0% CAGR, below the template's 10%. On 3 Aug 2029 we either confirm 367M or lower it to 334M |
| C | JPY 334M (no link prompt) | Friend-add card only | 3.6% CAGR. No JPY 4.2M spend |
- JPY 4.2M added to the FY2029 budget (link prompt: 3 person-months = JPY 3.6M, holdout operations JPY 0.6M [assumes JPY 1.2M per person-month]). Over FY2029-31: ~JPY 56M more incremental revenue, ~JPY 16.8M gross profit [assumes 30% margin]. Paid back in FY2030.
2. The FY2031 picture (Option B) and how it is built
FY2031 incremental revenue from messaging: JPY 367M (FY2028 estimate: JPY 300M). Incremental revenue = Email and other JPY 230M (held flat [assumption]) + LINE one-to-one JPY 137M. LINE one-to-one = ID-linked users (annual average) x JPY 940 per user per year [assumption: borrowed from the Day 8 estimate; to be replaced by actuals in Sept 2028]. * Incremental revenue = purchases above a 10% holdout that is not messaged. It is not "attributed" revenue, which includes purchases that would have happened anyway.
| End FY28 | End FY29 | End FY31 | FY2029 action that moves it | |
|---|---|---|---|---|
| LINE friends | 234k | 258k | 307k | Friend-add card insert (+24k a year: ~340k first-order boxes x 7.2% add rate) |
| Link rate | 37.5% | 42% | 52% | Link prompt on the order-complete page (live 7 May 2029) |
| ID-linked users | 88k | 108k | 160k | - |
3. The gap, and the figure we say is safe to disclose
The company template's 10% CAGR gives JPY 399M in FY2031. What we can build is JPY 367M. The JPY 32M (8%) gap has no initiative behind it today. The only figure we say is safe to disclose is JPY 334M (it holds even if the link rate stays at 37.5%). Whether to disclose any figure is Corporate Planning's decision.
4. Decision point and what follows
- By 23 April 2029 (two weeks before launch), Miyata calculates whether enough impressions will accumulate for a 10% holdout to detect a +1.1pt difference in 12 weeks, and reports it
- Decision date: 3 Aug 2029 (Fri). If the link-rate gap between prompt-shown and 10% holdout is +1.1pt or more at 12 weeks, confirm JPY 367M. If less, lower to JPY 334M and stop the prompt. No extension, no re-test [derived: reaching 42% by end FY2029 needs +4.5pt over 47.6 weeks, i.e. +1.1pt in 12 weeks]
- Miyata enters the result in the plan's progress column by 10 Aug (Fri)
5. If undecided: Miyata enters Option B in the company template by noon on 25 August (Fri). 6. Revisit if: stopping email to the 330k dormant members (Day 13) cuts email incremental revenue by 10% (about JPY 23M) or more. This plan holds email flat, so the figures would need rebuilding.
完成の定義チェックリスト
中期経営計画書を出す前に必ず確認する。「雑・妥協」を防ぐための外部基準。1つでも未チェックがあれば、まだ出さない。
今日の演習
Bad例の「目標: 配信経由売上を年平均で着実に伸ばす。」の1行だけを書き直す。条件は2つ。①「FY2031に○○億円(FY2028見込み△△億円)。=□□+◇◇」と、数字を2つの項に分けて1〜2行で書く。②その下に、「全社様式の+10%だと○○億円。積み上がるのは△△億円まで。差は□□億円」と1行で書く。
読み手を変えて、同じ題材の部門パートを、経営会議で直接読む石原CFO向けに書き直す。 読み手はCFO・石原さん(Day013の出資者。数字の根拠と投資の回収を見る。1部門あたり読む時間は3分)。条件: ①冒頭を「420万円で、3年の粗利約1,680万円」にして、売上と粗利を混ぜない。②帰属売上は信用されない前提で、増分売上の定義を1行に。③3.67億円が外れたとき、止める基準(8/3の+1.1pt)で何が止まり、何が残るかを1行で。④Betterで止めるか、Bestまで書くかを理由つきで決める。
取り組む前のヒント
- 先に式を書く。「何の数×いくら」に分けられない数字は、まだ積み上げていない
- 次に、打ち手を式の項に1つずつ当てはめる。当てはまらない打ち手は、3年後の数字に関係がない
- 積み上げが目安より小さいとき、差を隠して目安に合わせない。差を出し、隠さない方が、あとで外れたときの信用を守る
- 罠: 売上の差と費用を直接比べない。420万円と比べるのは、増分売上の粗利
- 罠: 判定の基準(+1.1pt)を決めても、その差が検出できる数が溜まるかを確かめていなければ、判定の日に「分からない」になる
実務での使いどころ
中期経営計画書は、事業計画書(Day001)の「3年版」にあたり、全社の計画から各部門の部門パートに降りてくることが多い。ここで決めた数字は、次の文書に降りていく。OKR設定シート(経営・戦略#3)は、FY2029の連携率42%を「年次の目標と、四半期の主要な結果」に落とす続編にできる。KPIツリー(#4)は、「増分売上=メール・その他+LINE個別配信、LINE個別配信=人数×1人あたり」の式を、最終指標と現場で動かせる指標の接続として作り直す。取締役会資料(#5)は、9/12の経営会議の後、取締役会に上げる1枚版になる。IR資料(#6)は、公表後に「約束した数字に届いたか」を説明する資料で、今日の「外に出せる数字」と「社内目標」の分離が、あとで効いてくる。
この回の設計メモ(迷った他案・扱わなかった範囲・出所)
迷った他案と採らなかった理由
- ビジョン・市場環境・SWOTを先頭にする案 — 中計の一般的な型だが、勝負どころ(数字と打ち手の線)が薄まる。ビジョンは1行で足りるとしてBadで見せ、Goodから数字に入った
- 全社様式の「配信経由売上(帰属)」で+10%を書く案 — 秋山さんの様式には合うが、Day008で「配信しなくても買った分」を除く増分で測ると決めたので採らなかった。前提が変わったら(全社が帰属売上で全部門を揃えると決めたら)、帰属売上の併記に変える
- 目標を「友だち数」で書く案 — 数えやすく、カード同梱で直接動く。ただし友だち数が増えても、個別に配信できるのはID連携した人だけなので、売上に近い「ID連携人数」まで分解した
- Betterで3案(A/B/C)まで出す案 — Bestとの差がなくなるため、Betterは「分解・打ち手の対応・届かない分」にとどめた
- 読み手を株主・アナリスト(外部公表版)にする案 — 公表版は経営企画部が書く文書。宮田が書くのは部門パートで、渡す数字を選ぶのが仕事。カタログの主な読み手は間接的に届く形にした(ルール5)
- 案Aを推奨にする案 — 全社の+10%に合い、秋山さんには楽。ただし打ち手のない0.32億円を外に出すことになる。前提(連携率の実測)が良ければBは3.67億円で確定し、AとBの差は0.32億円だけに縮む
扱わなかった範囲
- 全社の中期経営計画の本体(財務計画、資本コスト、ROIC、事業ポートフォリオ。事業ポートフォリオ分析は経営・戦略#8)、KPIツリー(#4)、OKR(#3)、取締役会資料(#5)
- 人員計画・体制、他チャネル(アプリ通知・SMS)、パーソナライズの具体策(Badの「AI活用」。どの項も動かさないので載せていない)
- 外部公表の可否と開示規則の判断(経営企画部・法務の範囲。このスキルは法的助言ではない)
- 判定の検出力の計算(未実施)。 10%の対照群で12週に+1.1ptの差が検出できるかは計算していない。本文の「4/23までに宮田が計算して報告」はその穴を認めたもの。Day010の「測定可能の5点」でいえば、閾値と時期は書いたが、測り方が成立するかの確認が残っている
- 休眠33万人への配信の扱い(Day013の研究の結果)。この計画はメールを横ばいと置き、見直しの条件に入れた
数字と概念の出所
- 会社・人物・日付はすべて架空。〔実測〕はシナリオ内の数字(ID連携6.4万人・友だち18.2万人=2027/10、メール会員96万・休眠33万、1日約925箱=Day010・013・015)。2028/7時点の友だち21.6万・ID連携8.1万・カード追加率7.2%・約8.4万箱は、この回のシナリオ内で置いた実測
- 〔仮定〕: FY2028見込みの増分売上3.0億円(うちLINE約0.7億円)、メール・その他2.3億円の横ばい、1人あたり年940円(Day008の上期3,000万円÷64,000人×2を借用)、連携率の経路(42%→47%→52%)、粗利率30%、1人月120万円、対照群運用60万円、全社様式の+10%の目安、日程(9/12・2/20・5月公表)
- 計算は作成時に Python で行った〔導出〕: 友だち数=23.4万+2.43万×年数(初回購入925箱×365日×7.2%=約2.43万人/年)。ID連携人数=友だち数×連携率。LINE個別増分=(期首と期末の平均人数)×940円。FY2031は 15.96万人末・14.62万人平均×940円=1.37億円、メール2.3億円と合わせて3.67億円。連携率37.5%据置は3.34億円。+10%は3.0×1.1³=3.99億円。CAGRは3.67→+7.0%、3.34→+3.6%。3年の差は0.05+0.18+0.33=0.56億円、粗利30%で1,680万円。判定の+1.1ptは4.5pt×12週÷47.6週。曜日(7/24月・8/18金・8/24木・8/25金・9/12火・2029/2/20火・2029/5/7月・8/3金・8/10金・4/23月)は作成時に確認した
- 東証が2023年3月から、プライム・スタンダード市場の上場会社に「資本コストや株価を意識した経営」(現状分析→計画策定・開示→取組みの実行)を求めている: JPX の関連ページ(例: https://www.jpx.co.jp/news/1020/20240830-01.html)。2026-10-03 の作成時に検索結果の要約で確認した(ページ全文は未読)。本文では「中計の数字が公表されると株主から見える」の補強にだけ使った
- 「identified / unidentified」で計画と目標の差を分ける英語圏の書き方、"aim to" が願望に読まれる、target と guidance の区別は、一般的な実務知識として書いた。出典は確認していない(記憶による)
- 分量(行数)は、各コードブロックの行数を作成後にスクリプトで数えた実測値
何が起きているか:
これは怠慢ではなく、「中期計画はビジョンを語るもの」という通念から生まれる形である。書き手には配信の中身が見えているが、読み手の秋山さんには、数字が何から出てくるかが見えない。