TPPPO設定

Time(いつ)10月10日(土)12時40分。月1回の土曜授業(3時間目まで)が終わった直後。月曜(10/12)はスポーツの日で休み、次の登校日は火曜。教育実習(3週間、9/28〜10/16)は今日で2週目が終わり、残りは火〜金の4日間。研究授業は木曜(10/15)
Place(どこで)東京都内の区立中学校、2階の国語科準備室。ほかの先生は帰った。机の上には、今日の3時間目の指導案と、大学から届いた実習の評価票(白紙)が置いてある(英語版では、米国の公立 middle school、金曜15時35分の8th grade ELA の教室)
Person(相手)教育実習生の藤井 遼(ふじい りょう、22歳、大学4年、来年度の教員採用試験を受ける予定)。まじめで準備はよくするが、2年2組で私語が多いと「なめられている」と感じ、焦っている。今日の3時間目、音読でつかえた男子生徒に言った一言でクラスが笑った。本人は「少し空気を悪くした」くらいに思っている
Position(あなたの立場)藤井先生の指導教員(国語、教職15年、2年2組の国語の担当)。評価票は指導教員が書き、校長が確認して大学へ送る。単位を認めるのは大学。指導教員は、実習生の授業の場に責任を持ち、生徒への影響を学校の手順にのせる立場
Occasion(状況・目的)今日の一言について、その日のうちに実習生と話す。①何を言ったかを言葉どおりに示す ②その言葉が生徒にどう届いたかを、見たことで伝える ③自分の落ち度(配慮の共有漏れ)を認めつつ、実習生の責任と分ける ④評価は約束しない ⑤火曜の朝の謝り方と、今夜の課題を決めて終える

※ 人物・日付・学校・実習期間・評価の様式・校内の連絡の決まりは、シーン設定のための仮定であり、実在の学校・大学・人物のものではない。法令・指針の扱いは、下の「制度的な位置づけ」の範囲でのみ実在の情報として扱う。10月12日(月)がスポーツの日であることは、祝日法の「10月の第2月曜日」による(2026年の暦で確認)。

手元の事実(あなたが持っている情報)

項目内容
何が起きたか(あなたが教室の後ろで見たこと)3時間目(10時50分ごろ)、「走れメロス」の音読で、藤井先生が座席順に指名した。レン(2年2組の男子)が「ためらう」で止まり、読み直そうとしたところで、藤井先生が「え、これも読めないの? 小学生でも読めるよ」と言った。教室が笑い、レンも笑った。そのあとレンは机に顔を伏せ、授業の終わり(11時35分)まで顔を上げなかった
授業のあと廊下でレンに声をかけた。レンは「別に。慣れてるし」とだけ言って帰った
レンの配慮(校内の取り決め)読むのに時間がかかるため、本人と保護者の希望で、国語の授業では音読で指名しない、テストの問題文にふりがなを付ける。クラスには理由を伏せている(診断の有無はこの場面では扱わない)
あなたの落ち度実習の初日に渡すはずだった「配慮が必要な生徒の一覧(指名のしかたなど、理由は書かないもの)」を、藤井先生に渡していなかった
すでにしたこと12時25分、教頭に口頭で報告した。学校の決まり(仮定)で、授業中に教員の言動で生徒が傷ついたおそれがあるときは、その日のうちに担任から家庭に連絡する。レンの担任(社会科の先生)が16時に電話する
評価票(仮定)大学の様式。「教科指導」「生徒理解」「勤務態度」「教師としての資質」の4項目をA〜Dで付け、所見を書く。最終日のあと1週間以内に、校長の確認を経て大学へ郵送する
動かせるもの今日の実習記録へのコメント/配慮の一覧を今日渡すこと/火曜の朝に、実習生がレンに謝る場をつくること(時間・場所・同席者)/火曜以降も2年2組の授業を続けさせるかどうか/研究授業の進め方
動かせないもの家庭への連絡(学校の決まり)。レンが許すかどうか。評価票の最終的な中身(校長と相談して決める)。ほかの先生の言動についての判断(管理職の扱う話)

シーン描写

It's 3:35 on Friday. The kids are gone. You're a veteran eighth-grade English teacher, and this fall you're the cooperating teacher for Ryan Fisher, a 22-year-old student teacher from the state university. He's three weeks into a twelve-week placement and applying for teaching jobs in the spring. He works hard and over-prepares, but your fourth period is chatty, and he's been feeling like they walk all over him.

In fourth period today, Ryan had students read The Tell-Tale Heart aloud, going down the rows. Jalen got stuck on "dissimulation," tried again, and Ryan said, "Seriously? A third grader could read this." The room laughed. Jalen laughed too, then put his head down and didn't lift it for the rest of the class. In the hall afterward he said, "Whatever. I'm used to it." Jalen has a 504 plan that says he isn't called on to read aloud without warning. You never gave Ryan the accommodations list. You were supposed to, on day one.

You've already told the assistant principal. Jalen's mom will get a call this afternoon. Monday is a holiday in your district. Ryan comes into your room, sits down, and starts talking before you do.

10月10日(土)12時40分。月に一度の土曜授業が終わり、生徒は帰った。あなたは国語の教員で15年目。この秋は、教育実習生の藤井先生の指導教員をしている。藤井先生は大学4年生で、来年度の採用試験を受けるつもりだ。指導案はいつもていねいに書いてくる。ただ、2年2組は私語が多く、本人は「なめられている」と焦っている。

今日の3時間目、藤井先生は「走れメロス」を座席順に音読させた。レンが「ためらう」でつかえ、読み直そうとしたところで、藤井先生は「え、これも読めないの? 小学生でも読めるよ」と言った。教室は笑い、レンも笑った。そのあとレンは机に顔を伏せ、授業の終わりまで顔を上げなかった。廊下で声をかけると「別に。慣れてるし」と言って帰った。レンは、国語では音読で指名しない、という配慮を受けている。その一覧を、あなたは実習の初日に藤井先生へ渡していなかった。

教頭にはもう報告した。夕方、担任からレンの家に電話が入る。月曜は祝日で、次に会えるのは火曜の朝。国語科準備室に戻ると、藤井先生が先に口を開いた。

相手のセリフ

(Ryan, sitting down before you can speak) "Sorry about fourth period. I know that got kind of awkward. But honestly, that class walks all over me. I figured I had to toughen up a little."

(after you repeat his exact words) "It was a joke. Everybody laughed. Jalen laughed too!"

(quieter) "...I didn't know he had trouble reading. If somebody had told me, I never would've said it."

(looking at the evaluation form on the desk) "Is this going in my evaluation? I'm applying for jobs in the spring. That goes to the university, right?"

(a little defensive) "Honestly, there are teachers in this building who say way worse stuff to kids. Why is this a thing just for me?"
(あなたが話す前に、座りながら) 「すみません、さっきの、ちょっと空気悪くしちゃいましたよね。でも2組、僕のことなめてるんで。少しは締めないとって思って」

(あなたが言葉をそのまま繰り返したあと) 「冗談のつもりだったんです。みんな笑ってたし。レンくんも笑ってましたよ?」

(声が小さくなって) 「……読むのが苦手とか、知らなかったんです。先に教えてもらえてたら、言わなかったです」

(机の評価票を見て) 「これ、評価に書くんですか。来年、採用試験受けるんです。大学に送られるんですよね」

(少しむっとして) 「正直、この学校にも、もっときついこと普通に言ってる先生いますよね。なんで僕だけなんですか」

あなたの課題

この立場になりきって応答してください。英語版・日本語版それぞれで考えてみましょう。応答は次の2つを含めること。
・最初の話(1分半ほど):話す場面を1つにしぼり、実習生が言った言葉を言葉どおりに示し、そのあと生徒に何が起きたかを「見たこと」で伝える。自分の落ち度(配慮の一覧を渡していない)をここで1回だけ言う
・4つの声への返し:「冗談だった、本人も笑ってた」「教えてもらえてたら」「評価に書くんですか」「ほかの先生のほうがひどい」に返す。最後は、火曜の朝にどう謝るか(場所・同席・言うこと/言わないこと)と、今夜の課題で終える

ヒント1: トーンの方向性
この10分で起きやすい失敗は3つある。1つ目は、「空気悪くしちゃいましたよね」という藤井先生の言い方に乗って、話を「クラスの雰囲気」の問題にしてしまうこと。問題は雰囲気ではなく、レンという1人の生徒に向けた一言である。だから、最初に言葉をそのまま言う。

2つ目は、責める側に寄りすぎること。「教師に向いていない」「信じられない」のような人物への評価は、実習生を守りに入らせ、火曜の謝罪を形だけにする。言葉と人を分け、「問題にしているのは、あの一言」と言う。

3つ目は、自分の落ち度を認めたとたんに、実習生の責任までうやむやにすること。「私も悪かったから、お互いさま」にしない。落ち度は自分の分だけを1回言い、「あの言葉を選んだのは藤井先生」と分ける。
ヒント2: 使うべき表現・語彙
英語: "I want to talk about one moment from fourth period." "Here's exactly what you said." "I'm repeating it word for word because the words are the problem, not you." "That's on me." "The sentence is yours." "A kid laughing along when the room is laughing at him isn't him agreeing." "I'm not going to guess how it shows up in the evaluation." "That doesn't make today smaller." "No 'if,' no 'I was joking.'" 使わない: "I'm disappointed in you"(人物への評価)、"Don't worry about it"(約束のない安心)、"Let's just move on"。

日本語: 呼び方は「藤井先生」(生徒の前で先生として立っている人として話す)。語尾は「〜です」「〜ます」「〜してください」。「3時間目の、ひとつの場面のことだけ話します」「言ったことを、そのまま言います」「問題にしているのは、あの一言です」「そこは、私の落ち度です」「あの言葉を選んだのは、藤井先生です。そこは分けてください」「軽くなるとも重くなるとも、今は言いません」「それで今日の一言が軽くなるわけではありません」。使わない:「ちょっといいかな」(軽く始めると軽い話になる)、「気持ちは分かるけど」(言い訳を先に認める)、「次から気をつけてね」(それだけで終える)。
ヒント3: 構成の型
最初の話: ①話は1つの場面だけ、と時間とともに言う → ②言った言葉をそのまま言う → ③そのあと起きたこと(全員が笑った/本人も笑った/35分顔を上げなかった/「慣れてるし」)を見たとおりに言う → ④言葉をそのまま言う理由(人ではなく言葉が問題)→ ⑤自分の落ち度を1回だけ(一覧を渡していない、今日渡す)→ ⑥ただし、あの言葉は誰に言ってもだめ

4つの声への返し: ⑦「冗談・本人も笑ってた」→ 冗談のつもりは疑わない。笑いは同意ではない、と、そのあとの35分で答える → ⑧「教えてもらえてたら」→ 一覧は私の落ち度、言葉はあなたの選択、と分ける → ⑨「評価に書くのか」→ 書く。何を書くか(起きたことと次にすること)は言う。評価への影響は約束しない。火曜からの4日間も同じように書く → ⑩「ほかの先生」→ 話としては別に聞く・必要なら管理職に、と受ける。今日の一言は軽くならない。実習生だから厳しいのではない → ⑪家庭への連絡は決まりで、罰ではない → ⑫火曜8時10分、相談室で3人。言うこと(言った言葉・それが間違いだった)と言わないこと(冗談のつもり/傷つけたなら)。レンは返事をしなくていい。クラス全体に言うかはレンに先に聞く → ⑬今夜の課題(3文)→ 最後に「言いたいことはありますか」と相手に返す
(opening — about a minute and a half) "Ryan, have a seat. I want to talk about one moment from fourth period. Ten minutes. I'll have some questions for you, too.
Here's exactly what you said. Jalen got stuck on 'dissimulation,' he tried again, and you said, 'Seriously? A third grader could read this.'
The whole room laughed. Jalen laughed too. Then he put his head down and didn't lift it for the rest of the period. In the hall, he told me, 'Whatever. I'm used to it.'
I'm repeating your words because the words are the problem. Not you.
And there's something I got wrong. Jalen has a 504 plan. One part says we don't call on him to read aloud without warning. I was supposed to give you the accommodations list on day one. I didn't. That's on me. You'll have it before you leave today.
But that sentence isn't okay to say to any kid. List or no list."

(to "It was a joke. Jalen laughed too!") "I believe you meant it as a joke. But when the whole room is laughing at you, laughing along isn't agreeing. It's getting through it. What told me how it landed was the thirty-five minutes with his head on the desk."

(to "If somebody had told me") "You're right, you should've known about the plan. That part is mine. The sentence is yours. Let's keep those two things separate."

(to "Is this going in my evaluation?") "Yes. I'm writing up today: what happened, and what you do next. How it shows up on the evaluation, I'll work out with the principal before your last day. I'm not going to guess right now, either way. What I can tell you is that Tuesday goes in there too, the same way today does."

(to "there are teachers who say way worse") "If you've heard a teacher say something like that to a kid, I want to hear about it. Separately, not now. And if it needs to go to the principal, I'll take it there. But it doesn't make today smaller. This isn't because you're a student teacher. I'd have this exact conversation with anyone on staff.
Here's what happens next. Jalen's mom gets a call from his homeroom teacher this afternoon. That's school policy. It's not a punishment for you.
Monday's a holiday. Tuesday, 7:50, my room, you, me, and Jalen. Keep it short. Say what you said, and say it was wrong. No 'if you were hurt,' no 'I was just joking.' Jalen doesn't have to say anything back. Whether you say anything to the whole class, we ask Jalen first.
Tonight, write me three sentences. What you said. What it did. What you'll do the next time that class gets loud.
...Okay. Is there anything you want to say?"
解説(英語)
  • 語彙選択: "Here's exactly what you said." で始め、"that comment" "what happened" のような言いかえを使わない。言いかえると、聞き手は自分の言葉より軽い版を思い浮かべる。人物評価の語("disappointed" "unprofessional")は使わず、"the words are the problem. Not you." と対象を言葉に限る。自分の落ち度は "That's on me." の一言で引き受け、"The sentence is yours." と同じ長さの文で相手の分を置く。短い文どうしを並べると、どちらも同じ重さで残る。
  • トーン: 米国の教員養成では、指導教員が実習生に "What was going on for you?" と振り返りを促す問いかけ型のフィードバックがよく使われる。ただ、生徒が傷ついた場面では、問いかけから始めると、実習生が自分の言葉を言い直す("I just said he should know that word")時間になり、事実がぼやける。今回は事実を先に置き、問いかけは最後の "Is there anything you want to say?" に回した。
  • 構成: 1場面にしぼる→言葉→その後に起きたこと→理由→自分の落ち度→線引き、と進め、4つの声には「認める部分」と「動かさない部分」を1組ずつ返す。謝罪の型では "if you were hurt" を名指しで禁じる。英語では "I'm sorry if..." が責任を相手の受け取り方に移す言い方としてよく批判される(non-apology)。言ってはいけない形を先に渡すほうが、言うべき形を説明するより短く伝わる。
(最初の話。1分半ほど) 「藤井先生、座ってください。3時間目の、ひとつの場面のことだけ話します。10分ほどです。途中で、藤井先生にも聞きたいことがあります。
まず、言ったことを、そのまま言います。レンくんが音読で『ためらう』のところで止まって、読み直そうとしたとき、藤井先生は『え、これも読めないの? 小学生でも読めるよ』と言いました。
教室は笑いました。レンくんも笑いました。そのあと、レンくんは机に顔を伏せて、授業の終わりまで顔を上げませんでした。廊下で声をかけたら、『別に。慣れてるし』と言って帰りました。
言葉をそのまま言うのは、藤井先生という人を責めたいからではありません。問題にしているのは、あの一言です。
それから、私の落ち度があります。レンくんは、国語では音読で指名しない、という配慮をしています。それを、実習の初日に伝えるべきでした。伝えていなかったのは私です。配慮の一覧は、今日、帰る前に渡します。
ただ、あの一言は、配慮があってもなくても、どの生徒に言っても、言ってはいけない言葉です」

(「冗談のつもりだった、レンくんも笑ってた」に) 「冗談のつもりだったのは、そうなんだと思います。でも、教室じゅうが笑っているときに本人が一緒に笑うのは、『いいよ』という意味ではありません。その場をやり過ごすための笑いです。どう届いたかは、そのあとの35分、顔を上げなかったことに出ています」

(「先に教えてもらえてたら」に) 「配慮のことを伝えていなかったのは、さっき言ったとおり、私の落ち度です。でも、あの言葉を選んだのは藤井先生です。そこは分けて考えてください」

(「評価に書くんですか」に) 「今日のことは、今日の実習記録に書きます。何があったかと、このあと何をするかを書きます。評価票にどう書くかは、最終日までに校長先生と相談して決めます。今、軽くなるとも重くなるとも言いません。言えるのは、火曜日からの4日間も、今日と同じように書く、ということです」

(「ほかの先生のほうがひどい」に) 「もし、生徒にそういう言葉を言っている先生がいるなら、それはそれで聞かせてください。今日ではなく、別に時間をとります。必要なら、私から管理職に伝えます。でも、それで今日の一言が軽くなるわけではありません。実習生だから厳しく見ているのでもありません。同じことを同僚が言っても、私は同じように話します。
このあとのことです。レンくんの家には、夕方、担任の先生から電話が入ります。学校の決まりで、藤井先生への罰ではありません。
月曜は休みなので、火曜の朝8時10分、相談室で、レンくんと藤井先生と私の3人で話します。短くていいです。言ったことと、それが間違っていたことだけを言ってください。『冗談のつもりで』『傷つけたのなら』は付けません。レンくんは、何も言わなくていいです。クラス全体に何か言うかどうかは、先にレンくんに聞いてから決めます。
今夜、3つの文を書いてきてください。何を言ったか。それで何が起きたか。次に2組がざわついたとき、何をするか。
……ここまでで、藤井先生から言いたいことはありますか」
解説(日本語)
  • 敬語レベル: 丁寧語(です・ます)だけで通し、尊敬語・謙譲語は使わない。実習生は年下で立場も下だが、普通体(「〜だよね」「〜しなさい」)にすると、叱る場面では説教の口調になり、相手は内容より口調に反応する。逆に「〜していただけますか」まで上げると、要求がお願いに聞こえ、火曜の謝罪が任意のように響く。指示は「〜してください」「〜は付けません」と言い切る。
  • 一人称・語尾・呼び方: 一人称は「私」。相手の呼び方は、2人だけの場でも「藤井さん」ではなく「藤井先生」にした。生徒の前で「先生」として立っている人の言葉だから重い、という今日の話の前提を、呼び方そのもので示すため(「さん」にすると、学生として扱う話に聞こえる。どちらを選ぶ学校もあり、迷ったところ)。語尾の「〜と思います」は、相手の意図を認める1か所(「冗談のつもりだったのは、そうなんだと思います」)だけに使い、事実の部分は「〜しました」と言い切る。
  • クッション言葉: 冒頭の「ちょっといいかな」「言いにくいんだけど」は使わない。軽く始めると、相手は「軽い注意」の箱に入れて聞く。代わりに「ひとつの場面のことだけ」「10分ほど」と、範囲と時間を先に言って、相手が身構えすぎないようにする。クッションの役目を、ぼかしではなく見通しで果たす。
英語 × 日本語 対比ノート
① 「笑い」の読み方。 日本の教室では「いじり」と「いじめ」の境目がよく議論され、本人が笑っていることが「いじりで済んでいる」証拠として持ち出されやすい。英語圏でも "Everybody laughed" "He laughed too" は同じように言い訳として使われる。どちらの言語でも、指導教員は笑いの意味を議論しない。そのあとの行動(顔を上げなかった35分、「慣れてるし」)で答える。違いは語の側にある。日本語には「いじり」という、悪意のない冗談として扱う便利な語があり、実習生はそれを使わずに「冗談のつもり」と言った。指導教員も「いじり」という語を使わないことで、この話を冗談の文化の議論にしない。

② 呼び方が運ぶもの。 英語版の指導教員は、2人だけの場では実習生を "Ryan" とファーストネームで呼ぶ。生徒の前では "Mr. Fisher" である。英語では、呼び方を変えても話の重さは変わらず、重さは "Here's exactly what you said." の文の形で出す。日本語では、同じ人を「藤井先生」と呼ぶか「藤井さん」と呼ぶかで、話の枠そのものが変わる。日本語版はあえて「先生」を選び、「あなたは生徒の前で先生だった」を、説明せずに呼び方で伝えた。

③ 謝罪の型。 英語で避ける形は "I'm sorry if you were hurt"(相手の受け取り方に責任を移す)。日本語で避ける形は「誤解を与えたなら」「傷つけたのなら」と、同じ働きをする条件つきの謝罪である。両言語とも、言うことは「言った言葉」と「それが間違いだった」の2つだけ。日本語の場面でもう1つ気をつけるのは、学校で「全員の前で謝らせる」形がとられやすいこと。今回それをすると、クラスに伏せているレンの配慮に目を向けさせてしまう。だから謝る場は相談室で、クラスへの説明はレンに先に聞いてから決める。

④ 評価の約束をしないこと。 英語版でも日本語版でも、実習生は評価と就職(採用試験)への影響を聞く。どちらの言語でも、「大丈夫」も「響く」も言わない。英語では "I'm not going to guess, either way." と、推測しないこと自体を言葉にする。日本語では「軽くなるとも重くなるとも言いません」と、両方の向きを並べて否定する。そのうえで、確かに言えること(何を書くか、火曜からも同じように書く)だけを言う。

この立場に共通する心構え

指導教員は、実習生を育てる人であると同時に、実習生が教える教室の生徒を守る人でもある。この2つがぶつかったとき、生徒の側を先に置く。ただし、生徒を守ることは、実習生を切り捨てることではない。言葉と人を分け、その言葉を本人に言葉どおりに返し、次に何をするかを具体的に決める。実習生が初めて「生徒を傷つけた」と知る場で、その後の教員人生で同じ場面に出会ったときのやり方が決まることが多い。

もう1つは、自分の落ち度を、自分の分だけ引き受けることである。共有すべき情報を渡していなかったのは指導教員の責任で、それを黙っていると、実習生は「知らされていなかった」を言い訳として持ち続ける。先に認めると、相手は言い訳を言う必要がなくなる。ただし、認めるのは1回だけで、相手の責任と混ぜない。

制度的な位置づけ(参考)
  • 教育実習の単位: 教育職員免許法施行規則で、中学校の一種免許状に必要な教育実習は5単位(事前・事後指導の1単位を含む)とされる。今回、条文の原文は確認していない。実習校が大学の様式で評価を書き、単位を認めるのは大学、という運用が一般的だが、今回の4項目A〜Dの様式・郵送の期限はシーン上の仮定
  • 教員の不適切な言動: 文部科学省「生徒指導提要」(2022年12月改訂)は、教職員の不適切な指導が児童生徒を傷つけうることに触れているとされる。今回、該当ページの原文は確認していない。「その日のうちに担任から家庭に連絡する」はシーン上の校内の決まり(仮定)
  • 配慮: 障害者差別解消法は、公立学校に合理的配慮の提供を求めている(事業者への義務化は2024年4月施行)。今回、条文の原文は確認していない。レンの配慮が同法の合理的配慮にあたるか、校内の配慮にとどまるかはこの場面では扱わない
  • 米国(英語版): Section 504(Rehabilitation Act of 1973)の 504 plan に書かれた accommodation は、その生徒を教える職員が実行する必要があるとされる。student teacher が accommodations を知ることができるかは、FERPA の "school official with a legitimate educational interest" をどう定めるかの学区の方針によるとされる。今回、どちらも原文は確認していない。実習の評価様式は大学・州ごとに違い、特定の様式は想定していない
  • 2026年10月12日(月)がスポーツの日であることは、国民の祝日に関する法律の「10月の第2月曜日」による(暦から導出)。英語版の "Monday's a holiday" は、米国の多くの学区で10月第2月曜が休みであることを前提にした仮定で、学区ごとに違う
迷った他案と採らなかった理由
他案採らなかった理由前提が変わったら今回の扱い
「どうだった?」と振り返りを促す問いから始める生徒が傷ついた場面では、実習生が自分の言葉を軽い版で言い直す時間になり、事実がぼやける生徒への影響がなく、授業の進め方だけを振り返る場合言葉と事実を先に置き、問いかけは最後に「言いたいことはありますか」で返す
自分の落ち度(一覧を渡していない)は言わずにおく実習生は「知らされていなかった」を言い訳として持ち続け、火曜の謝罪にも混ざる一覧を渡していて、実習生が読んでいなかった場合最初の話で1回だけ認め、「言葉を選んだのは藤井先生」と分ける
火曜はクラス全体の前で謝らせる理由を伏せているレンの配慮にクラスの目を向けさせる。レンがもう一度注目されるレンが「みんなの前で言ってほしい」と望んだ場合相談室で3人。クラスへの説明はレンに先に聞いてから決める
2年2組の授業から外す実習生に「やり直す場」がなくなり、レンの前で何も変わらないまま終わる。研究授業も2組で予定している火曜の謝罪の場で実習生が言い訳を続けた場合、レンや保護者が望んだ場合授業は続けさせ、音読の指名は一覧に沿わせ、指導教員が教室の後ろに入る
「評価には響かないようにする」と言って安心させる評価票は校長と相談して決めるもので、指導教員1人では約束できない。あとで約束が嘘になる評価の様式に、この種の出来事を書く欄がなく、所見の扱いが学校で決まっている場合書くことと書く中身だけを言い、影響は約束しない
「ほかの先生」の話をその場で詳しく聞く今日の話の焦点がずれ、実習生の一言が比べっこの中で薄まる実習生が具体的な言動・日時を挙げ、生徒の安全にかかわる場合別に時間をとって聞く、必要なら管理職に伝える、とだけ言う

よくある失敗パターン

失敗なぜダメか代わりにどうするか
「さっきの、ちょっと言い方がきつかったかな」と言いかえて伝える相手は自分の言葉より軽い版を思い浮かべ、「言い方」の問題だと受け取る「言ったことを、そのまま言います」と、言葉どおりに示す
「教師に向いていないんじゃないか」と人物を評価する実習生が守りに入り、火曜の謝罪が形だけになる。言葉を変える話ではなくなる「問題にしているのは、あの一言です」と言葉に限る
「本人も笑ってたなら」と笑いを同意とみなす教室じゅうが笑っているときの本人の笑いは、やり過ごすための笑いであることが多い笑いの意味は議論せず、そのあとの35分の様子で答える
自分の落ち度を認めたあと「お互いさまだね」でまとめる実習生の責任がうやむやになり、言葉を選んだのは自分だという理解が残らない「一覧は私の落ち度、言葉は藤井先生の選択」と分ける
「評価には響かないから大丈夫」と言う約束できない。あとで評価が変わったとき、指導教員の言葉が信用されなくなる「軽くなるとも重くなるとも言いません」と両方を否定し、書く中身だけ言う
謝罪の言葉を実習生に任せきりにする「冗談のつもりで」「傷つけたなら」が入り、謝罪がレンをもう一度傷つける言うこと2つと、言わないこと2つを具体的に渡す
「次から気をつけてね」で終える何を、いつ、どうするかが残らない火曜8時10分の場と、今夜の3文を決めて終える

扱わなかった範囲

自己評価

英語版: 自分で応答を考えられた
日本語版: 自分で応答を考えられた