Phase 2: 中級 / 専門職の説明責任 — 中間テストの監督中に、他クラスの高2男子の筆箱から年号メモを見つけた英語教師が、学年会前の15分で、見たことと見ていないことを分けて伝え、言い分をそのまま書き取り、「推薦は」「親に言うの」「隣のやつは」に約束できる範囲だけで答える
| Time(いつ) | 10月8日(木)12時25分。2学期中間テストの2日目、最後の科目(3時間目・世界史探究、11:30〜12:20)が終わった直後。2年生は12:40に下校。あなたは13:00から2年の学年会(テストの不正の疑いはここで学年主任に報告する決まり) |
|---|---|
| Place(どこで) | 埼玉県内の県立高校、2階の小会議室。ドアは半分開けたまま。机をはさまず、斜めに座る。机の上には、テスト中に預かった紙片(クリアファイルに入れてある)だけを置く(英語版では、米国の公立高校の10th grade、教室の隣の空き教室) |
| Person(相手) | 2年3組の男子生徒・カイト(17歳)。サッカー部。評定平均は4.1で、来年の指定校推薦を狙っていると担任から聞いている。あなたの授業は取っていない。テスト中、筆箱の中に、世界史の年号と人名を小さく書いた紙片が入っていた。呼ばれた理由は分かっていて、最初は黙って下を向き、話し始めると早口になる。途中から目が赤くなる |
| Position(あなたの立場) | 2年の学年所属の英語教師(教職9年目)。この時間の試験監督。カイトの担任でも、世界史の担当でもない。不正をしたかどうかを決める立場ではなく、見たことを記録して学年主任に報告する立場。処分を決めるのは校長(学年会・成績会議を経て) |
| Occasion(状況・目的) | 学年会の前の15分。①見たことを事実として本人に伝える ②本人の言い分を、評価せずにそのまま聞いて記録する ③このあと何が起きるか(誰が決めるか・いつ・保護者への連絡)を、約束できる範囲で正直に伝える ④本人が自分の言葉で書く「経緯の紙」を渡す |
※ 人物・日付・時刻・学校・評定・校内の手続き(内規)はシーン設定のための仮定であり、実在の学校・生徒のものではない。法令の扱いは、下の「制度的な位置づけ」の範囲でのみ実在の情報として扱う。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| テスト前の指示(仮定) | 試験開始前に、あなたが「筆箱は机の中かカバンにしまってください」と全員に言った。カイトの筆箱は、机の右上に、ファスナーが開いたまま置かれていた。開始5分でもう一度全体に言ったが、そのままだった |
| 見たこと | 11:52 と 11:58 の2回、カイトが筆箱の中に視線を落とすのを、教卓から見た。12:00 に机の横まで行くと、筆箱の中に、折りたたまれた紙片(約5cm×8cm)が見えた。紙を預かり、筆箱を机の中へ入れるよう言い、テストはそのまま最後まで受けさせた |
| 紙片の中身 | 鉛筆で、年号と人名が12個(例: 「1648 ウェストファリア条約」)。今日の問題と重なるのは、大問2の3問 |
| 見ていないこと | 紙片を手に取って読んでいる場面は見ていない。答案に紙片の内容を書き写したかどうかは、あなたには分からない |
| 決まり(仮定・学校の内規) | 試験中に不正行為の疑いがあった場合、監督は紙片などを預かり、試験終了後に本人から話を聞き、学年主任に報告する。不正行為と認められた場合は、その科目のその回の点数を0点とし、保護者に連絡する。それ以上の指導(特別指導)は、学年会・生徒指導部会を経て校長が決める |
| 動かせるもの | 見たことと見ていないことを分けて伝える/本人の言い分を、聞いたとおりに記録する/経緯の紙を本人に書いてもらう(今日でも明日の朝でもいい)/このあとの流れと時期を伝える/保護者への連絡を、学校からの電話の前に本人が自分から話す時間をつくれるよう、担任に頼む |
| 動かせないもの | 「不正ではなかった」「0点にはならない」と言うこと。「推薦は大丈夫」「推薦はなくなる」と言うこと。保護者に連絡しないと約束すること。紙片を本人に返すこと。他の生徒(「隣のやつもスマホを持っていた」)の話をこの場で調べること |
It's 12:25 on Thursday, right after the last exam of the day. You proctored the World History test for a class of tenth graders. You're not their history teacher. You teach English.
At the start of the test, you told everyone to put their pencil cases away. Kaito's stayed on his desk, open. Twice you saw him look down into it. When you walked over, there was a small folded piece of paper inside, with dates and names written on it. Three of them were on the test. You took the paper, told him to put the case away, and let him finish. You never saw him take the paper out or read it.
Now he's sitting across the corner of the table from you in an empty classroom next door. The door is half open. The paper is in a clear folder on the table. You have fifteen minutes before your department meeting, where you have to report this. It's not your decision whether this counts as cheating. It is your job to tell him what you saw, listen, and write down what he says.
10月8日(木)12時25分。中間テスト2日目、最後の科目が終わった直後。あなたは2年3組の世界史のテストの監督だった。世界史の先生ではなく、英語の先生である。
開始前に「筆箱はしまってください」と言ったが、カイトの筆箱は机の上に、開いたまま置かれていた。2回、彼が筆箱の中に目を落とすのを見た。机の横まで行くと、中に折りたたんだ小さな紙があり、年号と人名が書いてあった。そのうち3つが、今日の問題に出ていた。紙を預かり、筆箱をしまわせ、テストは最後まで受けさせた。紙を取り出して読むところは、見ていない。
いま、2階の小会議室で、カイトはあなたの斜め前に座っている。ドアは半分開けてある。机の上には、紙の入ったクリアファイルだけ。13時から学年会があり、そこで学年主任に報告しなければならない。不正かどうかを決めるのはあなたではない。あなたの仕事は、見たことを伝え、話を聞き、聞いたとおりに書き残すことである。
この立場になりきって応答してください。英語版・日本語版それぞれで考えてみましょう。応答は次の2つを含めること。
・最初の話(1分ほど):なぜ呼んだかを言い、見たことと見ていないことを分けて伝える。自分は決める立場ではなく、報告する立場であることを先に言う。言い分を聞いたとおりに書くことを伝える
・4つの声への返し:「見てない、しまい忘れただけ」には、反論せずにそのまま書き取ると言う。「証拠ないじゃないですか」「使ってなくても?」には、見ていないことは見ていないと認め、決まり(筆箱をしまう指示)と判断する人を分けて答える。「推薦は」「親に言うんですか」には、答えられないことは答えられないと言い、保護者への連絡は約束しない代わりに、自分から先に話す時間をつくる。「父親がキレる」に一度だけ安全を確かめる。「隣のやつは」には、今の話とは分けて、別に聞くと言う
試験監督の教師は、事件の「最初の記録者」である。ここで書いたことが、学年会・生徒指導部会・校長の判断のもとになる。だから、見たことと、見ていないことと、本人が言ったことを、混ぜずに残す。見ていないことを「たぶん読んでいた」と書いた時点で、その記録は判断の材料ではなく、判断そのものになってしまう。
生徒が何をしたかとは別に、この15分の扱われ方を、生徒はずっと覚えている。決めつけられた、なぐさめられて裏切られた、は、どちらも次の正直さを奪う。分からないことを分からないと言う大人に会うことが、この生徒にとっての、このテストの次に大事なことになる。
| 他案 | 採らなかった理由 | 前提が変わったら | 今回の扱い |
|---|---|---|---|
| テスト中にその場で答案を取り上げ、退室させる | 紙を読む場面を見ていない。退室させると、教室の30人の前で「カンニングした人」にしてしまい、取り消せない | 紙を広げて読んでいる場面を、はっきり見た場合 | 紙だけを預かり、筆箱をしまわせ、最後まで受けさせる |
| 学年会で報告するまで本人とは話さず、学年主任に任せる | 本人の、いちばん記憶が新しい時点の言い分が残らない。下校させると、本人は何も知らないまま家に帰ることになる | 学校の内規で「監督は話を聞かず、すぐ学年主任に引き継ぐ」と決まっている場合 | 15分だけ話し、見たことを伝え、言い分を書き取る |
| 「正直に言えば軽くなるから」と言って、認めるよう促す | 軽くなるかどうかを決めるのは自分ではなく、約束できない。認めさせることは、監督の仕事ではない | 学校の内規で、自分から申し出た場合の扱いが明文化されている場合 | 言い分をそのまま書き取るだけにする |
| 「隣の生徒もスマホを持っていた」を、すぐに確認しに行く | 見ていないことを、この場で調べ始めると、話がカイトの件から離れる。隣の生徒を、根拠なしに疑うことにもなる | 他の監督や生徒から、同じ報告が複数あった場合 | 別の紙に書いてもらい、学年に渡す |
| 「父親がキレる」を聞き流す | 言い回しかもしれないが、家が安全でない可能性を、確かめずに家に帰すことになる | — | 一度だけ、二択で静かに確かめる。深追いはしない |
| 「たぶん0点にはならないと思うよ」となぐさめる | 外れたとき、「大丈夫と言ったのに」が残り、次から大人の言葉を信じなくなる | — | 決まっていることだけ(不正と決まったら今回のテストは0点)を言う |
| 失敗 | なぜダメか | 代わりにどうするか |
|---|---|---|
| 「見たんでしょ。正直に言いなさい」と問い詰める | 監督は読む場面を見ていない。決めつけると、生徒は黙り、あとで判断する人が言い分を聞けなくなる | 見たことと見ていないことを分けて言い、言い分をそのまま書く |
| 「消しゴム探してただけ」に「そんなわけないでしょ」と返す | 反論すると、言い分の記録ではなく、言い合いになる | 「いま言ったとおりに書きます」と言って書く |
| 「親には言わないでおくから」と約束する | 監督が決められることではない。学校から連絡が行った時点で、約束が嘘になる | 約束はしない。代わりに、自分から先に話す時間をつくるよう担任に頼む |
| 「推薦は大丈夫だよ」「推薦は厳しいかもね」と言う | どちらも推測。言った一言が、生徒の頭の中で結論になる | 「分からないことは推測で言いません」と言い、決まっていることだけを言う |
| 「隣の子もやってたなら、その子も呼ぶ」と言う | 見ていないことで他の生徒を疑い、話の中心がずれる | 「それは別の話。見たことがあれば、別の紙に書いて」と分ける |
| 泣き始めたところで話を打ち切って帰す | 次に何をすればいいかが残らず、家で一人で不安になる | 経緯の紙と提出期限(明日8:20、担任へ)を渡して、時刻で終える |